2025年大阪・関西万博「国連スペシャルデー」におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶(大阪、2025年8月22日)
プレスリリース 25-049-J 2025年08月22日
承子女王殿下、宮路外務副大臣閣下
各国代表閣下、各国パビリオン代表の皆様、ご列席の皆様
おはようございます。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)国連スペシャルデーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。
万博は160以上の国や機関が一堂に会する、他に例を見ない催しです。実現に向けてご尽力された日本政府、および日本の皆さまに祝意を申し上げます。
この万博を作り上げられたことは、国際的な対話や協力への日本のコミットメントの証しです。
国際博覧会は、単なる展示会ではありません。
私たちに対する行動の呼びかけでもあります。
それぞれの物語を伝えること。
それぞれが抱く希望を共有すること。
どんな世界を共に作っていきたいか、想像すること。
万博は私たちが作りたい世界について、新たな章を書き足す機会を与えてくれます。
そしてこうした精神をもっとも力強く体現しているのは、日本かもしれません。
80年前の8月、広島と長崎は原子爆弾によって壊滅的な被害を受けました。
歴史の進路が変わった瞬間でした。
その後、日本が経験したのは単なる復興ではなく、変革でもありました。
日本は、平和を選びました。
日本の皆様は、国際協力を選びました。
そして日本の皆様は、世界を前へ進める手助けをすることを選びました。
日本が国連に加盟したのは約70年前になります。それ以来、日本は核軍縮に向けてたゆまず声を上げ、平和のために寛大な支援を続け、人間の安全保障や持続可能な開発目標(SDGs)の不動の擁護者であり続けています。
日本は気候変動に関する京都議定書や仙台防災枠組など、多国間協力の最も重要な成果といえるものの幾つかを形づくる手助けをしてきました。
そして今、日本政府の寛大なご支援のおかげで、国連は大阪・関西万博に参加しています。国連パビリオンを通じて、私たちの物語を世界に伝えるために。
それはできることなら、私自身で直接地球上の一人ひとりに伝えたい物語です。
多くの人は気づいていないかもしれませんが、国連は私たちの生活に日々関わっています。
国連は毎年、1億5千万人以上の人々に食料や援助を届け、世界の子どもの45パーセントにワクチンを提供し、50カ国以上で選挙支援を行っています。
地雷対策、生物多様性、女性の権利、難民、報道の自由、安全な水…。国連は、ありとあらゆる分野における多国間の条約や協定からなる世界的なシステムを支えています。加えて、国連憲章は国際法の根幹であり続けています。
また私たちは、人類の最も偉大な成果ともいえる「勝利」も見届けてきました。
世界人権宣言。
数十にのぼる国の脱植民地化。
天然痘の根絶。
オゾン層の回復。
これらは組織としての成果ではなく、人類全体が成し遂げた偉業です。国々が共通の目的のために団結したとき、何が達成できるかを証しています。
しかしながら今日、多国間協力は脅威にさらされています。
私たちが本日、大阪に来られたことはありがたいことです。そう思う理由の一つは、私たちが組織として、常に自らの物語をコントロールできる訳ではないからです。
ニュースの見出しでは、ブレークスルー(快挙)ではなく、ブレークダウン(挫折)に注目が集まりがちです。
ウクライナ、ガザ、スーダンといった国や地域は、国際的な規範が無視され、人道原則が放棄されたときに起きうることを私たちに物語っています。
これは個人的な見解ですが、これらはまた、国連の機関、とりわけ安全保障理事会において改革が必要であることを示しています。
私たちには1945年の世界ではなく、今日の世界を代表する安全保障理事会が必要なのです。
すべての地域が公正に代表され、そして戦争の容認につながる決定やその欠如ではなく、平和を保障するための決定が下される安全保障理事会でなければなりません。
世界中の何百万人もの人々にとって、国連を見るときに安全保障理事会でなされていないことが目に映ることを残念に思います。しかしそれは国連のごく一部にすぎず、しかも明らかに改革が必要な部分です。国連の他の活動や、世界を一つにしようとする私たちの努力は、ときに忘れ去られてしまいます。しかし私は断言できます。私たちは、国連をより効果的に、より費用対効果の高いものに、より現代的に、そして私たちの時代の巨大な課題により的確に応えられるものにするために、あらゆる努力を尽くします。
その一方で不幸なことに、外交による「静かな勝利」―例えば防ぐことのできた戦争や、回避できた飢饉―。こうした出来事はほとんどニュースになりません。
しかし、こうした成果も現実のものです。意味のあることなのです。
とはいえ、2025年の世界は1945年から様変わりしました。
多国間協力のシステムは、新しい環境に適応しなければなりません。
安全保障理事会は、80年前をいまだに引きずっています。その構成は今日の現実をもはや反映しておらず、地政学的な分断によってほぼ麻痺状態にあります。
国際金融システムは不公正かつ不公平で、今日の開発途上国が直面する諸課題を適切に反映していません。
改革が極めて重要です。そのために各国首脳は昨年、「未来のための協定」を採択しました。多国間主義をより緊密にし、効果と対応力を高めるための青写真です。
さらに私たちは「UN80イニシアチブ」を打ち出しました。国連の創設80周年という節目に過去を振り返るだけでなく、改革と革新のきっかけにするためです。
私たちは、より機動的になるよう努力し続けなければなりません。より連携が取れるようにならなければなりません。気候カオス(大混乱)や人工知能(AI)、パンデミック、そして格差の拡大。私たちは、いまの時代のこうした諸課題に効果的に対応できるようより準備できていなければなりません。
権威主義的な言動が広まり、紛争の野蛮さが増し、気候非常事態が加速するなか、私たちは危機感と野心をもって行動しなければなりません。そして日本は人類と地球の未来のための取り組みにおいて、主導的な役割を担ってきてくれました。
私たちは危機の時代に生きています。ただし、それは多くのチャンス、そして責任が生まれる時代でもあります。
国連が紡いできた物語の教訓はシンプルです。「人類は団結したとき最も強くなる。」
2025年大阪・関西万博は、そんな可能性を祝う場です。
未来を描くことは政府だけの仕事ではなく、私たち全員に共有の責任がある。そのことを万博は再認識させてくれます。
女王殿下、
皆様、
私たちの物語を共に紡いでいただき、感謝申し上げます。
皆様の物語に加われることを、光栄に思います。
尊厳、平等、そして世界平和のために、共に紡ぎ続けましょう。
ありがとうございます。
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原文(English)はこちらをご覧ください。