気候行動に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長の特別演説「機会の時:クリーンエネルギー時代を加速させる」(ニューヨーク、2025年7月22日)
プレスリリース 25-040-J 2025年08月05日

各国代表の方々、
皆様、
世界各地から参加されている友人の方々、
ニュースの見出しは、苦境に立たされた世界に関するもので溢れています。
紛争や気候カオス(大混乱)で。
人々の苦しみの増大で。
地政学的分断の拡大で。
しかし、そうした混乱の中でも、新たな物語が紡がれようとしています。
その影響は、広範なものとなるでしょう。
歴史を通じて、エネルギーは人類の運命を定めてきました。火の使い方の習得から、蒸気の活用、核分裂の利用に至るまで。
私たちは今、新たな時代の幕開けに立ち会っています。
化石燃料は、終わりを迎えつつあります。
クリーンエネルギーの時代の夜明けを迎えようとしています。
お金にまつわる数値を見てみましょう。
昨年、クリーンエネルギーに投資された額は2兆ドルでした。これは化石燃料よりも8,000億ドル多く、10年間で70%近く増加しています。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が本日公表した新たなデータによると、ごく最近まで化石燃料の4倍のコストがかかっていた太陽光発電は、今や化石燃料発電よりも41%安価になっています。
洋上風力発電は、53%安価になっています。
そして、世界の新規再生可能エネルギーの90%超が、最も安価で新しい化石燃料を使った選択肢よりも低コストで発電されています。
これは単に、電力の転換にとどまりません。可能性の転換です。
そうです、私たちと気候との関係修復における転換なのです。
すでに、太陽光と風力による世界の炭素排出の削減量は、欧州連合全体の年間排出量にほぼ匹敵しています。
しかし、こうした転換は、根本的にはエネルギー安全保障と人々の安全保障に関するものです。
スマート経済に関するものであり、
ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、公衆衛生、持続可能な開発目標(SDGs)を推進することです。
そして、あらゆる場所のあらゆる人々に、クリーンで手ごろな価格のエネルギーを供給することなのです。
私たちは本日、国連機関や、国際エネルギー機関(IEA)、国際通貨基金(IMF)、IRENA、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行などのパートナーの支援を受けて、特別報告書を発表します。
報告書では、パリ協定がクリーンエネルギー革命のきっかけとなって以来、私たちが10年間でどこまで前進したのかを示しています。また、世界全体で公正な移行を加速させることで得られる莫大な恩恵と、そのために必要な行動を強調しています。
再生可能エネルギーは、すでに世界の発電設備容量では化石燃料にほぼ比肩しています。
そして、それは始まりにすぎません。
昨年、新規の発電設備容量は、ほぼすべて再生可能エネルギーに由来するものでした。
また、地球上のすべての大陸で、化石燃料の容量増加よりも再生可能エネルギーの容量増加の方が大きかったのです。
クリーンエネルギーの未来は、もはや可能性ではありません。現実なのです。
いかなる政府も、いかなる産業も、いかなる特殊利益団体もこれを止めることはできません。
もちろん、一部の化石燃料企業の化石燃料ロビーが、これを止めようとするでしょうし、どのような極端な行動に走るかもわかっています。
しかし、それが失敗するであろうことに、これほど確信を持てたことはありません。というのも、私たちは後戻りできる地点をもう越えているからです。
説得力のある理由が3つあります。
第一に、市場経済です。
何十年にわたって、排出量と経済成長は共に伸びてきました。
しかし今は違います。
多くの先進国では、排出量がピークアウトしたものの、成長は続いています。
2023年だけでも、クリーンエネルギー部門は世界のGDP成長率を10%押し上げました。
インドでは5%、米国では6%、エネルギー移行をリードしている中国においては20%です。
そして欧州連合では、33%近くに達しています。
また、今やクリーンエネルギー部門の雇用者数は化石燃料部門を上回っており、世界中で3,500万人近くが雇用されています。
米国の化石燃料産業の中心であるテキサス州でさえ、今では再生可能エネルギー産業で米国を牽引しているのです。
なぜでしょうか。それは経済的合理性があるからです。
それでも、化石燃料は世界の消費補助金において、依然として9対1の割合で優位に立っており、市場を歪めているのは明らかです。
さらに、人々と地球に対する気候被害による計上されていないコストを加えると、歪みはさらに大きくなります。
化石燃料に固執する国々は、自国の経済を守るどころか妨害しています。
コストを押し上げ、
競争力を損ない、
座礁資産を抱えています。
そして21世紀最大の経済的機会を逃しているのです。
各国代表の方々、
友人の皆様、
第二に、再生可能エネルギーが定着しているのは、エネルギー安全保障と主権の基盤だからです。
はっきり申し上げましょう。今日、エネルギー安全保障に対する最大の脅威は、化石燃料にあります。
化石燃料によって、各国経済と人々は価格ショック、供給混乱、地政学的混乱に翻弄されています。
ロシアによるウクライナ侵攻を見てください。
欧州での戦争が、世界的なエネルギー危機につながりました。
石油やガスの価格が高騰しました。
電気代や食費もそれに追随しました。
2022年には、世界の平均的な世帯の光熱費が20%上昇しました。
現代の競争力のある経済には、安定した、手ごろな価格のエネルギーが必要です。再生可能エネルギーは、その両方を提供します。
太陽光に価格の急騰はありません。
風力に禁輸措置はありません。
再生可能エネルギーは、文字どおり、そして比喩的な意味においても、その「力」を人々や各国政府の手に委ねることができるのです。
また、ほぼすべての国には、エネルギー自給に十分な太陽光、風力、水力があります。
再生可能エネルギーとは、真のエネルギー安全保障であり、真のエネルギー主権です。そして、化石燃料に伴う不安定さからの真の解放でもあるのです。
友人の皆様、
再生可能エネルギーに関して後戻りできない第三の、かつ最後の理由は、そのアクセスのしやすさです。
石炭火力発電所は、誰かの家の裏庭に建てることはできません。
しかし太陽光パネルは、地球上で最も遠隔地にある村にも供給することができます。
太陽光や風力は、化石燃料では成し遂げられなかったほど迅速に、安価に、そして柔軟に展開することできます。
原子力は、世界のエネルギーミックスの一部とはなるでしょうが、決してアクセス格差を埋めることはできません。
こうしたことのすべてが、依然として電力を利用できずに暮らしている何億もの人々にとって打開策となるのです。そして、そうした人々の大半が再生可能エネルギーの可能性に満ちたアフリカ大陸に暮らしています。
アフリカは2040年までに、必要とする量の10倍の電力を再生可能エネルギーだけで発電できる可能性があります。
すでに、小規模で発電網に接続していない再生可能エネルギー技術が、家庭の明かりを灯し、遠隔地の学校や企業に電力を供給しています。
例えばパキスタンなどでは、人々の力が太陽光の急拡大を後押ししています。消費者がクリーンエネルギーのブームを牽引しているのです。
各国代表の方々、
友人の皆様、
エネルギー移行を止めることはできません。
しかしその移行は、速度・公平性ともにまだ不十分です。
OECD諸国と中国は、世界の再生可能エネルギー発電設備容量の80%を占めています。
ブラジルとインドが10%近くを占めています。
アフリカは、わずか1.5%です。
一方、気候危機は人々の生活や生計を破壊しています。
小島嶼国における気候関連災害は、GDPの100%を超える損失をもたらしています。
米国では、気候関連災害によって保険料が高騰しています。
そして1.5°Cの上限は、かつてない危機に直面しています。
上限の目標を引き続き達成可能なものとするためには、排出量の削減と、クリーンエネルギーへの移行範囲の拡大を劇的に加速させなければなりません。
製造能力が急成長し、価格が急落し、気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が刻一刻と迫る中…
今こそが、機会の時です。
私たちは、この機会をつかまねばなりません。
そのためには、6つの重点分野で行動を起こす必要があります。
第一に、新たな国別気候計画に基づき、全力でエネルギー移行に取り組むということです。
往々にして、各国政府は矛盾したメッセージを発信しています。
ある日は再生可能エネルギーについて大胆な目標を掲げたと思えば、次の日には新たな化石燃料の補助金や拡大策を打ち出しています。
次の国別気候計画、すなわち「自国が決定する貢献(NDC)」は、数カ月のうちに提出期限を迎えます。
計画は、明確さと確実性を備えたものでなければなりません。
G20諸国がリーダーシップを発揮しなければなりません。世界の排出量の80%を占めているのですから。
共通だが差異ある責任の原則は適用されなければなりませんが、すべての国がさらに努力しなければなりません。
今年11月にブラジルで開催されるCOP30に先立って、各国は新たな計画を提出しなければなりません。
私は各国の指導者たちに対し、9月の総会ハイレベルウィーク中に私が主催するイベントにおいて新たなNDCを提示するよう求めます。それらは以下のようなものでなければなりません。
NDCは経済全体にわたる、すべての排出量を対象としている。
1.5°Cの上限に整合している。
エネルギー、気候、持続可能な開発という優先事項を、一つの一貫したビジョンに統合している。
そして、グローバルな約束を果たさねばなりません。すなわち、
2030年までにエネルギー効率を2倍に、再生可能エネルギー容量を3倍にする。
そして、化石燃料からの脱却を加速させる。
これらの計画は、2050年までに世界全体で排出量正味ゼロを実現する目標に沿った、排出量正味ゼロのエネルギー・システムへの公正な移行に向けた長期的なロードマップによって裏付けられている必要があります。
またこれらの計画は、クリーンエネルギーの未来は不可避であるだけでなく、投資が可能であることを示す政策によって下支えされている必要もあります。
明確な規制や、各プロジェクトのパイプラインを構築するための政策、
官民パートナーシップを強化し、資金やイノベーションを解き放つための政策、
炭素に意義のある価格を設定するための政策、
そして、約束どおり、化石燃料への補助金と国際的な公的資金を廃止する政策によって下支えされている必要があります。
第二に、今こそ21世紀のエネルギー・システムを構築する機会の時です。
テクノロジーは進歩しています。
わずか15年で、電力網向けの蓄電池システムの価格は90%以上下がりました。
しかし、そこには問題があります。
適切なインフラへの投資が追い付いていないのです。
再生可能エネルギー発電設備への投資額1ドル毎に対して、電力網と蓄電池への投資額は、60セントにとどまっています。
その比率は、1対1であるべきです。
私たちは再生可能エネルギー発電設備を建設していますが、電力網への接続が遅れています。
電力網への接続待ちとなっている再生可能エネルギーの量は、昨年電力網に追加された量の3倍に上っています。
そして、化石燃料はいまだに世界の総エネルギーミックスの大半を占めています。
私たちは直ちに行動を起こし、クリーンエネルギーの未来の支柱に投資しなければなりません。すなわち、
地域統合を含めた、現代的で柔軟なデジタルグリッドに。
エネルギー貯蔵の大規模拡大に。
そして、電気自動車革命を推進する充電ネットワークに投資しなければならないのです。
一方で、建物全体、輸送全体、産業全体において、エネルギーの効率化とともに、電化が必要です。
そうすることで私たちは、再生可能エネルギーの可能性を最大限に解き放ち、クリーンで、安全で、未来に適したエネルギー・システムを構築できるのです。
第三に、今こそ世界の電力需要の急増に持続可能な形で応えていく機会の時です。
より多くの人々が電力網に接続しています。
より多くの都市で気温が上昇し、冷房需要が急増しています。
そして、人工知能(AI)からデジタル・ファイナンスに至るまで、より多くのテクノロジーが大量に電力を消費しています。
各国政府は、新たな電力需要のすべてを再生可能エネルギーで賄うことを目指さねばなりません。
AIは、エネルギー・システムにおける効率性、イノベーション、レジリエンス(強靱性)を向上させることでき、私たちはその恩恵を活用しなければなりません。
しかしAIは、エネルギーを大量に必要とします。
典型的なAIデータセンターでは、10万世帯分の電力を消費しています。
最大規模のデータセンターでは、その20倍に及ぶでしょう。
2030年までに、各データセンターが消費する電力量は、今日の日本の電力消費量に匹敵する可能性があります。
これは持続可能ではありませんから、私たちが持続可能にしなければなりません。
テクノロジー部門は、その先頭に立たなければなりません。
今日私は、すべての主要なテック企業に対し、2030年までにすべてのデータセンターの電力を100%再生可能エネルギーで賄うよう求めます。
また、データセンターは他の産業同様に、冷却システムでの水の消費を持続可能な形にしなければなりません。
未来は、クラウド上に築かれつつあります。
太陽光、風力、より良い世界に向けた約束を、その原動力としなければなりません。
各国代表の方々、
友人の皆様、
第四に、今こそ公正なエネルギー移行の機会の時です。
私たちが実現しなければならないクリーンエネルギーは、あらゆる人々に公平、尊厳と機会をもたらす必要があります。
すなわち、各国政府が公正な移行を主導しなければなりません。
それは、化石燃料部門の労働者、若者、女性、先住民などに対して支援、教育、訓練を提供し、新エネルギー経済の中で繁栄できるようにすることであり、
より強固な社会的保護を提供し、誰一人取り残されないようにすることであり、
化石燃料への依存度が高く、移行に苦労している低所得国を支援すべく国際協力を行うということです。
しかし公正は、それだけにとどまりません。
クリーンエネルギー革命の原動力となる重要鉱物は、往々にして、長らく搾取されてきた国々に存在しています。
そして今、歴史は繰り返されています。
コミュニティーは不当に扱われています。
権利は踏みにじられています。
環境は破壊されています。
バリュー・チェーンの最下層に取り残された国々がある一方で、利益を得ている国もあります。
搾取モデルが不平等と被害の穴をより深くしています。
こうした状況に終止符を打たねばなりません。
開発途上国は、供給源を多様化させる上で主要な役割を果たすことができます。
国連の「エネルギー移行のための重要鉱物に関するパネル」は、人権、公正、公平性に根差した、進むべき道筋を示しています。
私は本日、各国政府、企業、市民社会に対し、国連に協力してパネルの提言を実現するよう求めます。
グリーンなだけでなく、公正な未来を築こうではありませんか。
迅速であるだけでなく、公平に。
変革をもたらすだけでなく、包摂的な形で。
第五に、私たちは、貿易と投資を活用してエネルギー移行を加速させる機会の時を迎えています。
クリーンエネルギーに必要なのは、野心だけではありません。
テクノロジー、素材、製造業へのアクセスが必要です。
しかしこれらは、ごく一部の国々に集中しています。
さらに、国際貿易では分断化が進んでいます。
貿易政策は、気候政策を支援するものでなければなりません。
新エネルギー時代にコミットする国々は、貿易と投資でそれを推進するよう、団結しなければなりません。
多様で、安全で、レジリエントなサプライチェーンを構築することで。
クリーンエネルギー製品の関税を削減することで。
南南協力を通じたものを含め、投資と貿易を解放することで。
そして、投資家と国との紛争を解決する条項をはじめとする、旧態依然の投資協定を最新化することで。
現在、化石燃料の利益団体は、こうした条項を武器として、特に複数の開発途上国における移行を遅らせています。
改革が急務です。
新しいものに向かう競争は、少数のための競争であってはなりません。
共有の、包摂的で、レジリエントなリレーでなければなりません。
貿易を変革のツールにしようではありませんか。
そして第六に、今こそ金融の力を最大限に解放し、莫大な可能性を秘めた市場への投資を推進する機会の時です。
需要が急増し、再生可能エネルギーが莫大な可能性を秘めているにもかかわらず、開発途上国はエネルギー移行から締め出されています。
アフリカは、世界で太陽光発電に適した地域の60%を有しています。しかし、昨年の世界全体のクリーンエネルギー投資額のうち、アフリカが受けた割合はわずか2%でした。
俯瞰して見ても、事態は同じく深刻です。
過去10年間で、クリーンエネルギーへの投資において、中国以外の新興国や開発途上国に向けられた額は、全体のわずか5分の1にとどまりました。
世界の気温上昇を1.5°Cに抑える目標を維持し、エネルギーへの普遍的なアクセスを実現するには、こうした国々におけるクリーンエネルギーへの年間投資額を2030年までに5倍以上に増やさねばなりません。
そのために必要なのが、大胆な国家政策であり、具体的な国際行動です。すなわち、
国際金融アーキテクチャを改革し、
国際開発金融機関の融資能力を劇的に拡大させるとともに、これらの機関をより大規模かつ大胆なものにし、合理的なコストで巨額の民間資金を活用できるようにし、
そして、債務免除に関して有効な手段を講じ、債務気候スワップなどの実績あるツールの規模を大幅に拡大させる国際行動が必要なのです。
現在、開発途上国は、時代遅れのリスクモデルや偏見、資本コストを押し上げる誤った前提が一因となって、デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスのいずれにおいても莫大な額の支払いをしています。
信用格付機関や投資家は、その考え方を最新化しなければなりません。
私たちには、リスクに対する新たなアプローチが必要です。そしてそこには、
クリーンエネルギーの約束、
気候カオスによるコスト増、
化石燃料の座礁資産化の危険性を反映させなければなりません。
私は関係者に対し、例えば石炭火力発電所の早期廃止など、一部の開発途上国がエネルギー移行において直面している複雑な課題を、団結して解決するよう要請します。
各国代表の方々、
友人の皆様、
化石燃料時代は、激しく揺らぎ、崩壊しつつあります。
私たちは、新エネルギー時代の幕開けを迎えています。
安価で、クリーンで、豊富なエネルギーが、経済的機会に満ちた世界に電力を供給する時代。
各国がエネルギー自立という安全保障を享受する時代。
電力という贈り物は、あらゆる人々への贈り物です。
そうした世界が手の届くところにあります。
しかし、それが自ずと実現するわけではありません。
スピードが足りません。
公平性も足りません。
それは、私たち次第なのです。
私たちには人類の未来の原動力となるツールがあります。
最大限に活用しようではありませんか。
今こそ、機会の時です。
ありがとうございました。
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