UN80イニシアチブに関するアントニオ・グテーレス国連事務総長ブリーフィング(ニューヨーク、2025年5月12日)
プレスリリース 25-037-J 2025年07月08日
議長、各国代表の方々、皆様、
今年6月、国連憲章は調印80周年を迎えます。
憲章は、より良い世界に向けたロードマップであり、目的と原則を定めた手引書であり、国連の活動の3つの柱、すなわち「平和と安全」「開発」「人権」を推進するための実用ガイドと言えます。
周年記念は過去を振り返り祝う時ですが、それ以上に未来に目を向ける時でもあります。
とりわけ混乱と激動の時期において、この先を見据え、核心的な問いを投げかけるのは当然のことです。
国連を可能な限り最も効率的な組織とするには、どうすればよいのか。
今日の課題、次の10年の課題、また次の80年の課題に向き合うにあたり、より機敏で、協調的で、適応力のある国連にするには、どうすればよいのか。
「UN80イニシアチブ」は、こうした問いに答えること、そして極めて不確実な時代において、この組織を備えることに重点を置いています。
そうです。今は、危機の時代なのです。
しかし同時に、多大な機会と義務の時代でもあります。国連の使命は、かつてないほど緊急性を増しています。
そして私たちは、その責任において、持続可能な開発目標(SDGs)を実現する取り組みを増大させるとともに、「未来のための協定」を、そのマルチラテラリズム(多国間主義)を強化する多数の道筋を通して実施することに全力を尽くさなければなりません。
皆様、
私は事務総長に就任した初日から、国連の取り組み方と成果を強化すべく、野心的な改革アジェンダに着手しました。開発システムの刷新は、その一例です。
私たちの共通の目的は常に、国連をより効率化し、手続きを簡素化し、重複を排除し、透明性と説明責任を強化することです。
現在直面している流動資産の危機は、今に始まったことではありません。
しかし、今日の財政・政治状況は、私たちの取り組みに一層の緊急性をもたらしています。
私たちは、マルチラテラリズムの仕組みや価値観、原則、持続可能性そのものに対する現実の脅威に直面しています。
しかし私はまた、皆様の多くから、21世紀にふさわしい、可能な限り強力な国連を実現しようという、確固たる決意と政治的意思を感じ取っています。
私たちは、今こそ立ち上がらねばなりません。
皆様、
3月11日付の私の書簡で示したように、UN80イニシアチブは3つの主要なワークストリーム(作業効率化のための一連の流れ)を軸として構成されています。
第1に、私たちは現行の体制下において、効率化と改善の領域を速やかに特定するよう努めています。
第2に、私たちは、加盟国が国連に課したすべてのマンデートの履行状況を見直しています。
そして第3に、私たちは国連システム全体にわたる構造的な変革とプログラムの再編成の必要性を検討しています。
「効率化と改善の領域」に関する第1のワークストリームでは、キャサリン・ポラード事務次長が事務局のための作業部会を率いて、国連の新たなビジネスモデルをデザイン(構想)するマネジメント戦略を策定中です。
この作業部会は、国連事務局の管理・運営におけるコスト削減と効率性強化に関する提言の策定に焦点を当てています。
作業部会は、費用便益分析や明確な実施ロードマップを示しつつ、重複を特定し、手順を合理化し、統合的な解決策のデザインを行うために、(組織の)管理機能の見直しを進めています。
優先分野は次のとおりです。
• 機能的・構造的な統合
• 人員の合理化
• 高コストな勤務地からの業務の移転
• 情報技術(IT)・支援業務の一元化
• 自動化・デジタルプラットフォームの拡大
作業部会の当面の焦点は管理・運営部門に置かれますが、事務局の他の部門も効率化のアジェンダに貢献することが期待されています。
例えば、ニューヨークとジュネーブに所在するすべての事務局組織は、部局の機能の見直しを行い、既存の低コストの拠点で実施可能な業務がないか、あるいは削減・廃止可能な業務がないかを判断するように求められています。
これは特に、ニューヨークとジュネーブに所在する政府間機関を直接支援しない部局の機能が該当します。
より広範な国連システムに関しては、4月に管理に関するハイレベル委員会において、人事管理、サプライチェーン管理、情報通信技術などの部門で、国連システム全体にわたり効率化措置が取り得ることを確認しました。
現在、具体的な提言の策定が進んでいますが、これには国連システムの各組織が提供するサービスにおいて、より迅速に、より低コストで、あるいはより競争力のある契約を通じて提供できるものがないかを特定することが含まれます。
次に、第2のワークストリームである「マンデートの履行状況の見直し」について説明します。
3月11日付の私の書簡で示したように、このワークストリームは、加盟国から付託されたマンデートを国連システムがどのように履行するのかに関するものです。
私たちが行うのは、マンデートそのものの見直しではありません。それは加盟国の皆様が決めることです。
私たちの仕事は、マンデートをどのように履行するかについて検証・報告することであり、私たちの目標はそれを簡素化し、最適化することです。
20年近く前の2006年、事務局はマンデートと「マンデートがつくられる周期」の分析を実施しました。
その結果、煩雑な報告義務、機関間・機関内における重複、扱いにくく重複した履行の仕組み、マンデートとリソース間のギャップなど、数多くの問題が特定されました。
率直に申し上げましょう。
これらの問題のほとんどが、解決していないどころか、深刻化しています。
私たちはもっと良い結果を出さねばなりません。
見直しは総体的に、つまりマンデートの全体および、その履行状況全般に着目する形で行われます。
したがって、今回の見直しは国連事務局に限ったものではなく、国連事務局から始まるものです。
私たちは、プログラム予算に反映されたすべてのマンデートの特定をすでに完了しており、国連システムの他の機関についても近々完了する予定です。
これまでの見直しを通じて、事務局だけでも3,600を超える固有のマンデートが特定されました。
現在、その検証を深化させており、多様な分析視点からこれらのマンデートを分類しています。
こうした分析作業の後、関連する機関・部局には、改善の機会や取り組みを統合する機会を特定することが推奨されます。
これにより、実施における重複や余剰、大きな相乗効果が見込める機会が特定されるはずです。
当然ながら、加盟国もこの取り組みに基づいて、自らマンデートの見直しを実施する機会を検討してください。
現時点で存在している数千ものマンデートや、それらのマンデートを履行する仕組みは、加盟国、特に代表部が小規模である加盟国や国連システムの能力の限界を、不合理なほどに超えていることに疑いの余地はありません。
それはあたかも、形式主義や大量の報告書・会合そのものが目的化することを私たちが許してきたかのようです。
成功の尺度は、作成した報告書の量や招集した会合の数ではありません。成功の尺度、つまり私たちの活動の価値や目標、目的は、私たちが人々の生活にもたらした現実的な変化の中にあるのです。
次に、第3のワークストリームである「構造的な変革」について説明します。
マンデートの履行状況の見直しによる結果から、構造的な変革とプログラムの再編成に関する提言が出される見込みです。
しかし私たちは、国連の複数の上級管理職から意見を募ることで、すでにこの取り組みを始めています。
合わせて50件近く集まった当初の意見提出は、野心と創造性の高さを表しています。
先週、国連システム事務局長調整委員会の専門会合において、構造的な変革に関するいくつかのアイデアや考え方について深掘りを行いました。
国連機関のリーダーたちからは、一致団結した強い決意と責任感を感じました。それは、システムを強化し、変革と刷新という挑戦に取り組む共通の決意であり、刷新された国連に向けた具体的かつ野心的な提言を加盟国の皆様に提示しようという団結したコミットメントです。
国連システムは非常に多様であり、さまざまな仕組みやマンデートを持つ機関で構成されています。
3つのワークストリームを推進するため、私は、UN80タスクフォースの調整の下、事務局作業部会と密接に協力し、7つのUN80クラスターを設置しました。
同類の具体的なグローバル目標や同類の活動分野に寄与している機関を、7つのクラスターにまとめています。
各クラスターは、効率化と改善の領域の特定、マンデートの履行状況の見直し、実行可能な構造的な変革というUN80の3つのワークストリームにおける取り組みを推進することになります。
クラスターは代表者レベルで管理され、次の部局・機関により構成されます。
• 平和と安全 政治・平和構築局(DPPA)、平和活動局(DPO)、テロ対策事務所(OCT)、軍縮部(ODA)が調整を担当。
• 事務局における開発 事務局における活動と開発機関における活動は大きく異なるため、開発分野に2つのクラスターを設けていますが、この2つは緊密に連携します。したがって、事務局における開発は、経済社会局(DESA)、国連貿易開発会議(UNCTAD)、アフリカ経済委員会(ECA)、国連環境計画(UNEP)が調整を担当。
• 開発(国連システム) 国連開発計画(UNDP)、国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)、国連児童基金(UNICEF)、開発調整室(DCO)が調整を担当。
• 人道問題 緊急援助調整官、世界食糧計画(国連WFP)、UNICEF、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国際移住機関(IOM)が調整を担当。
• 人権 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が調整を担当。
• 訓練と研究 国際連合大学(UNU)、国連訓練調査研究所(UNITAR)が調整を担当。
• 専門機関 国際電気通信連合(ITU)、国際労働機関(ILO)が調整を担当。
それぞれのクラスターは、具体的な提言の原動力となるとともに、私たちの時代が要請する高いレベルの野心をもって運営されます。また、「未来のための協定」に盛り込まれた呼びかけとも大いに呼応するものでもあります。
皆様、
3つのワークストリームすべてにおいて、私の目標は、可能な限り迅速に行動することです。
事務局作業部会の調整の下で策定された2026年プログラム予算(案)に影響を及ぼすイニシアチブは、9月に提出される2026年予算の改訂見積もりに盛り込まれる予定です。
ご承知のとおり、2026年予算案はすでに行政予算問題諮問委員会(ACABQ)に提出されており、現時点では変更することができません。年内の予算承認手続きに間に合うよう予算案を修正し、9月に改定版を提出します。
より詳細な分析を必要とする追加変更については、2027年プログラム予算案で提示します。
全体的な予算水準には、有意義な削減が見込まれます。
例として、平和と安全クラスターで検討している内容について説明します。
第1に、DPPAとDPOをリセットし、ユニットの統合、機能的・構造的な重複の排除、システム内の他の機関でも実施されている機能の廃止です。両部局のポスト(人員)は20%削減できると考えています。
第2に、平和維持活動の文民部門における、同様の合理化の実施です。
第3に、システム内で分散しているあらゆるテロ対策活動のOCT内への統合です。
第4に、システムの統合を視野にした、現在の地域事務所、特別代表、特使の構造の見直しです。それにより、機能性を高め、大幅な節約につながります。
DPPAとDPOについて説明したポスト(人員)の削減水準は、当然ながら各活動分野の特異性を勘案した上で、より広範なUN80の実施の基準にしなければなりません。
職員の再配置や、退職金の支給の可能性に伴い、即時の、かつ一時的な費用が発生する可能性があります。
しかし、高コスト拠点からポスト(人員)を移動することで、そうした都市におけるオペレーションコスト、人件費や人件費以外の費用を削減することができます。
すでにニューヨークでは、1棟の建物の賃貸契約を解約し、職員を他の既存施設に移動させることで大幅な節約を実現しました。また、2027年のさらに2棟の建物を賃貸契約満了時に閉鎖する予定であり、大幅な節約につながる見通しです。
当面の焦点は通常予算ですが、効率化の取り組みは、事務局全体のあらゆる資金の流れに及びます。
構造や手続きを評価し、意味のある効率化を追求する中で、難しい決断を迫られることもあるでしょう。
加盟国の分担金への影響は、何年にもわたり目に見える形で現れるでしょう。
しかし、プログラムの活動分野にも焦点を当てない限り、必要な効率化を達成することはできません。
現在、より広範な国連システムで本件に特化したアウトリーチ活動が進められており、これはすでに設置されたクラスターの取り組みの恩恵を受けるでしょう。
その他のワークストリームによって策定される追加的な提言についても、適宜、加盟国に提出され、検討されます。
変革の多くは、今年と来年の総会による承認を必要とします。
私は、進捗について加盟国と緊密かつ定期的に協議を行い、今後のあり方について助言を求め、必要に応じて、議論と意思決定のための具体的な提言を提示します。
私たちは、こうした変革の一部が国連ファミリーにとって痛みを伴うものであることを理解しています。
職員やその代表者たちとは協議を行い、意見を聴取しています。私たちの関心は、必要な再編のあらゆる側面において、人道的に、プロ意識をもって対応することにあります。
皆様、
UN80イニシアチブは、国連システムを強化し、国連を頼る人々のために成果を上げる重要な機会です。
それはまた、「未来のための協定」の実施における中心であり、
SDGsの前進において不可欠です。
私たちが奉仕する人々のニーズが、私たちの指針であり続けなければなりません。
私たちは常に原則に忠実でなければなりません。
私たちは決して核となる価値観を損なってはなりません。国連憲章の目的と原則を、永遠に堅持し続けなければならないのです。
私たちは、「平和と安全」「開発」「人権」という3つの柱が相互に強化され、人員の地理的なバランスや、国連のジェンダーや障害者に関する戦略が維持されるよう、すべての取り組みを推進していきます。
そして、すべての加盟国、とりわけ開発途上国の利益に、常に留意していきます。
皆様のUN80イニシアチブへの積極的な関与と支持は、取り組みを包摂的かつ革新的で、すべての加盟国のニーズを代表するものとする上で欠かせません。
UN80イニシアチブの成功は、私たち全員が、共有の相互補完的な的な責任を果たせるかにかかっています。
多くの決定が、最終的には加盟国としての皆様の手に委ねられています。
皆様の多くは、今こそ大胆かつ野心的にならねばならないという点で一致しています。
それこそが国連が必要としているものであり、私たちの時代が求めているものなのです。
間違いなく、この先には苦痛を伴う困難な決断が待ち受けています。
それらを無視したり、先延ばしたりする方が容易であり、魅力的ですらあるかもしれません。
しかし、その道は行き止まりなのです。
私たちには、最高レベルの野心と共通の目的を持つ以外の方法で行動している余裕はありません。
緊急性と決意を持ってこの機運を捉え、現在と将来のために、協力して、最も強力で最も効果的な国連を構築しようではありませんか。
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