「氷河保全に関するハイレベル国際会議」リーダーズ・ラウンドテーブル 第2セッション「COP30で1.5°Cと整合したNDCを提示し、2025年を 氷河保全の転換点に」におけるアミーナ・J・モハメッド国連副事務総長発言 (タジキスタン・ドゥシャンベ、2025年5月30日)
プレスリリース 25-038-J 2025年07月11日
バホードゥル・シェラリゾダ環境保護委員会議長、
各国代表の方々、皆様、
こんにちは。各国代表が集うこの会議にご参加いただき、ありがとうございます。これほど多くの環境大臣が参加されることは特に重要です。私自身、ナイジェリアの環境大臣を務めていた時に皆様の一員でした。皆様にこの場でお目にかかることができ、嬉しく思います。
今朝、私たちは地球温暖化が氷河と関連生態系に及ぼす壊滅的な影響についての話を聞きました。私たちは皆、2025年を氷河の崩壊ではなく、氷河の保全に向けた転換点の年にしなければならないという点で一致しています。
私たちはこの決定的な10年の後半を、厳しい事実とともに迎えています。世界は、持続可能な開発目標(SDGs)を達成する軌道からも、地球温暖化を1.5°Cに抑える軌道からも、外れているのです。
昨日、私はフェドチェンコ氷河上空を飛行し、この事実を目の当たりにしました。そして私たちは、スイスのアルプスで氷河が崩壊したように、その事実が破壊的な力とともに展開される話を聞きました。
すでに1.2°Cの気温上昇が見られ、その影響で記録的な熱波、海面上昇、氷河の消失、暴風雨の激甚化が起こっています。先週、世界気象機関(WMO)は、今後5年間の平均気温が1.5°Cを超える確率は70%だと予測しました。
氷河は淡水の供給を通して20億人超を支えていますが、地球温暖化の被害をほぼ真っ先に受けています。氷河の消失は、遠い先の脅威ではありません。今朝の話にもあったように、世界中の多くの人々がまさに現実に体験していることなのです。
そして私たちは、0.1°Cの差でも重要であることを理解しています。1.5°Cと2°Cの差は、生態系や食料システム、水の安全保障を守れるのか、それとも不可逆的に失うのかの差であり、一部の人たちにとっては、国の存亡に関わる差なのです。
驚くべきことに、山岳生態系は世界平均の約2倍の速さで温暖化が進んでおり、観測史上最も急速な氷河の後退を引き起こしています。
しかしながら、世界的な対応は依然として極めて不十分です。科学に基づき、希望とともに署名された、画期的なパリ協定の下で遂げた前進にもかかわらず、気温はいまだ上昇する一方です。
パリ協定は、今も私たちの北極星、つまり道しるべであり続けています。この協定は、地球温暖化を2°Cを大きく下回る水準に抑えなければならない、そして1.5°Cに抑える努力をするという世界的なコンセンサスを反映したものです。
しかし、私たちは現状について正直でなければならないと同時に、機会についても目を向けねばなりません。
私たちは、世界中で、気候野心に対する反発が高まりを目の当たりにしています。
経済成長の名の下に、行動を先送りする呼びかけも。
事実を歪め、疑念の種を蒔く化石燃料にかかわる利権も。
長期的なコミットメントを損なう政治サイクルも目の当たりにしています。
こうした環境の中、リーダーシップとは、抵抗がない中でとられるものではなく、抵抗があっても行動できる能力のことを指すのです。
今こそ、気候に関する約束を政策へと、政策を前進へと転換させる時です。
氷河を保全し、住み続けられる未来を確保するため、私は世界の指導者たちに対し、3つの重要分野を優先するよう要請します。各分野ともに、技術的な解決策だけでなく、持続的な政治的意思が必要です。
第一に、先ほど議長が述べられたように、2035年までの「自国が決定する貢献(NDC)」は私たちの軌道を変える最も直接的な手段です。NDCは、野心と信頼性を抜本的に向上させたものでなければなりません。
そこで私たちは、各国政府、特に主要排出国に対し、次のことを求めます。
科学に基づいた1.5°Cへの道筋に整合する、より強化されたNDCを提出すること。
再生可能エネルギーを3倍に、エネルギー効率を2倍にし、化石燃料から脱却するというUAEコンセンサスの指針を組み込むこと。
労働者とコミュニティーを支援する政策を含めた移行ロードマップを盛り込むこと。
そして、クリーンエネルギーへの移行の恩恵を享受できるよう願っています。
他に選択肢はありません。不作為の代償は計り知れないのです。
第二に、資金は気候行動の基盤です。資金なくして、野心は達成できません。
私たちは各国政府と各金融機関に対し、次のことを要請します。
(COP29の開催地である)バクーで合意された気候変動対策資金に関する新規目標を達成すること。
開発途上国に向けたクリーンエネルギー、適応、リスク低減への投資に、民間資本を動員すること。
気候変動に脆弱な国々、特に氷河に依存している国々を、助成金や譲許的融資で支援すること。
また、より迅速で、より公平で、より包摂的なアクセスを実現するために、国際金融機関の改革を求めます。
いかなる国も、流動性や信用格付けの不足を理由に、気候カオス(大混乱)からの保護を受けられないようなことがあってはなりません。
そして第三に、グローバルな気候戦略における氷河の保全の位置づけを周辺から中核に移行させなければなりません。
私は次のことを要請します。氷河保全のための科学、資金調達、政策に関する行動において連携を強化すること。
山岳地域における早期警報システム、氷河の監視、現地の適応戦略に投資すること。
対応策の策定にあたり、先住民およびコミュニティーが主導する知識を認識すること。
氷河の融解は、単なる兆候ではありません。それは、私たちが行動しなければ、これらの危険信号が臨界点に変わるというシグナルなのです。
皆様、
私たちは、指導者たちが直面している重圧を理解しています。1.5°Cへの道筋は狭く、政治は困難が伴います。しかし、科学と経済(が指し示すもの)に疑う余地はなく、対応の遅延がもたらす結果は容認し得ないものなのです。
私たちは、氷河の保全は特異な問題ではないと明確に認識しなければなりません。世界の水の安全保障、災害に対するレジリエンス(強靱性)、そして地球の安定にとって、中心的な課題なのです。さらに、平等や、世代間の正義、そして最も脆弱な立場に置かれた人々の権利の擁護に関わることでもあるのです。
経済発展か環境保護かという、誤った二項対立を拒否しようではありませんか。技術や解決策、リソースは確実に存在しています。必要なのは、それらを緊急かつ大規模に展開する政治的意思です。
2025年を、世界がその流れを変えた年として、語り継がれる年にしようではありませんか。
宣言だけでなく、実際の決断によって。
現状を維持するのでなく、新たな軌道を描くことによって。
私たちが誠実に、緊急に、そして連帯して行動することを選択するなら、たとえ今ほど遅れた段階であっても、氷河の消失の物語が人類のレジリエンスの物語に変わる可能性があると、私は信じています。
氷は溶けつつあります。機会は失われつつあります。
でも未来は、まだ私たちが形作ることができるのです。
ありがとうございました。
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