気候危機と持続可能な開発の危機に同時に対処すると40%のコスト削減に ― 新たな報告書が可能性を指摘(2025年9月24日付 プレスリリース・日本語訳)
プレスリリース 25-066-J 2025年10月14日

研究によって明らかな便益が証明される中、各国政府にはシナジーの追求が求められる
ニューヨーク、2025年9月24日 — 国連の招集した専門家グループが発表した報告書によると、気候危機と持続可能な開発の危機に同時に対処することで大規模な効率化が実現し、これらの危機への対応に必要とされる政府支出を40%近く削減できる可能性があります。
国連総会ハイレベルウィーク期間中の「気候サミット」に先立ち、本日、気候変動とSDGsのシナジーに関する独立の専門家グループがまとめたグローバル・レポート第3弾『Harnessing Climate and SDG Synergy: Quantifying the Benefits(気候とSDGのシナジーの活用:便益の定量化)』が発表されました。これは、パリ協定に基づく気候目標や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた前進が、軌道から大きく外れる中で行われた発表です。SDG行動における資金ギャップは年間4兆米ドル超、気候行動における資金ギャップは年間6兆米ドル超に上っています。
「気候危機と開発危機は切り離せません。それらは相互に深く結びついているのですから、解決策もそうでなければなりません」李軍華(リ・ジュンファ)国連経済社会問題担当事務次長と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は、専門家グループを共同招集した両機関を代表し、報告書の序文でこのように共同で声明を発表しました。両氏は報告書が、より統合的なアプローチに向けた「解決策とロードマップがある」ことを示していると述べ、省庁や部門の垣根を越えた協力、つまり社会全体によるアプローチを呼びかけ、こう締めくくりました。「人々と地球のために、変革のためのこの機会の時をつかもうではありませんか」
専門家による同報告書は、極めて重要な時期に発表されました。各国は2025年に、パリ協定に基づいた新たな国別気候コミットメントを策定し、その一部が「気候サミット」で発表されるため、今年は、シナジー(相乗効果)を生む行動がもつ可能性を最大限に引き出せる極めて重要な機会です。報告書は、これらの「自国が決定する貢献(NDC)」が気候行動と持続可能な開発、SDGsのすり合わせを行う主要なメカニズムになり得ると指摘しています。報告書はまた、「コベネフィット(共便益)」の2つの事例を挙げ、NDCにおいては、生物多様性に対する行動を盛り込むとともに、排出量や大気汚染の削減がもたらす都市部の人々の健康へのプラスの影響を認めるべきだと主張しました。
報告書は、シナジーを生む戦略を各国固有の開発目標・気候目標に合致させることで、投資が最も必要とされている分野に向けて行われ、気候行動により社会・経済・環境にわたるいくつもの便益がもたらされることを確実にすると示唆しています。現在、「ガバナンス、財政、政策にわたる分断が前進を妨げており、効果的で包摂的な行動のためには改革が求められている」と指摘しています。
報告書は民間セクターによる投資が不可欠であると述べつつ、インセンティブのすり合わせをし、経済的価値を立証し、シナジーを生む行動を通じてリスクを軽減することで、各国政府は民間資金を活用し、効果を増幅させることができると論じています。
増えるエビデンス
この報告書の各項目の結論は、統計モデルに基づき、すべてのNDCの達成するための温室効果ガス排出削減目標の達成にかかるコストと人間開発指数で測定される特定の開発目標の達成にかかるコストを用いて作成されています。一方、モデリングによれば、シナジーを生むように資金配分を行うことで、政府支出の総額を最大37%削減できる可能性があります。専門家グループは、今後の報告書では分析を拡大し、救われる人命などの社会的価値を含むその他の便益についても追加する予定です。
報告書では、専門家グループによる過去2年のグローバル・レポートや大きな効果を生む可能性のある特定のシナジーを検証した詳細なテーマ別報告書を基に、シナジーを生む政策と行動には明らかな便益があることを示すエビデンスの拡大に寄与しています。報告書に挙げられている事例は、以下の通りです。
- 生物多様性の保全や生態系の回復などの自然を中心とした気候変動解決策は、2030年までに必要とされる費用対効果の高い二酸化炭素の緩和を最大37%実現できる可能性があります。
- 化石燃料の段階的廃止、自転車や徒歩による移動の推奨、植物由来の食事の推奨などの都市政策により、気候と健康に大きなコベネフィットをもたらせる可能性があります。
- 災害による被害に対して保険が適用されているのはアフリカではわずか0.5%にとどまっており、適用範囲が1%拡大する毎に各国がSDGs達成に5.8%近づくことを踏まえると、災害保険を開発計画に盛り込むことでレジリエンス(強靱性)を強化することができます。
気候とSDGのシナジーをめぐる政治的機運は、年次会議などを通じて高まりつつあり、前進を阻んでいる組織の壁を打破する必要があるという認識が強まっています。報告書の提言は、11月にブラジルで開催予定の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)を含むさまざまな会議において、引き続き議論される予定です。
多様な経歴や研究機関から選出された17名の専門家グループは、ルイス・ゴメス・エチェベリ氏(国際応用システム分析研究所)とハイディ・ハックマン氏(ステレンボッシュ大学評価科学技術研究センター(CREST))が共同で主導しています。
報告書の全文は、こちらでご覧いただけます。
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原文(English)はこちらをご覧ください。