本文へスキップします。

  • プリント

ここから本文です。

持続可能で平和な未来のために世界の軍事支出の再調整を(2025年9月9日付プレスリリース・日本語訳)

プレスリリース 25-062-J 2025年09月23日

記録的な軍事支出が世界の平和と開発を脅かしている、と国連の新たな報告書が警鐘

ニューヨーク、202599 — 10年にわたる軍備増強を経て、世界の軍事支出は2024年に過去最高を記録し、2023年から9%以上急増するとともに、国連憲章の原則から危険なほどに逸脱していることを示唆しています。

地政学的な緊張と不信が世界中で前例のない死と破壊に拍車をかけている時代の最中にあって、国連事務総長の報告書『The Security We Need: Rebalancing Military Spending for a Sustainable and Peaceful Future(私たちが必要とする安全保障:持続可能で平和な未来のために世界の軍事支出の再調整を)』は国連加盟国に対し、安全保障と開発の優先順位を再調整するよう要請しています。

「エビデンスは明らかです。過剰な軍事支出は平和を保証しません。軍拡競争を助長し、不信を深め、安定の基盤そのものからリソースを転用することで、往々にして平和を損なうのです」報告書を公表するにあたり、アントニオ・グテーレス国連事務総長はこのように述べました。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、世界の軍事支出は昨年に2.7兆ドルに達し、現在の傾向が続けば2035年には6.6兆ドルに達すると予測されています。資源の大規模な転用は持続可能な平和と開発を阻害するため、人類の未来に対する深刻な脅威となっています。

報告書はさらに、明白なパラドックスを明らかにしています。軍事支出が記録的な水準にまで急増する一方で、世界は、より公平な未来のための人類の青写真である持続可能な開発目標(SDGs)の2030年の達成期限に向けた軌道からは大きく外れているのです。SDGsのための年間資金ギャップはすでに4兆ドルに達し、今後数年で6.4兆ドルに拡大するおそれがあります。

経済、人々、地球への重い負担

世界の軍事支出は絶対額で増加しているだけでなく、世界経済に占める割合も上昇しています。2022年以降、軍事支出の比率は、世界の国内総生産(GDP)の2.2%から2.5%へ、政府予算の6.6%から7.1%へと、それぞれ上昇しています。この変化は広がりを見せており、2024年だけで100を超える国々が軍事支出を増額しています。

さらに、開発資金は軍事支出の増大ペースに追いついていません。政府開発援助(ODA)は、開発資金ギャップが拡大している中で減少していると、報告書は警鐘を鳴らしています。

軍事支出の増加は、ただでさえ高い水準にある公的債務をさらに膨らませ、将来世代の負担になるだけでなく、その発展の制約にもなることが見込まれています。例えば、低・中所得国で軍事支出が1%増加すると、公衆衛生サービスに対する支出がほぼ同じだけ減額され、パンデミックへの備えやその他の命を救うための保健プログラムを危険にさらすおそれがある、と報告書は明らかにしています。

中満 泉国連軍縮担当上級代表は、次のように述べています。「私たちには、人を中心とし、国連憲章に根差した安全保障についての新たなビジョンが必要です。国境だけでなく人々を守る、そして、制度や公平性、地球の持続可能性を優先するビジョンです。世界の優先事項を再調整することは、選択ではなく、人類の存続のために不可欠です」

人々の不安がますます増大し、相互に関わる新たなリスクが浮上し、不平等が拡大しているこの世界の転換点において、この報告書は重要な提起を行っています。

私たちの共有の未来に向けた投資

「私たちは、亀裂が深まり、政府開発援助が減少し、人間開発における前進が停滞する世界にいます」徐浩良(ハオリャン・シュウ)国連開発計画(UNDP)総裁代行は、こう述べています。

「しかし私たちは、開発が安全保障の原動力であること、多国間開発協力が機能することを知っています。人々の生活が改善し、皆が教育・医療保健・経済的機会にアクセスでき、尊厳と自己決定に基づいた生活を送ることができれば、私たちはより平和な社会、より平和な世界を実現することができるでしょう」

報告書は、世界の安全保障・開発戦略を根本的に再調整して、現在の軍事支出の増大傾向を逆転させるために外交と国際協力を優先することを求めています。報告書は持続可能な開発に向けた投資を明確に呼びかけています。なぜなら、たとえ軍事支出のごく一部であったとしても、それは人々の生活に多大な変化をもたらすことができることからです。

2030年までに飢餓に終止符を打つために年間で必要な額(930億ドル)は、世界の総軍事支出2.7兆ドルの4%にも及びません。10%強(2,850億ドル)あれば、すべての子どもたちがワクチン接種を完全に済ませることができます。5兆ドルがあれば、低所得国・下位中所得国のすべての子どもたちに質の高い教育を12年間提供するだけの資金を確保できるのです。

さらに、軍事支出は雇用を生むものの、他の民間部門であれば一般的に同じリソースでより多くの雇用の創出につなげることができます。軍事支出10億ドルは軍で約11,200人の雇用を生みますが、教育に支出すれば26,700人、クリーンエネルギーなら16,800人、医療なら17,200人の雇用創出につながります。

世界の軍事支出の15%かまたは3,870億ドルの投資先を変えれば、開発途上国における気候変動への適応にかかる年間コストを賄って余りある状況です。またそれは、排出原単位の削減にもつながります。いくつかの推計によると、軍事に1ドルを費やした場合、民間部門に1ドルを支出した場合と比べ、温室効果ガスの排出量が2倍になるとされています。

報告書について

国連加盟国は、世界的な軍事支出の増大が持続可能な開発と平和に向けた投資に及ぼしうる影響について懸念を表明し、事務総長に対して、世界的な軍事支出の増大がSDGsの達成に及ぼす影響について分析するよう要請しました。これは「未来のための協定」に記載されているように、「未来サミット」の主要な成果の一つです。

事務総長による報告書は、国連加盟国、国連の専門機関、研究機関、市民社会組織などのステークホルダーからの幅広い情報提供や協議に基づいて作成されています。

国連憲章について

報告書は軍事支出の増大が、武器に頼ることなく、また武力を行使することなく平和的に紛争を解決するという国連の目標や原則、目的そのものに逆行していることを指摘しています。

軍事支出の削減は、国連憲章に盛り込まれた最も直接的かつ具体的な軍縮目標の一つです。第26条は安全保障理事会に対し、「世界の人的及び経済的資源を軍備のために転用することを最も少なくして」国際の平和と安全を促進・維持するよう指示しています。

メディア関係者のお問い合わせ先:

Devi Palanivelu | palanivelu@un.org

Oisika Chakrabarti | oisika.chakrabarti@un.org

* *** *

原文(English)はこちらをご覧ください。