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COP27:生物多様性を守ることは、パリ協定を守ること(UN News 記事・日本語訳)

2022年12月23日

コンゴ民主共和国のオカピ保護区に生息する野生動物 © FAO/Thomas Nicolon

 

2022年11月16日 — 気候危機と生物多様性の危機は長い間、別々の問題として扱われてきたが、気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)で強調されたように、現実には、自然の保護と再生に緊急に取り組むことなくして地球温暖化を1.5℃に抑える実現可能な道筋はないことが明らかだ。

196カ国が批准している生物多様性保全のための法的拘束力をもつ国際文書である、国連生物多様性条約(CBD)のエリザベス・ムレマ事務局長は、UN Newsに対し「(気候と生物多様性の)2つは同じ見方で捉える必要があり、一方が他方より重要ということではありません」と述べています。

エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催中のCOP27の「生物多様性デー」から2週間後には、生物多様性の喪失を逆転させることを目的として、カナダのモントリオールでCBD第15回締約国会議(COP15)のハイレベル会合が開催されます。

クリスティアーナ・フィゲレス元国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長をはじめとするパリ協定の主要な立役者4人は、来たる(CBDの)COP15において、生物多様性に関する「野心的かつ変革的な」国際合意を実現するよう、世界の指導者たちに正式に要請しました。

「気候と自然の課題は絡み合っている。2030年までに自然の喪失を食い止め、逆転させるための緊急行動をとりつつ、経済の急速な脱炭素化を図る努力を強化し続けることによってのみ、パリ協定の約束の達成に希望が持てる」と声明で述べています。

オウム Unsplash/Alan Godfrey

 

気候と生物多様性の関連性について

国連環境計画(UNEP)は、生物多様性の喪失がすでに地域的・世界的な気候変動に著しく影響を及ぼしていると説明しています。

自然生態系は気候の調節に重要な役割を果たし、炭素の隔離や貯蔵に役立つ一方で、森林の喪失や湿地の枯渇などの環境劣化が気候変動に著しく影響を与えています。

UNEPによると、例えば、森林の伐採や劣化を減らし、生態系を再生する取り組みは、温室効果ガスの年間排出量の削減に寄与する可能性があります。

UNEPのインガー・アンダーセン事務局長は UN News に次のように述べています。「自然や自然のインフラ、森林、サンゴ礁、マングローブ、海岸林に投資すれば、高潮から身を守ることができます。それらは生物種の生息地となるだけでなく、炭素を貯蔵することもできます。つまり(気候変動の)緩和と適応の両側面があるのです」

COP27に見る、サンゴ礁の新たな保護活動

一方で、生物多様性は特に開発途上国において、それを保護するためのリソースが限られていることから、異常な気象や気温の影響を受けています。生物多様性に最も富んだ17カ国のうち15カ国がグローバル・サウスに位置しており、これは憂慮すべきことです。

気候変動が生物多様性に及ぼす影響は、すでに目に見えて明らかです。特に、多くの動物種はすでに移動パターンの変更を余儀なくされています。植物は気温の変化に適応するのに苦しんでいます。そしてもちろん、地球温暖化の「象徴的動物」であり極めて脆弱な立場にあるホッキョクグマは、温暖化に伴う海氷不足によって北極で飢えています。

Deutscher Wetterdienst/Karolin Eichler

 

海洋においては、生物学者たちが別の悲劇を目の当たりにしています。7,000種以上の生物種に食べ物と住処を提供しているサンゴ礁が、海水の温暖化と酸性化によって死滅しつつあるのです。

UNEP親善大使のエリー・ゴールディング氏は、COP27において、こうした群体動物の保護を目的とした新しい取り組みを立ち上げました。

先週、同氏はシャルム・エル・シェイク沖の紅海で、探検隊を率いました。

「そこには、まさに絶景が広がっています。ダイビングのマスクを装着して泳ぎ続け、色鮮やかなたくさんの海洋生物を目にすると、すべての生命が目の前を泳いでいるように感じられます。そして、サンゴ礁は海底のごくわずかなパーセンテージを覆っているだけなのに、既知の海洋生物種の4分の1を支えているのだということを思い知らされました」とパネルディスカッションで語りました。

ゴールディング氏は、1.5℃の温暖化でもサンゴ礁の70~90パーセントが失われ、2.0℃の温暖化ではその割合が99パーセントと憂慮すべき水準に跳ね上がると参加者に伝えました。

「世界で最も気候変動に強いサンゴ礁の一群が、偶然にもここシャルム・エル・シェイクの足元にあるのです。これは普通のサンゴ礁ではありません。自然界の偉大な生き残りのひとつであり、将来的に他のサンゴ礁を再生させる鍵になる可能性があります」と説明しました。

シンガーソングライターであるゴールディング氏は、気候変動対策資金の0.01パーセント未満しかサンゴ礁の保護に充てられていないのは「侮辱的」だと指摘しました。

「私は世界の指導者たちに対して、サンゴ礁が私たちの最も偉大な共有資産のひとつであることを認識し、資金調達や再生・保護に極めて真剣に、野心的かつ競争的に取り組むように求めます」


アマラカエリ共同保護区(RCA)は、ペルーのアマゾンのマドレ・デ・ディオス州で、ハラクブット族、イネ族、マチゲンガ族の10のコミュニティーが管理している40万2,335.96ヘクタールの自然保護地域©UNDP Peru

森林、アマゾン、そして約束

昨年グラスゴーで開かれたCOP26では、森林保護を目的とした重要な誓約がなされました。

「そのいくつかは実現に向かって動き始めています。しかし、議長国エジプトがCOP27を『実行のCOP』と位置づけたのには理由があります。こうした誓約や約束は、実際の行動を伴わねばならないからです」UNEPのアンダーセン事務局長はこう強調しました。

先週は欧州連合(EU)も、ガイアナ、モンゴル、コンゴ共和国、ウガンダ、ザンビアでの森林破壊を逆転するための新たな協力の枠組みを発表しました。

ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ次期大統領は多くの聴衆を集め、アマゾンにおける違法な森林伐採との闘いに極めて強い姿勢で臨むことを強調しました。また、2025年に予定されるCOP30の開催国に立候補する意向も明らかにしました。

ルーラ氏はさらに、自身の率いる新政権に先住民省を創設すると発表しました。

ルーラ氏の発表を受け、アンダーセン事務局長は「彼はアマゾンと熱帯林に大きな重点を置くでしょう。そして、それはもちろん、気候や生物多様性、アマゾンの人々にとって大きな利益となります」と述べました。

COP27議長国のエジプトもまた、生物多様性の保護にする一連の取り組みを発表しました。

COP27で抗議する先住民の活動家 © UNFCCC/Kiara Worth

 

「今すぐ行動が必要」

COP27の開幕以降、強い存在感を示してきた先住民の活動家たちは、私たちの地球の生物多様性の守護者であることから、この日は特に強く主張を行いました。

ブラジルの若き活動家、アドリアナ・ダ・シルバ・マフィオレッティ氏は「私のコミュニティーはわずか1年の間に2度もサイクロンに見舞われ、都市(全体)が完全に破壊されました。もうこのような暮らしはしたくありません。私たちには安全な空間、安全な地球が必要なのです」とUN News に語りました。

また、世界の指導者たちが先住民を搾取するのではなく、先住民のリーダーシップに耳を傾けることを望んでいると付け加えました。

「先住民たちは、最も持続可能な生き方をしています。ですから、私たちは彼らから学ばなければならず、この闘いで先住民たちを脇に置いてはなりません。私たちは地球の生物多様性の80%以上を保護しているのです」

ダ・シルバ・マフィオレッティ氏は、気候変動との闘いにおいて、先住民の声や経験、考え方が最優先されるべきだと強調しました。

「これは明日のことでも、10年先のことでもありません。私たちが今すぐにやるべきことです。気候危機は今まさに人々に影響を与え、命を奪っているのです。だから今すぐに行動しなければならないのです」と訴えました。

コロンビアのグアユ・コミュニティーのイェニリン・アウリエレン・ルボ・ボニベント氏も、UN Newsに「私たちはこの闘いをあきらめるつもりはありません。採取企業や、私たちに相談もなく進められている一部の風力発電プロジェクトも、母なる大地、私たちの資源、私たちの薬に影響を及ぼしています」と話しました。

彼女は、気候変動の影響を最も受けている地域の一つ、コロンビア北部のラ・グアヒーラ県の出身です。

生物学者でもある彼女は、現在、自身のコミュニティーの少女たちに科学を教えています。

「私たちは声を上げ、科学を先祖から伝わる知識と組み合わせて活用する必要があります。それが気候変動と闘う鍵になります」

COP27会場(エジプト、シャルム・エル・シェイク)© UN News/ Conor Lennon

 

交渉についての最新情報

交渉に関して、COP27議長国のエジプトは16日、残念ながら多くの代表団がいくつもの交渉を「留保」していると報告しました。

COP27議長国特別代表のワエル・アボウマド大使は記者団に対し「現在の状況では、協力や協調への意欲がもっと見られると期待していたのですが、様々な交渉の場からあがってくる報告を目にするとそうではありません。私は判断を保留します。おそらく最後になれば、よりオープンで協調的な姿勢を示す国や代表団が出てくるでしょう」と述べました。

また、交渉担当者たちが初めて「損失と損害」の項目を含む議題を採択した際は、最後の1時間にようやく「突破口」が開けたと付け加えました。

UN Newsが取材した小島嶼国連合(AOSIS)の交渉担当者、ルアンナ・ヘイズ氏は、現時点での議論は特に希望が持てるものではないと認めました。

「全体的に物事の進展の仕方について、とても気がかりです。もちろん、損失と損害は重要な問題であり、AOSISがこのCOPに求めている重要な成果なのですが、物事はまだまとまる様子を示していません」と言います。

特別代表のアボウマド氏は、交渉担当者にメッセージを送り、すべての代表団は自国の利益を考慮しなければならないながらも、(気候変動の)状況は科学的報告が示すように悲惨である、と念を押しました。

「交渉の場にいる代表団がこのことを心に留め、言葉ではなく行動と実行で進捗を示す必要があることを自覚するよう願っています」と語りました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。