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気候変動は放牧民の女性たちも直撃 (Africa Renewal 記事・日本語訳)

2019年08月26日

異常気象の厳しい影響に直面し、助けを求め始めたケニアの放牧民女性たち

筆者:シャロン・バーチ=ジェフリー
『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』2019年8-11月号に掲載

ケニア、サンブル族の人々。サンブル族の放牧民女性は、気候変動の影響に苦しんでいる

気候変動と聞けば、氷河の融解や海水面の上昇、熱波の長期化と激化、その他の極端で予測できない気象パターンのことを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、ケニアの半乾燥地で牧畜を営む放牧民の女性たちにとって、気候変動は日常生活の劇的な変化を強いる存在となっており、その中には水を得るための長く、時に危険を伴う旅が含まれます。

気候の乾燥化に直面した遊牧民の女性たちは、水汲みにはるかに長い時間を費やさねばならなくなりました。これによって、生産的な経済活動に避ける時間が減り、貧困の悪循環がさらに深刻化しています。

社会から隔絶された集団

「女性は水汲みや薪集めの役割を担っています。食事を用意するのも女性です。女性は自分の子どもだけでなく、家畜の子どもの世話もしています」ケニアの人権活動家で放牧民でもあるアグネス・レイナさんは『Africa Renewal』のインタビューに応え、こう語っています。

レイナさんは2011年、「Il’Laramatak Community Concern(ララマタク・コミュニティー・コンサーンズ)」という団体を設立しました。放牧民の女性が大きな責任を担っているにもかかわらず、不十分な土地の権利しか与えられず、また、コミュニティーの指導者層から排除されたり、意思決定に加えてもらえないことが多かったためです。

今年、レイナさんはニューヨーク国連本部の女性の地位委員会に招かれ、マサイ族の権利の擁護を主張する機会を得ました。マサイ族はケニア北部、中部、南部の各地を季節移動しながら暮らす、ニロート族の放牧民です。レイナさんは気候変動によって、その状況がさらに悪化していると言います。

レイナさんの団体は、気候変動によって女性が被る所得の喪失に取り組むため、ビーズやマット、乳製品の作り方と売り方を教えるプログラムを立ち上げました。また、女児のレジリエンスを高める一環として、自分たちで目標を設定できるツールも提供しています。

レイナさんによると、以前は母親の家とあまり離れていない川から約30分かけて、20リットルの水を運んでいましたが、それでも洗濯や食器洗い、水浴びに足りる量ではありませんでした。しかし、川の水が枯れ始めると、状況は変わりました。水汲みに必要な時間は「1時間、そして2時間へと増えました。当然のことですが、水がなくなって、多くの人が残ったわずかな水を汲むために列を作るようになったからです。そして突然、川は完全に干上がってしまいました」

そして今は「別の川へと足を運び、水汲みだけでも1時間くらい歩かなくてはならなくなった」と言います。

その結果、14歳から16歳の少女は、水を探しに行っている間に野生動物に襲われたり、性的暴力を受けたりするリスクを抱えるようになりました。宿題をやる時間もなくなり、罰を受けることを恐れて学校に行かなくなる子どもも多くなっている、とレイナさんは言います。

こうした現実に意欲をなくし、「仕方なく町で水を持っている男性を見つけて結婚する」少女たちがいることも、レイナさんは残念そうに認めます。

アグネス・レイナさん

気候変動で、児童婚を求める圧力も強まっています。放牧民のコミュニティーでは、家畜がステータス・シンボルです。土地が荒れて家畜を失えば、父親は代わりの牛を手に入れるため、若い娘を嫁がせなければならないこともあります。

アフリカは気候変動の影響を非常に受けやすくなっています。国連環境計画(UNEP)は、天水農業による収量が来年までに半減する国もあると予測しています。ブルキナファソやマリ、ニジェールといった国々は、土地劣化と砂漠化によって特に大きな打撃を受けています。

「ほとんどのアフリカ女性は農牧業など、雨水に基づく生計システムに依存しています。そのため、気候パターンがシフトすれば、女性、特に農村部で暮らす女性に大きな影響が及びます」こう語るのはUNウィメンで東・南部アフリカの気候変動対応型農業に関する地域政策顧問を務めるファトゥマタ・シセー氏です。UNウィメンのマンデートは、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントの推進にあります。

国際農業開発基金(IFAD)によると、従来型の農業が困難または不可能な厳しい環境下の遠隔地で生計を立てている遊牧民は、全世界で2億人近くに上ります。

ベルギー連邦公共サービスの国際開発援助プログラムのオンライン・マガジンGlo.beは、ケニアの放牧民が東アフリカで生産される肉のうち、最大で90%を賄っていると報告しています。世界銀行によると、ケニアの畜産部門は同国の国内総生産(GDP)の12%を占めています。

よって、気候変動は同国の経済に深刻な影響を及ぼすことになります。

2014年、ケニア農業・畜産・水産省は国際家畜研究所と世界銀行からの支援を受け、気候変動の影響を受けやすい放牧民向けの家畜保険プログラムをスタートさせました。このプログラムは女性の放牧民も一定程度、救済しています。

テクノロジーで救いの手を

UNウィメンは、女性の土地保有を確保するための取り組みも展開しています。また、Standard Bank of Africaと連携し、信用へのアクセス提供など、女性が農業部門の障壁を克服するための支援も行っています。

レイナさんは、テクノロジーが集中豪雨後の雨水消失を抑えるうえでカギを握ると語っています。例えば風車技術を導入すれば、女性は地下300フィート(100メートル弱)にある水を利用できるようになります。レイナさんは、そのコストが放牧民女性の資力を越えている点を問題点として指摘し、当局の支援を期待しています。

ケニア農村部には藁葺屋根の家もかなり見られ、トタン屋根の家と異なり水を各戸の貯水タンクに蓄えておくことができません。有料の給水車によるサービスを利用すれば、1タンク当たり最大60ドルで貯水タンクを満たすことができますが、農村部にこの費用を負担できる世帯はほとんどありません。

放牧民女性は厳しい状況に置かれています。だからこそレイナさんは、気候変動が放牧民の生計に与えている脅威に対する認識を向上させることで、ケニア政府とその国際パートナーの関心、そして支援も得られるのではないかと期待を寄せています。

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原文(English)はこちらをご覧ください。