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事務総長報告
『国連への投資:世界的な組織強化を目指して』

プレスリリース 06/016-J 2006年03月22日

フィー・アナン国連事務総長は2006年3月7日、国連事務局の改革案をまとめた事務総長報告『国連への投資:世界的な組織強化を目指して(Investing in the United Nations: For a Stronger Organization Worldwide)』を発表しました。以下は、その要旨部分です。

 

要 旨

今日の国連は、60年以上も前にサンフランシスコ講和会議から生まれた組織とは姿をまったく異にしている。その規範的活動の重要性と具体性に変わりはない。しかし、国連はこの10年間に、人権から開発に至るまで、実に幅広い分野で活動を劇的に拡大した。なかでも、平和維持の規模が4倍に膨れあがったことは特筆すべきである。国連は今日、新たな幅広いミッションを抱え、平和維持予算額は50億ドル、現地に展開中の平和維持要員は8万人に上っており、それにはニューヨークの本部で働く職員の2倍以上の文民スタッフが雇用されている。要するに、国連はもはや、わずか数カ所の本部で会議の事務局を務めるだけの組織ではなくなったのである。国連は今や、援助を必要とする人々の生活改善を図るため、世界中で活動する極めて多岐にわたる機能をもつ組織へと進化している。

このように、活動範囲が急拡大したことで、国連事務局全体(その規則、構造、システム、文化)の抜本的な見直しが必要となった。現在まで、これは実現していない。国連で最も貴重な資源である職員は、能力の限界ぎりぎりで働いている。しかも国連の管理システムでは、このような職員の労に報いることができなくなっている。

これまでの改革努力は、いくつか目覚ましい改善をもたらしたが、国連の弱点の根本的原因ではなく、単にその症状に取り組んだだけで、新たなニーズや要件に十分に取り組めていないこともあった。本報告書では、2005年9月の世界サミットで全ての国連加盟国の指導者から寄せられた要請に応じ、将来の事務総長がその管理責任を実効的に遂行できるようにするために、私が必要と考える措置、および、国連全体がその経営資源と人材をよりよく活用できるようにするための措置を提案する。21世紀の具体的な課題に備え、国連の改革に踏み切るチャンスが、今まさに訪れたといえる。このようなチャンスは次の世代まで望めないかもしれない。それはまた、戦略的な方向性を定め、業績についての説明責任を事務局に問うために必要なツールを加盟国に与えるチャンスでもある。

この最終目標を達成するためには、国連事務局と加盟国が、現在行われている監査制度と内部的公正の見直し(どちらも国連を強化、活性化し、透明性を高めるために不可欠だが、現在は個別に進行中)を、その他相互関連性のある6つの広範な分野での大がかりな改革と結びつける必要がある。本報告書では、これら6分野と、変革管理それ自体の問題に関し、詳細な提案を行う。下記に23の提案をまとめる。

I.人材
国連スタッフの技能は目下のニーズに合っていない。最も優秀な人材が得られるとは限らないばかりか、特に現地で採用した職員のキャリア開発に用いる資金も不足している。熟練管理者の数はあまりにも少ない。また、国連では現地スタッフの技能と経験がますます必要とされているにもかかわらず、これら職員はシステムに組み込まれていない。これに取り組むため、

1. 積極的で対象を絞った募集・採用をより迅速に行うべきである。
2. 本部スタッフと現地スタッフの垣根を取り外し、異動の柔軟性を高めるべきである。これを勤務条件に含めるだけでなく、昇進の必要前提条件とすべきである。また、スタッフを横異動させる事務総長の権限を再確認、拡大すべきである。
3. キャリア開発は対象を絞った研修、昇進の際の義務的要件および昇進の道の多様化を通じて促進すべきである。
4. 契約の合理化と勤務条件の調和を図るべきである。

II.リーダーシップ
現行の事務局最高幹部の体制は、大規模で複雑な業務の管理に適していない。また、最高総務責任者である事務総長に直接報告を行う者が多すぎる。これに取り組むため、

5. 事務総長が副事務総長の役割を見直し、事務局機能の管理と全般的な指揮に関する正式な権限と説明責任を移譲すべきである。
6. 現在、事務総長に直接報告を行っている25の部局などを再編し、報告にまつわる作業を大幅に減らすべきである。
7. 募集採用、研修、キャリア開発をカバーする本格的な指導者養成計画を発足させ、中間・上級管理職の能力を育成する必要がある。

III.情報通信技術
近年、国連の情報通信技術(ICT)インフラには多くの改善点が見られるものの、類似の大規模で複雑な組織と比較した場合、システム全体は依然として断片的かつ時代遅れであり、資金も不足している。国連で作成された情報を保存、検索、閲覧する総合的なシステムがないため、その他多くの分野で前進が阻まれている。これに取り組むため、

8. 8. 事務次長補格の最高情報技術責任者のポストを設け、実効的な情報管理戦略の策定と実施の監督に当たらせるべきである。
9-10. 事務局全体のICTシステムを早急にアップグレードすべきである。

IV.サービスの提供
国連ファミリー内を含め、その他多くの組織と比べた場合、国連事務局においては、再配置や外部委託など、サービス提供の新手法の模索が遅れている。国連の性格、および、任務にあたって慎重を要するものが含まれているという点から、中核的な諸機能は常に、主力となる正規の国際公務員が担わなければならないとしても、他の選択肢の導入を真剣に検討すべき非中核的機能もある。これに取り組むため、

11. 再配置や外部委託が可能な業務の洗い出しを含め、事務局が代替的サービス提供の選択肢をすべて検討できるよう、総会は従来の指針を改めるべきである。
12. 今後1年以内に、一部の事務にこれら選択肢を適用できる可能性に関する体系的な費用便益分析を完了すべきである。
13-15. 国連の財・サービスの調達手続きを改善、厳格化するため、一連の措置を実施する。

V.予算と財務
国連は現在、150以上の信託基金と37の平和維持勘定を別個に抱え、しかも、それぞれが独自のサポートコストと取り決めを有するという事情から、予算策定プロセスは極めて詳細かつ煩雑で、十分な戦略性を備えていない。財務管理プロセスも手作業が多く、断片化している。権限の委譲は不十分で、その影響もあってか、業績の査定も十分にできていない。これに取り組むため、

16. 予算案審査・採択のサイクルを短縮し、予算割当の区分も現在の35のセクションから13に整理統合すべきである。また、事務総長には必要に応じてポストを融通し、空席となったポストで浮いた予算を使用する幅広い権限を認めるべきである。
17. 平和維持勘定を整理統合するとともに、信託基金の管理を合理化すべきである。運転資本の水準と、総会が認めるコミットメントに関する権限の上限は引き上げるべきである。また、国連の財務プロセスを再設計し、説明責任の枠内で実質的な権限委譲ができるようにすべきである。
18. 予算・計画策定プロセスは、監視・評価枠組み厳格化の一環として、成果や管理業績と明確に結びつけるべきである。

VI.ガバナンス
国連のスムーズな運営基盤として、ガバナンス・システムが必要である。そのようなシステムのなかで、事務局に適切な指針を与え、その任務と資源受託責任の遂行に関する説明を問うために必要な情報とツールを加盟国に与えることができる。現在のところ、予算・政策決定プロセスは明確性と透明性を欠くことが多く、場合によっては、事務局と総会の各委員会とのやり取りがうまく行かないこともある。これに取り組むため、

19. 単一の包括的な年次報告を作成するなどして、事務局の報告メカニズムを改善するとともに、現在30ある管理関連の報告書を6つに整理統合すべきである。
20. 管理・予算問題に関する事務局と総会とのやり取りの指針となる新原則を導入することで、両者の関係の焦点を絞り、その戦略性と結果志向を高めるべきである。
21. 総会に対し、管理・予算問題に関する事務局とのやり取りを改善する方途を検討するよう求める。

VII.前途:変革への投資
これらの分野すべてを通じ、全般的な管理改革プロセスを推進、実施してゆくためには、管理改革を専門に担当する部署を創設し、明確な委任事項と期限を設けたうえで、局長その他事務局内の重要な指導者との折衝に当たらせることで、改革の実施を計画、調整すべきである。この管理改革オフィスが少数の、かつ代表的な加盟国グループと密接な連絡を保てれば理想的である。また、2005年世界サミットの最終文書でも求められているとおり、この幅広いプロセスを支えるものとして、早期退職勧奨制度を慎重に構築し、国連職員の再活性化を図らなければならない。これに取り組むため、

22. 管理改革プロセスに特別に充当する資金割当を行うべきである。特に初期段階では、管理改革オフィスの立ち上げと早期退職勧奨制度の実施に資金が必要となる。
23. 適切な政府間メカニズムを設置し、管理改革オフィスとの連携を図るべきである。

加盟国の資源を賢く使い、その全面的な説明責任を担い、さらに幅広い国際社会の信頼を得ながら、その任務をすべて遂行する体制を整えた国連事務局を作り上げるには、以上のような大がかりな取り組み(広く深い管理改革)が必要である。人類が直面する問題がますますグローバル化し、地球規模の戦略を策定、実施できるグローバルな機関の必要性が世界でますます高まっている今日、国連が憲章に謳われた約束を果たし、そして何よりも、現在と将来の世代の要請と期待に応えることは、これまで以上に必要となっている。