「科学はここに」:事務総長、初のグローバルなAI評価を歓迎(UN News 記事・日本語訳)
2026年07月16日

© Unsplash/Aidin Geranrekab
2026年7月1日 – 人工知能(AI)の活用に関する新たな科学的エビデンスが本日明らかにされました。これは、AIがもたらす機会とリスク、影響について初のグローバルな科学的評価を独自に行う国連の先駆的な専門家パネルが報告書で発表したものです。
*****************
判明した重要な事実
報告書は7つの重要分野にまたがる調査結果を取りまとめています。
- AIの科学、進歩、軌跡
- 科学、健康、教育、農業分野での社会実装
- 経済への影響
- 安全保障、システム、環境への影響
- 人権、情報、民主主義
- 文化的な恩恵、自律性、子どもの安全
- 管理、ガバナンス、信頼性
「科学はここに示されています」アントニオ・グテーレス国連事務総長は、報告書の発表イベントで、このように語りました。「私たちはもう知らなかったとは言えません。今後AIをどう使うかは、私たち次第なのです」
事務総長は、共通のルールがないままAIの進化が進めば進むほど、その結果に対する政府や人々の発言権は失われていくとしたうえで、「私が各国政府に伝えたいのは、事態を静観していてはならないという明確なメッセージ」だとつけ加えました。
『AIに関する独立国際科学パネル暫定報告書:AIの機会、リスク、影響のエビデンスに基づく評価』は、経済と社会全体に対するAIの実質的な影響を専門に評価する初のグローバルな完全独立型の学術団体が執筆したものです。この重大な局面で共通の理解とエビデンスを構築することをねらいとしています。
報告書の全文はこちらでご覧になれます。
なぜ重要か
全世界で10億人以上が毎週、対話型AIを利用する一方で、各国政府は急速に変化し、矛盾することも多いエビデンスのソースや、必ずしも国内の現実を反映しない物の見方によって大きな不確実性を抱えつつ、重大な決定を下しています。
事務総長は「うまく活用すれば、AIは健康や飢餓から学習、気候に至るまで、あらゆる面での世界の進歩を加速することで、開発の最も強力な原動力となりえます。しかし、科学パネルは人工知能が引き起こしかねない害悪についても、同じくはっきりと認識しています」と語っています。
実際のところ、AIの能力が伸長を続ける中で、その危険度も高まっています。科学パネルはこの核心となる課題への対処を目指しています。
AIの現状に関する解説はこちらでご覧になれます。
よりよい世界か、破滅的な害悪か
共同議長を務めるヨシュア・ベンジオ氏によると、あらゆる地域から結集した40人の先進的な科学者と専門家からなる科学パネルは、AIのトレンドを取りまとめた上で、現在のセーフガードではその進化に対応できないと警告しています。
「AIの能力は科学的な理解も、政府の適応能力も超える勢いで進化している」とベンジオ氏は語ります。「AIの欺瞞的挙動のエビデンスが積み重なる中で、科学はAIが能力を拡大させても、それ自身の力で、または悪意のあるユーザーによって、破滅的な害悪を引き起こさないとは保証できなくなっているのが現状です」
ベンジオ共同議長によれば、世界中の政策立案者が効果的な対策を取るためには、このようなシステムを理解しなければなりません。科学パネルはまさに「私たち全体のこれからの指針となる」厳密な共有基盤を提供していると述べています。
主な調査結果
乳がんの早期発見やワクチン開発の加速、保健医療サービスの改善をはじめ、AIは数多くの画期的な成果を上げているものの、以下のような限界や課題も残っています。
- AI活用は広範囲で加速していますが、国家間や部門間でばらつきが見られる。
- アクセスや利用状況には大きな格差があり、グローバル・サウス(新興国・途上国)での活用はグローバル・ノース(先進国)よりも大幅に遅れている。
- 現状の不平等を反映し、先進経済国の間でも、ITインフラやモデルに大きな差異が存在している。
しかも、AI開発の体制も極めて集中しており、最近の推計によると、米国は世界最大のAIスーパーコンピューター500基の演算能力のうち75%を占めているほか、これに次ぐ中国も15%を占めており、この両国だけで主要汎用モデルのほぼ全体を開発していることになります。
リスクの把握
報告書は、AIリスクの把握と管理が欠かせないとしており、科学パネルの共同議長を務めるマリア・レッサ氏も、社会や安全保障、そして人類全体に対するリスクはすでに“高すぎる”水準に達していると付け加えています。
レッサ共同議長は「技術には変革の力がありますが、世界がこのまま今の道を進み続ければ、人類は技術が約束する利益を実現できないことになるでしょう」と警告しました。
科学パネルによる主な警告は以下のとおりです。
- AIエージェント・システムが指示に背くことはないという科学的な保証はなく、逆に指示に従わないケースがあることを示すエビデンスが積み重なりつつある。
- AIエージェント・システムは近々、プログラマーが現在、数日または数週間かけて行っている作業をこなせるようになるだろう。しかし、その開発は労働市場やサイバーセキュリティ、将来のAIシステムの制御可能性について、喫緊の課題を提起している。
- その正確性に関係なく、ユーザーが既存の信念をさらに固めるような回答を出すというAIの追従的(サイコファンティック)挙動は、確認されている死亡事故を含め、メンタルヘルス上の深刻な事件に結びついている。
- AIシステムを悪用し、サイバー攻撃を支援する犯罪者や悪人がいることも確認されている。
- 技術的能力の進化によって、初心者の個人でも、詐欺や偽情報の拡散など、悪意の用途で幅広くAIを利用できてしまうおそれがある。
- 高い自律性を備えたAIシステムの統制を維持するための信頼できる方法が欠如している
報告書は、こうした害悪の多くが、すでに社会的不利な立場にある人々に不当に大きくのしかかると記しています。
メリットを最大限に引き出し、リスクを軽減する
AIのリスクを最低限に抑え、この技術的ツールから恩恵を得るためには、ガバナンスの整備が必要です。
現状の格差を埋めるための次なる具体的方策はいくつかあるものの、そのどれを採用するにせよ、加盟国がAIのあり方を定め、評価し、展開できる能力に持続的に投資することが必要です。
これらの機会を安全に実現するには、公平なアクセスを促進し、イノベーションに報いる一方で、社会的弱者の搾取防止を趣旨とする投資や政策が欠かせません。
「AIが自力で格差を解消するわけではない」
報告書によると、幅広い法域で、AIシステムに倫理と人権を組み込もうとする明確なガバナンス手段がすでに数十件、導入されているものの、いずれも断片的で、一部の企業に集中しており、現実世界での効果が測定されることはほとんどありません。
アマンディープ・ギル国連事務次長兼デジタル・新興技術担当特使は、この新たな報告書を、政策決定者が今後利用できる共通の科学的知見だと評しました。
「AIが自力で格差を解消するわけではない」とギル特使は述べています。
ギル特使の説明によると、制度やスキル、データがすでに整備されている場合には、恩恵が生じる一方で、これらが未整備な場合には、同じ技術が労働者の仕事を奪ったり、不平等を拡大させたり、自分たちを念頭に置かずに構築されたシステムにコミュニティーが依存する状況を作り出したりすることにもなりかねません。
「こうした現実はすでに明らかにされ、独自に検証されており、目を背けることはできません」
今回の報告書の調査結果は、7月6日から7日にかけてジュネーブで開催される初の「AIガバナンスに関するグローバル対話」において、各国政府に紹介される予定です。
* *** *
原文(English)はこちらをご覧ください。


