ICJ所長:訴訟件数の多さは各国政府からの「信頼の証」(UN News 記事・日本語訳)
2025年11月24日

執筆者:イリアナ・エクサラス
2025年10月29日 ― “世界法廷”としても知られる国際司法裁判所(ICJ)は、国連の最高国際司法機関であり、世界的な認識や法の定義に影響を与えるような国家間の紛争に関する裁定を下しています。
新たにICJ所長となった岩澤雄司裁判官はUN Newsに対し、国際紛争の緩和に向けたICJの活動、ICJの責務、そして今年3月に始まった任期の中で自身が達成したい目標について語りました。
また、イスラエルや気候危機に関して今年発出された重要な勧告的意見の意義についても話しました。勧告的意見は法的拘束力を伴わない判断ではあるものの、規範に関して世界的な影響を与え、国際法の明確化を行うことができます。
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※本インタビューは、わかりやすく簡潔にするために内容を編集しています。
UN News:ICJは人々に十分に理解されているとは言えません。人々が知っておくべき重要な点や、ICJが国際外交、法、ガバナンスに果たす役割についてご説明いただけますか。
岩澤雄司所長:ICJは国連の主要な司法機関であり、ICJの任務は国家間の紛争を平和的に解決することです。
ICJが所在するハーグには国際刑事裁判所(ICC)も設置されているため、2つの裁判所が混同されることも少なくなりません。ICJが扱うのは国家間の紛争であり、個人を対象としたものではありません。重要なのはICJが国際法に基づいて国家間の紛争を平和的に解決しているということであり、それが私たちの任務です。
UN News:ICJに提起される事案の多くには重要な政治的側面があるため、ICJが下す判断が激しい多極的な反応を引き起こすこともあります。そうした問題や、ICJが公平ではないとする一部の懐疑的な見方に対して、ICJはどのように対応していますか。
岩澤所長:留意すべき点は、各国がICJの管轄権の受け入れに同意した場合に限って、ICJが活動できるということです各国は、より大きな紛争の一部分、おそらくは紛争の一側面だけを、法的問題という形でICJに委ねることがよくあります。
ICJの活動にはそうした制約がありますが、もちろんそれは、ICJが多くの訴訟の背景にある政治的文脈や人々の苦痛から目を背けているということではありません。
しかし、ICJが裁判所である以上、その任務は、各国から付託される法的問題に対して、管轄権の制約の範囲内において国際法を適用することにあります。
UN News:先週、あなたは裁判所長として、占領下で暮らすパレスチナ人に対するイスラエルの義務に関する勧告的意見を読み上げました。イスラエルはそれを真っ向から拒絶しました。こうした事案におけるICJの活動について、ご説明いただけますか。ICJの権限の限界や、勧告的意見が持つ効力についてもお伺いします。
岩澤所長:ICJには2種類の事案があります。一つは国家間の争訟事件です。つまり、国家Aが国家Bを提訴し、ICJが国家Bによる国際法に違反したかしていないのかについて判断し、当事者に対して法的拘束力を持つ判決を下します。
もう一つの事案が「勧告的意見」です。これは、国際機関がICJに対して勧告的意見の発出を要請し、ICJは誠実に国際法を解釈し、国際法の下で各国が何をすべきかを明確な言葉で説明するというものです。
勧告的意見は厳密には法的拘束力を持ちませんが、しばしば国際法の権威ある見解とみなされます。
先ほど言及されていた勧告的意見において、国連総会はICJに対し、パレスチナ占領地域に関するイスラエルの義務を明確化するよう意見を要請しました。
ICJの任務はこの要請に答えることであり、ICJは誠実に国際法を解釈し、イスラエルの義務を明確化しました。それがICJに求められたことであり、ICJが行ったことです。次は意見を要請した総会が、その勧告的意見に基づいて今後の行動方針を決めることになります。
UN News:今年7月、ICJは非常に注目の集まった勧告的意見において、各国が「環境に対する重大な被害を防止する義務」を負っていることを確認しました。この判断の意義とはどのようなものでしょうか。
岩澤所長:昨年12月に、2週間にわたる審理が行われました。この手続きには各国や国際機関からとても強い関心が寄せられ、96の国と11の国際機関が参加しました。

そうした国々の多くが初めてICJで陳述を行いました。ICJは各国や国際機関からの提出資料を分析し、7月に勧告的意見を発出しました。この意見においてICJは、環境に対する重大な被害を防止する義務は国際慣習法上の規範であると述べました。
これはICJが指摘した極めて重要なポイントです。また、ICJは、この重大な被害を防止する義務に対する各国の遵守状況を評価するための基準は「厳格」であると述べましたが、これも非常に重要です。
ここ数年、国内裁判所、地域裁判所や国際裁判所において、いわゆる気候変動訴訟が多数提起されています。ICJが7月に示したこの勧告的意見は、すでに係争中、あるいは将来提起され得るそうした気候変動訴訟において参照される可能性があります。
UN News:新たにICJの所長に就任されましたが、任期中に達成したいと思うことは何ですか。また、どのような変化をもたらしたいとお考えですか。
岩澤所長:第一に、ICJに対する信頼です。ICJには多くの訴訟が係属しており、それは各国のICJに対する信頼の証です。私は、最も質の高い判決と意見を提示して、各国がこれからもICJを信頼し信用できるようにすることで、そうした信頼を維持していきたいと考えています。
第二に、業務方法を改善し、ICJの手続きを効率化することで、訴訟件数の増加に対応できるようにしたいと思います。
第三に、ICJをもっと人々が理解しやすいものにし、私たちの活動について知っていただきたいと考えています。来年4月にICJ開廷80周年を迎えますが、その一環として、ICJの業務を人々によく知っていただけるよう、短い動画の制作も計画しています。
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原文(English)はこちらをご覧ください。
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