氷河の保護の国際年
2025年08月04日

主なメッセージ
氷河はかつてない速度で後退しており、私たちの知る景色や世界をつくり変えています。「氷河の保護の国際年」(2025年)を担当している国連の各機関では、世界中にある氷河の重要性を強調する主なメッセージを作成しています。
1.氷河は生命に不可欠です
氷河とは主に氷と雪からなる大きな堆積物であり、陸地で発生して自重の影響でゆっくりと流れます。氷河はどの大陸にも見られ、多くの山岳地帯や、グリーンランドおよび南極の氷床の縁に存在しています。世界には27万5,000を超える氷河があり、その面積は約70万平方キロメートルに及びます。氷河は水の重要な供給源とみなされており、世界の淡水の約70%に相当する約17万立方キロメートルの氷を蓄えています。氷河は生命の源であり、人間、動物、植物に等しく淡水を供給しています。

2.氷河は気候変動に対する敏感な指標であり、気温上昇によって世界中で後退しています。
氷河は全般に19世紀半ば(いわゆる「小氷河期」の終わり頃)以降、世界中で縮小傾向にあります。時期や地域によっては氷河が一時的に増加することもありましたが、大気中の温室効果ガス濃度の上昇によって世界が急速に温暖化するのに連れて、近年は後退が加速しています。世界の気温が上昇するにつれて積雪期は短くなり、降雪量は減り、降雨量は増えているのです。

3.山から溶け出す雪や氷は、多くの地域で淡水の供給に不可欠です。
地球上の淡水の70%近くは雪や氷として蓄えられています。氷河、雪、氷からの流出水は、飲料水や農業、工業、クリーンエネルギーの生産において不可欠です。気候や雪氷圏の変化は、氷河の融解や雪解け水の流出、地下水への浸透、水流低下の量と時期を変化させるなど水循環に影響を与え、海面上昇の一因となっています。氷河が縮小し続け、積雪量が変化するにつれて、利用可能な水量が減少し、特に季節的に乾燥する地域では、水資源をめぐる競争が激化することが予想されます。氷河は、融解水の流出量が最大となる時点となる「ピーク・ウォーター」を過ぎると減少に転じ、下流の水資源への貢献度が徐々に低下します。

4.氷河の融解、永久凍土の融解、その他の雪氷圏の変化は新たなハザードを生み、既存のハザードを悪化させ、災害リスクを高めます。
気候変動は、地質災害が発生する時期や頻度、場所に影響を与え、さらには連鎖的な影響をもたらす可能性があります。高山や亜寒帯地域での氷河の後退や永久凍土の融解は、傾斜面の安定性や洪水のリスクに影響を与える可能性があります。また、氷河の持続的な後退は、異常気象をもたらすと共に、氷河湖の決壊による洪水、地滑り、浸食や堆積の進行など、下流に住む住民たちや脆弱な交通、エネルギーインフラにとって新たな、そして深刻化する災害リスクにもつながります。

5.気候を安定させ、氷河を保全し、すべての人々にとって持続可能な未来を確保するためには、温室効果ガス濃度を低下させる野心的な行動が今すぐ必要です。
氷河はかつてない速さで後退し、私たちが知っている景観や世界の姿をつくり変えています。氷河は環境の持続可能性に重要な役割を果たしているにもかかわらず、各国の気候変動への適応政策では氷河に関連する固有の課題がほとんど認識されていません。しかし、温室効果ガス排出量を削減し、革新的な気候変動の適応および緩和戦略を採用して氷河を保護・保全するための(わずかな)時間が残されています。先住民の知識をその他の地球観測、データ、科学的洞察で補完することで、対応策に関する政策や決定のための包括的、包摂的、かつ健全な基盤を提供することができます。氷河地域に対する政策や決定には、保護地域の設置、持続可能な土地利用の実践、統合的水資源管理の実施、寒冷圏リスクの増大に対処するための警報システムの開発を含めるべきです。

6.氷河のモニタリングは、気候変動への適応と緩和の戦略において重要なデータを提供しており、その拡大が必要です。
世界のいくつかの氷河は最長で130年以上にわたり、現地での年次測定によって体系的にモニタリングされており、近年ではさまざまなリモートセンシング技法も活用されています。しかし、特に高山地域における氷河のモニタリングには、依然として大きなギャップがあります。世界的な氷河インベントリや氷河の変化に関するデータは、科学的な評価のためだけでなく政策立案者にとっても重要な情報を提供し、気候変動への適応と緩和の戦略の決定に必要な情報を提供しています。観測範囲や解像度、データ管理、グローバルなデータ共有の改善によって、脅威やリスク、影響に対処する上での適時の行動を支援する分析および予測サービスを強化できます。

7.氷河は世界中の数十億の人々の生計と経済を支えています。
多くの先住民を含む20億を超える人々が、食料安全保障、生計、文化、家庭におけるニーズも含め、淡水の入手先を氷河や雪の溶解水に依存しています。現在進行している氷河の減少は、今日の世界的な海面上昇に大きく関わっており、海面は1900年に比べて約20センチメートル高くなっています。これによって沿岸住民だけでなく、氷河の近くの、あるいは遠く離れたコミュニティーの水資源にリスクをもたらしています。こうした変化は世界経済にも打撃を与え、農業、水力発電、観光、貿易、輸送などの多くの部門に影響を及ぼしています。氷河の保全は、環境の持続可能性、経済の安定、文化的なサービスや生計の保護に不可欠なのです。

8.退氷を伴う気候変動は、極地と世界の海洋に深刻な影響をもたらしています。
雪氷圏は気候変動によって急速に変化しつつあり、特に極地では顕著です。北極圏の気温上昇は、すでに積雪期の短縮、永久凍土の融解、同地域の海氷、氷冠、氷河の後退をもたらしています。南極とグリーンランドの氷床は世界の淡水資源の68%超を保持していますが、この資源が急速に融解して海面上昇につながり、海洋環境に影響を及ぼしています。さらに、地球温暖化が極地における「カービング」(氷河の端で氷塊が砕ける)現象の頻度と規模を増大させ、氷河と棚氷の力学に大きな変化をもたらす可能性が非常に高くなっています。気温上昇が融解の増加、海洋の温暖化、氷の水圧破砕を引き起こし、カービングの増加や氷山の発生を促し、航行に影響を及ぼす可能性もあります。

9.若者たちの参加は一致団結した行動を推進し、未来への道を開きます。
若者は社会変革の原動力であり、気候行動、持続可能性、さらにはすべての人々の尊厳を推進します。意思決定や政策決定プロセスへの若者たちの意味ある参加は、多様性と包摂性、代表性の向上を確保することを可能にします。若者が主導するプログラムや地域協力、包摂的なガバナンス、資金調達、教育、イノベーション、そして先住民の知識が、長期的な解決策を推進し、世代を超えた気候正義を実現し、氷河が過去、現在、未来にわたって私たちの地球の監視者としてあり続けることを確かにすることができるのです。

10.氷河には文化的かつ精神的な意義があります。
氷河は、アジア、ラテンアメリカ、太平洋、東アフリカの先住民たちから神々や精霊の住処と考えられており、国連教育科学文化機関(UNESCO)の「人類の無形文化遺産一覧」で認められている儀式や祝祭行事の場にもなっています。氷河の消滅は、文化遺産だけでなく、景色や自然との精神的なつながりをも大きく失うことを意味します。

11.氷河は地球の歴史を刻む重要な証拠です。
氷河はその氷の中に、過去の気候や環境に関する重要な記録を含んでいます。氷河が消滅することは、人類、環境、気候の歴史に関する他に類のないアーカイブが不可逆的に失われてしまうことにつながります。氷の中の記憶は、将来世代のための科学的な遺産、歴史的な記録として保存すべきものです。氷河が後退して消滅するにつれ、繊細かつ固有の生態系が失われ、それと共に生命を支えている地球規模の重要性を持つ生物多様性と不可欠な生態系の役割が失われるのです。

12.氷河の縮小は「氷河後の世界」の新たな地形と生態系を明らかにしつつあります。
氷河が後退または消滅した場所には、新たな地形が生まれつつあります。「氷河後の世界」の地形の出現は、新たな陸地、海洋、淡水の生態系を形成し、私たちに、こうした新たな土地とのつながりを再定義するよう迫っています。結果的に新たに利用可能となった土地資源に対する請求権は、しばしば不明確であり争いの的となっており、このような新しい環境のガバナンスに対処する緊急の管理および保護戦略が求められています。

13.消えゆく氷河は、山岳観光に影響を及ぼしています。
氷河の急速な後退は、世界中の多くの地域における高山ツーリズムやレクリエーションに影響を及ぼしており、文化や生計にも支障をきたしています。氷河は高山への「経路」として機能し、登山者が高峰にアクセスする際に利用されています。氷河がより短く、薄くなるにつれ、アクセスはより困難に、より危険になります。その結果、人々は別の高山ルートを選択したり、場合によっては航空機でのアクセスに切り替えたりするなど、空間的な移動が生じる可能性があります。

出典
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