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平和活動担当事務次長による寄稿(日本語訳):「国連の平和維持活動は命を救うツールであり、賢明な投資でもある」

2025年07月24日

©UN Photo

国連の平和維持活動は、ナミビアから今日の不安定な紛争地域に至るまで、成功の実績を残しています。しかし、その効力を保ち続けるためには、投資と適応が必要です。

執筆者:
ジャン・ピエール ラクロワ 平和活動担当
事務次長

国連が平和維持活動における画期的な一章を閉じてから35年余りとなる今年3月、ナミビアでは、民主的に選出された初の女性の国家元首となるネトゥンボ・ナンディ=ンダイトワ大統領が就任しました。

1989年当時、世界が不安定化し、国連が流動性危機に陥っていたにもかかわらず、加盟国は一丸となって、ナミビアの独立移行を支援する多次元的な平和維持ミッション、国連独立移行支援グループ(UNTAG)を設置しました。

UNTAGは、ナミビアで停戦の監視をしただけではありませんでした。その広大で遠隔な領土全域にわたって、同国初となる公正な自由選挙の安全な実施を支援し、民間人を保護し、部隊の撤退を確認し、民主化への移行を支えました。国連による治安維持や人権監視から、選挙支援や強固な公共情報キャンペーンに至るまで、現代の平和維持活動の基盤となったアプローチの先駆者だったのです。

今日、国連平和維持活動は重要な岐路に立たされています。世界情勢は危険かつ複雑な状況にあります。数々の危機が瞬く間に勃発し、急速に拡大し、国際政治の分極化、国境を越える犯罪、テロリズム、不処罰意識の高まり、国際法の弱体化によって膨張しています。

世界的に認知されている国連平和維持要員「ブルーヘルメット」は、国際社会から幅広い支持を集めています。現在、要員たちはかつてないほどに最前線に留まり、一歩も引かず、市民を保護し、外交が機能する上で必要な余地を創り出しています。しかし、不安定さの高まりと財政への圧迫に直面する中で、平和維持活動の効力は、その未来への投資にかかっています。

最前線に立つブルーヘルメット

故郷から遠く離れた地で、人々が平和に暮らせるよう支援する男女たちで構成された国連平和維持要員の仕事は、過酷かつ複雑なだけでなく、危険も伴います。2024年1月以降、78名の要員が命を落としています。さらに負傷者の数は、それを上回ります。このような犠牲と、119カ国から派遣され軍服を着用した平和維持要員たちを含む、国連旗の下に派遣された6万8,000を超える軍人、警察官、文民要員たちの貢献は、平和と安全へのコミットメントを目に見えるかたちで示すものです。

平和維持要員は、大小さまざまな11のミッションにおいて、世界で最も不安定な状況下で活動しています。コンゴ民主共和国では、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCOが、市民を暴力から保護する一方で、対話と武装解除を支援しています。

レバノンでは、進行中の銃撃戦の真っただ中で、国連レバノン暫定軍(UNIFILが「ブルーライン」沿いで安定化に努めています。南スーダンでは、国連南スーダン共和国ミッション(UNMISSが、治安の強化と地方および国家レベルでの対話と交渉の促進を通じて、内戦に逆戻りしてしまうことを阻止するために取り組んでいます。中央アフリカ共和国では、国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCAが国中の脆弱な立場に置かれた人々を保護し続けるとともに、数十年で初となる地方選挙の準備を支援しています。そしてキプロスでは、国連キプロス平和維持軍(UNFICYPに派遣された平和維持要員たちが、安全保障を促進し、コミュニティー間の信頼を構築すべく、緊張の緩和と緩衝地帯の維持を続けています。

こうしたミッションの多くが、わかりにくい、あるいは非現実的なマンデート、地域や国際レベルでの曖昧な政治的支援、明確な最終目標の定義の欠如、期待値と資源間のギャップの拡大など、さらに複雑化した課題に直面しています。

平和維持活動に向けた投資

2025年は、極めて重要な年となります。国連創設80周年を迎える中、長きにわたり平和維持活動の強固なパートナーであるドイツは、5月初めに、ベルリンで国連平和維持活動閣僚級会合を開催しました。世界各国から集まった防衛・国防大臣や外務大臣が結束し、国連のブルーヘルメットに向けた明確かつ目に見えるかたちでの支援を誓約しました。出席した130の加盟国の代表の過半数以上が、ミッションを強化し、より安全で効果的なものにするための具体的な誓約を行いました。

参加者たちは、平和維持活動が適応性と革新性を常に保ち、費用対効果に優れ、レジリエント(強靭)なものであるために、ミッションの未来とその手段を改革する方法を議論しました。1990年代初頭のナミビアでそうしたように、国連平和維持活動は、絶えず変化する状況に常に適応し、成果を上げてきました。今後、私たちはこの機運を高め、平和維持活動を効率的で、経済的で、目的に適ったものにしていく必要があります。

そしてこの点において、平和維持活動は命を救うツールであるだけでなく、賢明な投資でもあることを強調することが重要です。平和維持活動は、資金に見合う価値をもたらし、暴力を減らし、持続的な平和の構築を支援します。カンボジアから東ティモール、エルサルバドルからリベリアに至るまで、国連平和維持活動は、世界中で軍事活動に費やされた額と比べてごくわずかな費用で、戦争から平和への移行を支援してきました。これらの成果は、歴史上のささいな出来事ではありません。地域の安定のための礎なのです。

そして国連平和維持活動は、今後も進化し続けなければなりませんし、また、進化し続けるでしょう。各ミッションは、アフリカ連合(AU)などの地域パートナーと合同で、あるいはそれらを支援する形で展開されることもあるかもしれません。より小規模だったり、よりテクノロジーを活用したものだったり、より専門的にもなるかもしれません。しかし、その中核となる目的は、政治的解決を支援し、脆弱な立場に置かれた人々を保護し、持続的な平和への道を開くことに変わりはありません。

過去が教えてくれることは、平和維持活動は、私たちがそれに向けて投資し、一貫して取り組めば成果をもたらすということです。平和維持活動の成果は、何が起こったのかだけでなく、何が起こらなかったか― 例えば暴力が回避されたり、緊張の高まりを防いだり、政治が機能する空間が創出されたりなど― によっても測られます。

私たちは、そのような苦労して得られた真実を無視することで、危険を冒しています。マリスーダンハイチにおいて国連のミッションが終了した後、これらすべての国で暴力が増加したことは、まさにその実例です。こうした罠を回避するためには、要請があった時に迅速に展開できる備えと能力を維持し続けなければなりません。

35年前、世界は一丸となって画期的な平和維持ミッションUNTAGを設置し、ナミビアが独立国家として独自の道を切り拓くことを支援しました。今日再び、当時と同じ団結、革新、決断の精神が必要とされています。ここで私たちが達成できなければ、数十年にわたる前進を台無しにするばかりか、自らの未来を守るために平和維持活動を頼りにする何百万もの人々の希望を壊してしまう恐れがあるのです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。