UN80イニシアチブとは? なぜ世界にとって重要なのか?(UN News 記事・日本語訳)
2025年07月18日

2025年6月23日 — 世界が危機の拡大や不平等の深刻化、国際機関に対する信頼の低下に立ち向かう中、国連は、世界中の人々に奉仕する方法を強化するために野心的な取り組みを開始しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長が3月に発表した「UN80イニシアチブ」は、国連システム全体を挙げた取り組みであり、業務を効率化し、影響力を強化し、急速に変化する世界において国連がふさわしいかを再確認することを目指しています。
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「率直に言って、マルチラテラリズム(多国間主義)と国連にとって非常に困難な状況の中で、今こそ国連を見つめ直し、国連がその目的を果たすのに適しているかどうかを確認する良い機会です」UN80タスクフォースの議長を務めるガイ・ライダー国連事務次長(政策担当)は、こう述べています。
「UN80イニシアチブ」として知られるこのプロセスは、マルチラテラリズムへの信頼が低下している一方で、そのニーズが高まっている現在において、国連の効率性を向上させるだけでなく、マルチラテラリズムの価値を再認識することを目指しています。紛争、強制移住、不平等から、気候ショック、テクノロジーの急速な変化に至るまで、今日のグローバルな課題に対応する国連の能力を強化するとともに、予算の縮小や多国間分野における政治的分断の拡大などの外部圧力にも対応することを意図しています。
「私たちは、より強く、目的に適った国連として生まれ変わり、将来間違いなく訪れる課題に備えることができるでしょう」ライダー事務次長は、このように説明しています。

3つの改革の軌道
UN80は、3つの主要なワークストリーム(作業効率化のための一連の流れ)を軸としています。第1に、内部の効率性と有効性の向上、官僚的な手続きの削減、一部の機能をより低コストの勤務地に移転することで国連の世界的なオペレーションコストを最適化することに焦点を当てています。ライダー事務次長は、煩雑な事務手続きや業務の重複が対象であると述べています。
「私たちは、改善できる点を探したいと考えています。効率化を図れると思われる分野や、不必要な官僚的プロセスを排除できる分野を見極めたいと思います」事務次長はこう説明しました。
第2のワークストリームは「マンデートの履行状況の見直し」であり、これは国連事務局の業務の基礎となっている4,000近いマンデート文書の検証を伴います。マンデートとは通常、総会や安全保障理事会などの主要機関によって採択された決議を通じて、加盟国から国連に与えられた任務や責任を指します。
これらのマンデートは、平和維持活動や人道支援、人権保護や環境行動に至るまで、国連の活動の指針となっています。数十年にわたって、少なくとも40,000のマンデートが蓄積されており、その中には重複したり、時代遅れになったりしたものもあります。そのため、これらを見直すことが「UN80イニシアチブ」の重要な部分となっています。
ライダー事務次長はこう述べています。「マンデートを見直してみましょう。重複している部分、優先順位を上げられる部分、下げられる部分、余剰な部分があるか確認するのです」
しかし、膨大な数のマンデートの見直しは、今回が初めてではありません。ライダー事務次長は、こう振り返ります。「私たちは、以前にもこの作業を試みました。2006年にこれらの大量のマンデートを見直したのです。ですが、あまりうまくいきませんでした」
それでも今回は、このプロセスを後押しする重要な要素が一つあります。「今回は、データと分析能力を備えています。私たちは人工知能(AI)テクノロジーを活用し、加盟国により多くの、より体系的な情報を提供します。それは、生産的なプロセスを推進する、より説得力のある根拠となるでしょう」
事務次長は、何を維持し、何を変更し、何を廃止するかを決定する責任は、ひとえに加盟国が負うことを強調しました。
「これらのマンデートは加盟国に帰属します。加盟国が作成したマンデートを評価できるのは、加盟国だけです。私たちはエビデンスを分析し、それを加盟国に提示できますが、最終的に、マンデートや『UN80イニシアチブ』によってもたらされる他の多くの事柄についての決定者は、加盟国なのです」
第3のワークストリームは、国連システム全体における構造的な変革やプログラムの再編成の必要性を探るものです。「最終的には、非常に入り組んで複雑なものになってしまった国連システムの構造を見直そうということになるかもしれません」ライダー事務次長は、このように補足しています。また、マンデートの履行状況の見直しによって、提言が生まれる可能性もあります。

タスクフォースとシステム全体の俯瞰
こうした複雑なシステム全体の改革に取り組むため、グテーレス事務総長は、UN80タスクフォースの下に7つのテーマ別クラスターを設置しました。これらのクラスターにおいては、国連システム内の上級幹部が調整を担当します。各クラスターの対象は、平和と安全、人道問題、開発(事務局および国連システム)、人権、訓練と研究、そして専門機関です。
UN80タスクフォースの議長であるライダー事務次長は、こう述べています。「国連システムが圧力にさらされている今、そのシステムが組織を挙げて対応していることに触れておくことが重要です。ニューヨークだけ、事務局だけでなく、システム全体で対応しているのです」
各クラスターは、調整の改善、断片化の軽減、そして必要に応じた部局の機能の再編について提言を策定することが求められています。すでにいくつかのクラスターが最初の案を提出しており、7月にはより広範な提言がそれに続く予定です。

縮小ではなく、改革
「UN80イニシアチブ」をめぐる注目は、大半が予算削減案や人員削減案に集中しており、その取り組みは主に経費削減ではないかという懸念が生じています。ライダー事務次長は、こうした見方は大局を見失うと強調しています。
「たしかに、国連は財政的な課題に直面しています。その事実から目を逸らす必要はありません。しかしこれは、経費削減や人員削減のための取り組みではありません。私たちは国連をより強力なものにしたいのです」事務次長はこう述べています。
それでも、システム全体に及ぶ財政的な圧力は否定できません。9月に提出予定の2026年改訂プログラム予算には、事務局組織における資金とポスト(人員)の大幅な削減が盛り込まれる見通しです。これは、加盟国の分担金の支払いが遅延したり、完了していなかったりすることで資金繰りのひっ迫が続いていることによる結果です。
ライダー事務次長はこう説明しています。「『UN80イニシアチブ』は、マルチラテラリズムと国連の影響力や効果を向上させることを目指しています。システムのさまざまな部分における予算やリソースについて見直さずに済めば良かったのですが、見直す必要があるのです」
事務次長はさらに続けました。「各組織はいくつかの苦渋の決断に迫られており、それは毎日のように起こっています。それが今、国連が置かれている現実なのです」
ライダー事務次長は、財政的な持続可能性と国連の使命の有効性は互いに両立しえないものではなく、同時に追求すべきものだと主張しています。「私たちは、現在置かれている困難な状況において財政的な持続可能性を確保するだけでなく、国連憲章に基づいて責任を果たす上で国連がもたらす影響に対して心を砕くという、2つの目標を両立させなければなりません」

なぜUN80が世界中の人々にとって重要なのか?
UN80は単に官僚機構の改革を行うものではなく、究極的には、危機や紛争、開発における課題がある中で国連の支援を頼りにする人々のためのものなのです。
ライダー事務次長は、こう述べています。「もし国連が自らを変革し、時には困難な決断を通じて改善を実らすことができれば、それは、人命を救うための国連の介入が、奉仕する人々により効果的に届けられるということを意味するでしょう」
国連は、あらゆる人々のための平和、持続可能な開発、人権を促進する上で必要不可欠な、唯一無二の集いの場としてあり続けています。
「これは国連が、奉仕する人々に対する責任を真摯に受け止めていることを示すものです」ライダー事務次長はこう述べています。
現在、国連は1億3,000万人以上の避難民を支援し、1億2,000万人以上に食料を供給し、世界中の子どもたちの半数近くにワクチンを提供し、世界中で平和維持、人権、選挙、気候行動を支援しています。国連の開発事業は、平和で安定した社会の構築に貢献しています。

次に何が起きるのか
UN80タスクフォースは、それらの提言を国連事務総長に提出する予定です。事務総長はすでに、成果が期待される最初の分野をいくつか示しています。国連事務局内の効率化に関する作業部会は、キャサリン・ポラード国連事務次長が率いており、6月末までに最初の提言を提出する予定です。マンデートの履行状況の見直しに関する報告書は、それに続き、7月末に提出される予定です。
この最初の2つのワークストリームに基づく作業は、国連システム全体の構造的な変革とプログラムの再編成についてより広範な検討をする際に情報を提供します。3つ目のワークストリームに基づいた提言は、今後数カ月から来年にかけて加盟国に提示される予定です。
作業は始まったばかりですが、ライダー事務次長は、国連は適切なツールを持っており、野心と緊急性を明確に意識していると考えています。
「私たちの進捗は順調であり、現在、たくさんの宿題をこなしているところです。週を追うごとに、作業が次々と加盟国の手に渡っています。やがてその結果が表れてくるでしょう」事務次長は、このように述べました。
最終的に、指摘を受けてどう行動するのかを加盟国が決定する必要があります。「各加盟国は、どうしたいのかを決定しなければなりません。政府間プロセスを設置することを望むのかどうか。それについては事務総長がすでにその可能性について言及しています」

成功の定義は?
では、成功とはどのようなものでしょうか。
ライダー事務次長は、こう述べています。「(成功とは)国連がより効果的に成果を生み出せるようになり、多国間行動の信頼を強化し、集めることができるものとなることです。世論や政治の意思決定者に対して、国連は投資に値する組織であり、将来の課題に対処する際に人々にとって望ましい選択肢として示せるものになることです」
UN80タスクフォースの議長にとって、それはつまり信用、能力、そして人々からの信頼であり、国連が単に意義を持つだけでなく、不可欠であり続けることを確かなものとするということです。
ライダー事務次長は、このように述べました。「私たち全員がこの問題に関心を持つべきです。グローバル課題に対処する上で多国間主義が最良の手段だと考えるのであれば、その仕組みを刷新し、更新し、可能な限り効果的で目的に適ったものにする必要があるのです」
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原文(English)はこちらをご覧ください。