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核のリスクが「過去数十年で最高レベル」に達する中、グテーレス事務総長が今こそ軍縮をと要請(UN News 記事・日本語訳)

2024年04月12日

核軍縮・不拡散に関する安全保障理事会閣僚級会合に出席するアントニオ・グテーレス国連事務総長(中央右)© UN Photo/Evan Schneider

2024318 日本の広島と長崎の街が焼き尽くされてから80年近くが経った今もなお、核兵器は、世界の平和と安全に対する明白かつ現存する危険としてあり続けている ― アントニオ・グテーレス国連事務総長は、安全保障理事会(安保理)でこのように述べました。

グテーレス事務総長は、今こそ軍縮をと呼びかけつつ、核保有国に対しては、対話と説明責任を含めた6つの行動分野で主導的役割を果たすよう要請しました。

「核兵器はこれまで開発された兵器の中で最も破壊力があり、地球上のあらゆる生命を絶滅させる能力がある。今日、こうした兵器の威力、射程距離、ステルス性は向上している。1つの過ち、1つの計算ミス、1つの軽率な行動が、偶発的な発射へとつながってしまう」と、グテーレス事務総長は警鐘を鳴らしました

大きな音を立てて進む終末時計

核軍縮・不拡散に関する会合は、3月の安保理議長国である日本によって招集されました。、グテーレス事務総長が指摘したように、日本は他のどの国々よりも「核による殺りくの残酷な代償」をよく知る唯一の国でもあります。

本会合について事務総長は、「地政学的緊張や不信によって、核戦争のリスクが過去数十年で最高レベルにまで悪化している」中で開催されていると述べました。

そして、人類が自滅にどれほど近づいているかを象徴する「終末時計」が「あらゆる人々に聞こえるほど大きな音を立てて進んでいる」と語りました。

一方で、学界や市民社会団体、フランシスコ教皇、若者たち、広島・長崎の惨禍を生き延びた被爆者たちは、平和を実現し、人類の存亡に関わる脅威をなくすよう強く求めています。

『オッペンハイマー』の続編は要らない

グテーレス事務総長は、オスカー(アカデミー賞)を受賞したハリウッド映画『オッペンハイマー』でさえ、「核による終末の過酷な現実を、世界中の何百万もの人々にまざまざと見せつけた」と述べ、「その続編を、人類は生き残ることはできない」と付け加えました。

世界がその瀬戸際から退くよう求める訴えがあるにもかかわらず、「核保有国が、対話のテーブルに着いていない」ばかりか、「戦争のツールへの投資が、平和のツールに向けた投資を上回っている」と、事務総長は指摘しました。

また、軍縮こそが「この無分別で自滅的な影を、きっぱりと消し去る」唯一の道であると強調しました。

対話と信頼構築

グテーレス事務総長は、核保有国に対し、6つの分野で主導的役割を果たすよう求めました。それはまず、いかなる核兵器の使用をも防止するために、透明性の向上と信頼構築措置の発展を目的とした対話に再び参加することから始まります。

「第二に、核による威嚇を止めなければならない。いかなる場合であれ、核兵器を使用するという脅迫は容認できない」と、事務総長は述べました。

核保有国はまた、核実験のモラトリアムを再確認しなければなりません。そこには、1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)を損ねる行動をしないことへの誓約も含まれ、CTBTの発効を優先しなければなりません。

2023年11月26日、世界中の人々と共に核兵器に反対する世界行動デーに参加するニューヨークの運動家たち © ICAN/Darren Ornitz

約束から行動へ

核兵器不拡散条約(NPT)のもと、説明責任を持って軍縮の約束を行動に移さなければなりません。半世紀以上も前に署名されたこの画期的な条約は、核兵器保有を公にしている国々による軍縮という目標に対して、法的拘束力を持つ唯一の約束となっています。

事務総長は、先制使用に関する共同合意の必要性も強調しました。

「核保有国は、いずれの国も核兵器の先制使用国にならないことに早急に合意しなければならない。当然ながら、いかなる国も、いかなる状況においても使用すべきではない」事務総長は、このように述べました。

核兵器保有数の削減

最後の6つ目として、グテーレス事務総長は、核兵器保有数の削減を呼びかけました。この点については、世界の二大核保有国である米国とロシアに対して、主導的な役割を果たすよう求めるとともに、新戦略兵器削減条約(新START)の完全な履行に向けた交渉に戻る道を見いだし、その後継条約に合意するよう要請しました。

そして非核保有国に対しては、各国が自らの不拡散義務を果たし、軍縮の取り組みを支援する責任があると指摘しました。

安保理については、「今日の分断の先を見据えて、人類の存亡にかかわる核兵器を容認することは不可能だと明言する」ことも含めて、主導的な役割があると事務総長は述べています。

核実験禁止条約

包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のロバート・フロイド事務局長もまた、安保理に対して、同条約の影響力とさらなる前進の必要性について説明しました。

「私が前回この場に出席した2021年から多くの変化がありましたが、変わっていないことが一つあり、それはCTBTの発効への求めである」フロイド事務局長はこのように述べました。

CTBT条約は、337カ所の監視施設からなる世界的ネットワークを通じて、地球上のあらゆる場所における大規模な爆発をほぼ即座に検知することを規定しており、他の検証手段も想定しています。

同条約には197カ国が署名し、178カ国が批准しています。ただし発効に至るには、核技術を保有する特定の44カ国の署名・批准が必要で、そのうち中国、エジプト、インド、イラン、イスラエル、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)、パキスタン、米国の8カ国がまだ批准していません。

昨年には、CTBTに署名・批准していた核保有国であるロシアが、批准撤回を表明しています

軍拡競争を懸念する日本

核軍縮・不拡散に関する安全保障理事会閣僚級会合の議長を務めた日本の上川陽子外務大臣は、広島・長崎の惨禍は決して繰り返してはならないと述べました。

核軍縮の進め方をめぐっては、国際社会が一層分断を深めてはいるものの、「だからこそ、『核兵器のない世界』の実現に向けて現実的かつ実践的な取り組みを着実に進めていくことが重要である」と述べました。

上川外務大臣は、特定の国々による核戦力の急速な増強は、核軍拡競争に火をつける可能性があると警告しました。

「ロシアがウクライナ情勢に関連して行っている、核の威嚇、ましてや使用はあってはならない」と述べ、ロシアに対して、新STARTの完全な履行に戻るよう要請しました。

DPRKやイランをめぐる懸念

上川外務大臣は、より広範な兵器システムを対象とした、適切なガバナンスが機能する幅広い軍備管理枠組みの発展に向けた対話を、日本が強く期待していることを表明しました。

そして、DPRKが3月17日に弾道ミサイルの発射実験を行ったことを指摘し、次のように述べました。

「こうした北朝鮮の行動は、地域および国際社会の平和と安定を脅かすものであり、断じて容認できません。核実験を含め、さらなる挑発のおそれもあります」

この文脈において上川外務大臣は、安保理のDPRK制裁委員会と専門家パネルの役割が決定的に重要であり、その役割を維持する必要があると強調しました。

また他の問題にも触れ、「イラン核問題の解決の目処が立っていない中、現下の中東情勢の緊張の高まりに鑑みても、イランをはじめとする関係国による自制が必要である」と指摘しました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。