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偽情報への対処 ー 偽情報がもたらす課題とその対応について

2023年07月28日

国連総会は、偽情報の拡散に懸念を表明し、偽情報に対処するための国際協力を推進する事務総長の取り組みを歓迎しました。これを受けて事務総長は、各国政府や国連諸機関などが共有する、偽情報への対処に関する情報やベストプラクティス(好事例)に基づく報告書を提出しました。

事務総長は、報告書『Countering disinformation for the promotion and protection of human rights and fundamental freedoms(人権と基本的自由の推進と保護のための偽情報への対処)』において、偽情報がもたらす課題とその対応について説明し、関連する国際的な法的枠組みを提示し、各国政府やテクノロジー企業が偽情報に対処するために講じたとされる措置について考察しています。

「偽情報に対処するには、社会のレジリエンス(強靱性)の構築と、メディアリテラシー・情報リテラシーに向けた持続的な投資が必要だ」 ―  アントニオ・グテーレス国連事務総長

 

偽情報
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デジタル時代における情報
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ここ数十年、急速な技術革新が進んだことで、人々が交流し、コミュニケーションを取り、世界に関する情報にアクセスする方法が完全に一変しました。今や人々は、その手のひらの上に、人類の知識のすべてを握っており、ニュースや情報が瞬く間に世界中に拡散されるようになりました。

機会と危険
教育、情報提供、組織化を行う上で、広大な新しい機会があります。特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるロックダウン中は、保健に関する重要情報のみならず、教育や仕事などへの継続的なアクセスを可能にする上で、テクノロジーが鍵となりました。一方、こうした劇的な変化には、誤情報、偽情報、さらにはヘイトスピーチの拡散スピードが大きく加速するなど、私たちがまだ対処し始めたばかりの悪影響も伴っています。保健対策が幅広く議論され、偽情報や誤情報によって保健対策の実施が一層困難になったことから、COVID-19のパンデミックは悪影響をも浮き彫りにしたと言えます。

「偽情報」とは何か
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「誤情報」が不正確な情報の意図しない拡散を指すのに対し、「偽情報」は不正確なだけでなく、欺くことを意図し、深刻な害を及ぼすために拡散されます。

偽情報は、国家主体と非国家主体のいずれもが拡散し得ます。偽情報はさまざまな人権に影響を及ぼす可能性があり、公共政策に対する(市民の)反応を害したり、緊急事態や武力紛争時に緊張を増幅させたりします。

偽情報について、普遍的に受け入れられている定義は存在していません。選挙プロセス、公衆衛生、武力紛争、気候変動といった多様な問題に関するものなど、偽情報の懸念が生じる多種多様な状況を踏まえると、一つの定義だけでは不十分と言えるでしょう。

偽情報に対処するには?
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人権に根差した対
総会と人権理事会はともに、世界人権宣言第19条と市民的、政治的権利に関する国際規約第19条第1項に規定されているように、個人の表現の自由と、情報を求め、受け、伝える自由を推進・保護して、侵害しないために、偽情報の拡散に対処することを呼びかけています。

表現の自由には、社会規範に対する疑念を問う発言や、皮肉、風刺、パロディー、ユーモアといった形態を取る表現、事実や出来事に対する誤った解釈などの批判的発言も含まれます。こうした発言が、偽情報への対処という名目で不当に制限されてはなりません。

「この複雑な問題に対する単純な解決策を追求するアプローチによって、
国際人権法で保護されている正当な発言が検閲される可能性があります。
そのような行き過ぎた制限は、内在する問題の解決に資するどころか、社会悪を深刻化させ、
人々の不信や分断を深めることになるかもしれません」(A/77/287

 

情報へのアクセスの最大化、デジタル・リテラシーの推進、そして企業との協力
各国政府は、制限を課すよりもむしろ、公的機関、ガバナンス、そしてプロセスへの信頼を築くために、自由で独立したメディアを推進・保護し、透明性と情報へのアクセスを最大化することが推奨されます。加盟国はまた、あらゆるレベルにおける人々の参加を奨励し、意義のある対話と議論も可能にすべきです。

一部の政府は、よりレジリエントで意義のあるオンライン参加を可能にするデジタルおよびメディア・リテラシープログラムを実施してきました。こうした取り組みは、人々が偽情報を特定し、払拭し、その誤りを暴く、批判的思考力を養うのに役立ちます。

各国政府はまた、ジャーナリストや市民社会の参加を伴う独立したファクトチェック活動を支援するツールやメカニズムにも投資すべきです。

各国政府は、国連のビジネスと人権に関する指導原則に従って、企業に対して人権を尊重するよう奨励すべきです。その方法としては、人権デュー・ディリジェンスの実施、偽情報に関する政策や実践の透明性の向上、市民社会との協力、研究者へのアクセスの提供、利用者による自身のオンライン体験の管理強化の促進を、企業に義務付けることなどが挙げられます。

最悪の形態の偽情報への対抗
表現の自由を制限することが認められるのは、例外的な場合に限られます。制限を課す場合は、法律で規定され、個人の権利や国の安全保障を守るために必要で、均衡が取れていなければなりません。実質的に、制限が表現の自由の抑圧につながることがあってはなりません。

各国政府は、国民的、人種的または宗教的憎悪を唱道する人々に対して責任を問わなければなりません。市民的、政治的権利に関する国際規約第20条では、戦争のための宣伝や、差別、敵意または暴力の扇動となる国民的、人種的または宗教的憎悪の唱道を、法律で禁止することを義務付けています。

 

偽情報への対処に関する報告書
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2021年12月の総会決議(A/RES/76/227)における総会の要請に応じて、事務総長は2022年8月に、偽情報への対処に関する報告書を発表しました。

「偽情報に対してレジリエントな、情報公開がなされた社会にとって、
自由で多元的な公の議論は極めて重要だ」

 

「COVID-19のパンデミックは、インターネットが持つ、暮らしを変える力を浮き彫りにしました。デジタル・テクノロジーは、何百万もの人々がオンラインで安全に働き、学習し、交流することを可能にすることで、命を救ってきました。一方で、パンデミックはデジタル格差を広げるとともに、瞬く間に拡散する誤情報、人々の行動操作といったテクノロジーの負の側面も拡大させました。私たちは団結し、協力体制を強化してこそ、こうした課題に取り組むことができるのです。人権と基本的自由を擁護する明確なルールを策定することで。私たちのデータの管理を取り戻すことで。そして、偽情報やヘイトスピーチに対処することで」

「第16回インターネット・ガバナンス・フォーラム」の開会式に寄せる
アントニオ・グテーレス国連事務総長のビデオ・メッセージから(2021年12月7日)

 

主な提言
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偽情報への対処に関する報告書における主な提言

各国政府がすべきこと

  1. 表現の自由を保護・尊重・推進し、情報へのアクセスを確保するとともにメディアの多元性を推進する。
  2. 曖昧な定義に基づく規制や、不当な制裁の発動を避けるとともに、正当なコンテンツを決して犯罪としない。
  3. インターネットの遮断や、ウェブサイト、メディアのブロックは控える
  4. 公の職員が正確な情報を提供すること、および虚偽の情報を拡散する政府当局に対してはその責任を負わせることを確実にする
  5. 偽情報への対処を目的とする政策や他の取り組みの立案に、市民社会を関与させる

 

テクノロジー企業がすべきこと

  1. 自社の活動によって人権への悪影響を引き起こしたり、寄与したりすることを避けるとともに、悪影響に対処する
  2. 偽情報への対処に関する方針や実践を開示する
  3. 自社のビジネス慣行を見直し、人権に関する諸原則に沿ったものとする。
  4. 透明性の向上を確保し、関連するデータや情報へのアクセスを提供する。
  5. 自社が事業を展開するあらゆる場所や関連するあらゆる言語において、自社のコンテンツ・モデレーションの実践に一貫性を持たせ、十分なリソースを割くように計らう

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原文(English)はこちらをご覧ください。