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「世界ユース白書」 要旨: 雇用と教育に世界の若者は共通の懸念

2012年02月07日

若年雇用:激動の時代にディーセント・ワークを求める若者の視点

◆若者のディーセント・ワークに広がる格差

最新の『世界ユース白書』は、若者の学校や訓練機関から労働市場への移行という、ライフサイクルの中でもきわめて重要な時期にスポットを当てています。グローバルな経済危機によって雇用状況が悪化する中、若年雇用の現状は若者にとっても、社会全体にとっても、長期的な影響を及ぼす緊急課題となっています。すべての人に生産的なディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を確保しようという取り組みの中で、若者は重要な利害関係者と位置づけられています。しかし、若者の声は無視されることがあまりにも多く、良し悪しを問わず彼らの経験とそれに基づいた視点は、とりわけ政策決定者の耳に届いていません。『世界ユース白書』はこうした理由から、その大半を全世界の若者自身の言葉を通じて、若年雇用の問題を掘り下げることを主眼としています。

若者は大人に比べ経験や能力が未熟なため、就職することがきわめて困難となることが多くなっています。世界の若年失業率は、これまでも他の年齢層の失業率を上回ってきましたが、2009年には史上最悪の上昇を記録しました。ピーク時には7,580万人の若者が失業状態にありました。景気が低迷すると、若者はしばしば「後入れ先出し」の存在となります。つまり、雇用されるのは最後でも、解雇されるのは最初になるのです。2010年の世界の若年失業率は12.6%と、成人失業率4.8%を大きく上回っています。また、就職後も雇用が不安定で、能力の開発や向上の機会はほとんどなく、失業の怖れも大きくなっています。若者はそもそも不安定な職に就く可能性が高いため、将来の生計や所得の見通しも大きく損なわれかねません。事実、若者は世界のワーキング・プアの中で過度に高い割合を占めています。ワーキング・プアはインフォーマル経済で働くことが多いため、これに関するデータは限られています。しかし、入手できるデータを見ただけでも、若者はワーキング・プア全体の23.5%を占めており、ワーキング・プアでない労働者に占める割合18.6%を大きく上回っているのです。

最近の「アラブの春」に見られる騒乱の背景に、中東・北アフリカ地域における若年失業率の異常な高さがあることは間違いありません。2010年の若年完全失業率は、中東で25.5%、北アフリカで23.8%となっています。これら地域での若年女性失業率はさらに高く、中東で39.4%、北アフリカでも34.1%に上ります。

若年女性の教育水準が大きく改善されたとはいえ、その雇用水準は引き続き若年男性を下回っています。世界的に見ても、2010年の時点で若年男性の56.3%が労働市場に参加しているのに対し、女性の参加率は40.8%にとどまっています。女性が社会進出している地域でも、就職に大きな困難を抱えていることが多く、それが男性に比べた失業率の高さに反映されています。また、女性は雇用されている場合でも、伝統的に女性の役割とされている職業や、不安定なパートタイムの低賃金雇用に甘んじる可能性が高くなっています。

◆時代の動きと若者の見方

若年雇用に関するオンライン・ディスカッションでは、参加した多くの若者が、雇用に関わる共通の懸念について語り合いました。若者たちは、自分たちの世代が受けている教育の質を疑問視し、その内容が果たして就職口とマッチしているのか、自分たちの知識や能力が長期的にどう役立つのか、政策決定者は若者の潜在的能力の育成に必要な投資を行う気がどれだけあるのか、といった問いかけがなされました。参加者は失業率の高さに対するいら立ちを隠しませんでした。特に若年女性は、仕事の性的分化や給与面の差別など、雇用上の障壁に直面しています。就職できた若者も、低賃金だけでなく、長時間労働や雇用不安、医療補助などの給付の不備をはじめとする劣悪な労働条件を余儀なくされることが多いため、独立して家族を養うことができません。また、一部の若者は移住によって雇用機会を得ることに対し、肯定的な意見を述べましたが、底辺の職につくために家や家族から離れ離れになることに対する不安を募らせる向きも多くありました。参加者たちは口々に、国が自分たちの不安を優先課題として扱わず、それに取り組む制度的能力も備えていないとして、絶望感を表しました。自力で何とかやっていくしかないのだという感覚が、若者たちに共通して見られました。

◆「学業は就職の足しにならなかった」

若者たちは、高等教育制度・機関の多くが現状の労働市場のニーズに十分に対応していないと見られています。正規教育のカリキュラムは理論偏重に陥っているため、学生は十分な就職の準備も、実務に必要な技術の獲得もできていないという声が、多く寄せられました。その結果、就職を遅らせて勉学を続けたり、底辺の仕事に甘んじたりする学生も見られます。こうしたことから、教育機関と雇用主との間により多くの、より強いつながりが求められています。さらに、私立校と公立校の質の格差が広がり、私立校の卒業生が労働市場で競争優位にあることを指摘する若者もいました。非正規の教育については、重要な具体的能力の育成で正規教育を補足するだけでなく、正規教育を受けられない若者にとって重要なリソースになっているとして、むしろ肯定的に捉える意見のほうが多く見られました。参加者はさらに、就職準備の手段として職業教育を高く評価しましたが、アクセスが不十分だとしたうえで、これが実際どれだけディーセント・ワークにつながるのかという点について、懸念を表明しました。また、全体的に見て、インターンシップ制度やボランティア活動が生活技能を磨く機会となり、起業を含む雇用の見通しを明るくすると感じる若者も多くいました。

◆「資格や認定に過度にこだわりすぎる」

若者は可能な限り、幅広いツールを発掘し利用していますが、就職情報やガイダンスの最も貴重なソースとなっているのは仕事や社会におけるフォーマルあるいはインフォーマルなネットワークです。オンライン・ディスカッションでは、手をこまぬいているのではなく、行動を起こすことが大切だという若者の意識も浮き彫りになりました。この意識は、根気と経験、やる気があれば、きっといつかは報われるという信念から、不完全雇用状態を耐え抜いている若者の姿とも重なります。参加者は情報通信技術(ICT)やソーシャル・ネットワーキング、環境の持続可能性(「グリーン・ジョブ」)といった分野の新しいタイプの仕事を、若者にとって有望な機会と捉えました。また、自発性、熱意、忍耐、前向きな姿勢こそが、就職の鍵を握る重要な要素だという点についても、幅広い合意が見られました。

◆「仕事があっても安心できない」

参加者は短期雇用契約の常態化、生活費が高騰する中での低賃金、十分な実務経験を積むのが困難なこと(一部の若者は教育機関での実務研修の義務づけを要望)、職場での昇進機会がほとんどないこと、学生ローンをはじめとする債務、家族の生活状態などをあげ、雇用不安に対する懸念を表明しました。高い失業率と劣悪な労働条件を克服するうえで重要かつ効果的な手段として、中小企業の立ち上げがあげられましたが、起業に関する実用的な情報やガイダンスも、また資金を調達する機会もなかなか得られないという現実も指摘されました。

◆「働く機会と、実力を発揮するチャンスが欲しい」

ディーセント・ワークは若者の終身雇用の成功に貢献するだけでなく、家族の生活状態や国内の社会・経済情勢全般に多くの効果を及ぼすことが認められています。これまでは、勉学と労働に励むことこそ、ディーセント・ワークや成功を得る手段と考えられてきましたが、その有効性が疑わしくなっている現在、社会が若者にこれを期待することはできません。グローバル経済危機を受け、歳出削減を目的に、雇用や教育といった社会部門を含め、緊縮措置に踏み切る政府が増えています。しかし、緊縮政策がそれ自体、失業の増大をもたらしかねないことは立証済みです。若者たちが自分たちの潜在能力を発揮して大人へと成長し、積極的な市民として行動するためには、金銭的、社会的な投資が必要です。将来に確信が持てないとする若者は多くいたものの、まだ希望は残っているといえます。

『世界ユース白書』は UNWorldYouthReport.org でご覧になれます。

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