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事務総長、5カ年行動計画「私たちが望む未来」を総会に提出

プレスリリース 12-007-J 2012年02月03日

致死の病気、持続可能な開発、予防的手法を優先課題に

以下は、潘事務総長が2012年1月25日、ニューヨークの国連本部で総会に対して行った、自らの5カ年行動計画「私たちが望む未来」に関する演説の日本語訳です。

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おはようございます。そして皆様、新年おめでとうございます。

昨年9月、私は皆様の前で、事務総長2期目に向けた5つの重要課題についてお話しました。それは私たちが大きな前進を遂げることのできる、また、遂げなければならない5つの重要分野であると同時に、国連の中核となる任務を創造的に遂行する、この世代に授けられた5つの機会でもあります。その1つ目は、持続可能な開発。2つ目は、紛争と災害、人権侵害や開発後退の予防。3つ目は、民主主義と人権という基本原則の堅持を含む、より安全な世界の構築。4つ目は、移行期にある国々への支援。そして5つ目が、女性と若者のための活動です。

きょうは、今後5年間に向けた行動計画について、皆様にお話ししたいと思います。それは、私たちに与えられた機会を最大限に活用するための計画、より安全で持続可能、かつ公平な未来をつくるための助けとなる計画、そして私たちが望む未来を築くための計画でもあります。私たちのビジョンの広さと深さを把握していただくため、この計画について、できるだけ詳しくお話したいと思います。

行動計画の全文は、この会議の席で皆様にお配りするほか、本日中にすべての国連公用語版もでき上がる予定です。透明性と情報共有の観点から、国連のツイッター・アカウントにもこの文書へのリンクを掲載し、世界のどこからでも閲覧できるようにします。

世界の構図は、人的にも物理的にも変化を続けています。経済を牽引する新たなセンターが生まれています。テクノロジーは人々の絆をますます強めています。その一方で、経済的不安や社会的不公正も広がっています。

世界の人口は70億人に達しました。5年後の人口はさらに5億人増えることが見込まれますが、そのすべての人々が食料や仕事、安全、そして機会を必要としています。

環境、経済、社会のどの指標を見ても、現在の私たちの発展モデルは持続不可能なことがわかります。気候変動は持続可能性へと続く道を閉ざしています。多くの課題が迫る中、資源がますます制約される世界に、私たちは暮らしているのです。

持続可能な開発は、私たちの進路を調節できる最善の機会を提供するものです。私がこれを最優先事項の最初に掲げているのも、そのためです。他の課題と同様、この課題に取り組む際にも、私たちはアフリカのニーズと優先課題に特別の関心を払わねばなりません。それは何よりも、私たちがミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向け、ラストスパートをかけているところだからです。

開発はうまくいかないという神話があります。事実はこれを否定しています。私たちは短期間のうちに、疾病対策の効果改善や初等教育の普及、グローバルな貧困の急減など、劇的な進歩を目にしてきました。

今後5年間で、私たちは世界で最も多くの死者を出している病気のうち5つを撲滅します。マラリア、ポリオ、子どもへのHIVの新規感染、そして母子の破傷風による死者はいなくなります。はしかによる死者も95%減少させます。また、リプロダクティブ・ヘルス・サービスの提供を含め、女性と子どもの健康に関するグローバル戦略の全面実施により、何千万人もの命を救います。

国連は、極度の貧困と飢餓にも取り組みます。特殊なニーズがある国々、そして十分な前進が達成できていない国々を中心に、不平等の解消にも注力します。5歳未満の子ども1,700万人以上を苦しめる成長阻害という隠れた病に終止符を打つことで、私たちは今後の世代が持つ潜在能力を開花させようとしています。これは子ども4人のうち1人にあたる数です。さらに国連は、21世紀の課題に立ち向かえるような質の高い、適切な普遍的教育を施すことにより、将来の世代のエンパワーメントを図ろうとしています。

私たちは2015年以降も見据えながら、MDGsを土台とした新世代の持続可能な開発目標に関するコンセンサスづくりに努めています。この新しい目標は、地球の環境的境界線を尊重した公平な経済的、社会的前進を実現するものとなるでしょう。こうした取り組みの調整役を私の代わりに務める上級顧問を任命するつもりです。

来週の月曜日(1月30日)、フィンランドのタルヤ・ハロネン大統領と南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領は「地球の持続性に関するハイレベル・パネル」の最終報告書を発表します。報告書の提言は国連持続可能な開発会議(リオ+20)を成功に導く一助となります。国連はシステム全体を動員し、持続可能な開発の基礎的要素に取り組んでいきます。それは、食料と栄養の安全保障からすべての人のための持続可能エネルギーに至るまで、また、持続可能な輸送から安全な飲み水への普遍的アクセス、さらには十分な衛生施設や海洋のガバナンス改善に至るまで、すべてを含みます。

しかし、持続可能な開発は気候変動への取り組みにもかかっています。昨年12月、ダーバンで各国は、すべての国々が排出量削減を約束する拘束力のある協定締結に向けたスケジュールに合意しました。私たちには、2015年までにこれを実行に移す集団的責任があります。しかし、このような交渉を続ける間も、母なる自然は待ってくれません。この先5年間、REDD+を含め現場での軽減・適応対策を支援する必要があります。

さらに「グリーン気候基金(Green Climate Fund)」を軌道に乗せ、2020年までに合意済みの目標1,000億ドルを達成できるよう、官民から資金を調達しなければなりません。私も加盟国とともに、根拠に基づく政策の推進に努めていきます。科学的事実に基づく行動が必要です。最後に、私はきょう、加盟国と協力し、南極大陸を世界資源保護区とする活動に着手することを発表します。

予防が治療にまさり、しかも安くつくことはよく知られています。平和と安全、人権の促進、開発など、私たちの活動の全分野で災害と紛争の予防に注力すれば、数百万人の命を救い、何十億ドルを節約できる可能性があります。これは経験からも明らかです。全面的に予防を優先すべき時がやって来たのです。

紛争については、国際社会全体からの情報のマッピング、関連づけ、収集、統合による早期警報と紛争対策を、私の行動計画の主眼としています。その中では、各国の対話促進能力の支援が重視されています。また、国連の斡旋、調停、緊急危機対応サービスを、必要とする加盟国が簡単かつ迅速に利用できるようにしなければならないことも定めています。

私たちは人権についても、予防的な手法を採用します。罪が罰せられない時代は終わりました。アカウンタビリティ(説明責任)の新時代が到来したのです。国際刑事裁判所(ICC)の活動領域を拡張し、浸透しつつある「保護の責任」という原則の新次元を切り開いていきます。

自然災害については、気候変動、環境劣化、都市化、人口増加という山積する課題に取り組むリスク削減計画の策定を図ります。また、後発開発途上国や最も被害を受けやすい国々を特に重視していきます。

次は行動計画の3つ目の項目、すなわちイノベーションと国連の中核となる活動の強化による、より安全な世界の構築です。

国連平和維持活動(PKO)の役割は拡大を続けています。停戦監視要員だけを派遣していた時代とは、まさに隔世の感があります。私たちは現在、平和の維持、執行そして構築を期待されています。私たちの活動は文字どおり、コミュニティ間の橋渡し役となっています。私たちは平和維持の新たなパートナーシップを構築していきます。そのためには、地域機関とのより一層の協力が必要となります。私たちはまた、ますます複雑化する活動の需要に応えるため、平和維持要員に必要な時に必要なものすべてが提供されるよう努めます。

しかし、よりグローバルで責任に応えられる強固な人道システムを構築しない限り、より安全な世界をつくることはできないでしょう。私たちはこれを実現するため、特にグローバル・サウスの人道組織との協力を密にしていきます。また、コミュニティの抵抗力と緊急対応を強化するとともに、準備態勢を評価するためのモニタリング・システムを確立します。さらに、人道援助の透明性と有効性に関するグローバル宣言とアジェンダの採択も促進します。

中央緊急対応基金(CERF)はきわめて順調に機能していますが、私たちはそれを拡大し、緊急時の対応のために新しい革新的な資金源をさらに発掘する必要があります。最後に私は、知識を共有し、共通の優良事例を確立するため、史上初の世界人道サミットの開催を提案します。

グローバルな軍縮と不拡散の問題からも目が離せません。軍縮会議へ送るメッセージは明確です。「仕事に取りかかってください」。テロの脅威から、昨年の福島第一原発事故のような災害による環境汚染のリスクに至るまで、私たちは核安全保障と原子力安全性の問題にも改めて焦点を当てていきます。

そして私たちは、国連によるテロ対策の整合性と機能を高めていきます。私はきょう、国連内の既存の役割のいくつかをまとめ、これを一元的に果たす国連テロ対策調整官のポスト創設を提案します。私たちはまた、組織的犯罪や海賊行為、薬物密売による脅威の高まりに対処していくために、集団行動を結集し、新たなツールと包括的な地域・グローバル戦略を開発します。

行動計画の第4点は、移行期にある国々への支援です。紛争からの移行期にある国々には15億人もの人々が暮らしています。これらの人々は、MDGsの達成からは程遠い存在です。報道記事が新聞の一面から消え、取材のカメラが去った後も、国連は活動の焦点と関心を向け続ける心構えでいなくてはなりません。

移行期にある国々は私たち国連に対し、自由と機会の定着への支援を期待しています。国連には、移行期の社会を支援する責任があります。また、豊富な経験から、支援する実力もあります。平和構築、法の支配、選挙支援、紛争解決、腐敗防止、憲法制定、さらには権限分割協定や民主化の営みなど、特に国連独自のサービスに対する需要が高い地域で、私たちの取り組みをさらに拡大すべき時が来ています。移行期にある国を支援する中で、国連はさらに「移行コンパクト」のもとに支援を続けて生きます。このコンパクトは、脆弱な環境、紛争下にある環境における当事者と相互に決めるもので、戦略的目標や相互のアカウンタビリティに基づくものとなります。

持続可能な開発からより安全な世界に至るまで、また、予防から移行に至るまで、あらゆる課題を貫く必須の要素が一つあります。それが女性と若者のエンパワーメントです。あまりにも多くの国々で、あまりにも多くのコミュニティで、そしてあまりにも多くの家庭で、女性は依然として、その貢献の能力を認識されていません。

5年前まで、現状を変えようとする私たちの活動はばらばらで、非効率でした。いま私たちには、総合的かつ専門的な組織「UN Women」があります。女性に対する暴力をなくすための国連キャンペーンを、さらに深めていきます。各国が女性に対する暴力を犯罪として定め、女性に司法へのアクセスを提供する法令を採択できるよう、支援を強化します。また、平和構築への女性の参加に関する私の7項目アクション・プランを特に重視しながら、全世界での女性の政治参加を促進するため、さらに取り組みを重ねていきます。

女性が政治的リーダーシップに平等にアクセスできるよう保障し、選挙への積極的な参画を促進し、実効的なリーダーとなる能力を育成する措置を、各国が講じるよう国連は働きかけます。そして、女性が社会や経済の復興から置き去りにされないよう、その全面的な参加を確保するための行動計画を策定します。

私たちは、これまで以上に国連システムを一つにまとめ、雇用を伴う経済成長という新たな社会契約を支援する必要があります。まず若者の支援から始めようではありませんか。

世界は今、史上最大の若年世代人口を抱えています。若者たちは自分たちの権利と、政治経済問題に対する発言力の増大を求めています。私たちは若者のニーズに応え、機会を作り出すため、全力を尽くしていきます。若者重視の姿勢をさらに強め、雇用、起業、政治参加、人権、教育、リプロダクティブ・ヘルスなど、国連のプログラム全体をカバーするアクション・プランを策定します。私たちの課題を策定して実施につなげ、さらには国連ユース・ボランティア・プログラムを主導的に推進するために、私は若者担当の特別代表を新たに任命する予定です。

私の5カ年行動計画の内容は、以上のとおりです。どの項目も野心的ですが、達成は可能です。その成否を分ける大きな要素は2つあります。第1に、「すべての人のための持続可能エネルギー」「Every Woman, Every Child(すべての女性、すべての子ども)」「グローバル・コンパクト」「Scale Up Nutrition(栄養増進)」「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」をはじめとする、パートナーシップ型の取り組みの成果は、何が可能かを如実に物語っています。

新たな国連パートナーシップ機関を創設することにより、国連の活動全体を通じ、変革をもたらすパートナーシップの力を全面的に活用します。この機関は民間企業や市民社会、慈善活動家、学識者との協力により、共通の目標達成に取り組み、約束を取り付け、アカウンタビリティを促していきます。私はまた、システム全体のパートナーシップによる取り組みの調整を担当する上級顧問を任命する予定です。

2つ目は国連自体の強化です。私は世界各地の最も困難な条件下で、時には自らの生命を大きな危険にさらしながら活動を続ける職員の姿を見てきました。私は「管理変革チーム」の活動を拡張し、職員や加盟国との新たなコンパクトの締結に努めていきます。このコンパクトは、予算規律と柔軟性だけでなく、世界の人々への効果的なサービス提供も重視するものとなります。

国連事務局では引き続き、職員のモビリティー(組織内の流動性)に関する政策を推し進め、グローバルな事務局に裏打ちされた、近代的で多機能な労働力の構築を図っていきます。また、緊縮の時代という背景に鑑み、より少ないものでより多くを成し遂げるよう努めます。最後に私は、アカウンタビリティの強化と成果の改善に重点を置く「Delivering as One(国連諸機関が一体となった任務遂行)」第2世代の発足も提案します。

私たちの周りには、大きな変革の波が押し寄せています。うまく舵を取れば、すべての人にとってより安全で持続可能な未来をつくり出すことができます。国連はこの荒波に立ち向かう船といえます。私たちはすべての人々の代表です。すべての課題に取り組みます。対話を促進し、お互いを結び付ける普遍的な規範を確立します。私たちはパートナーシップと行動の場を提供しているのです。

今こそ私たちの時代です。私たちが望む未来を築く時がやって来たのです。

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5カ年行動計画を総会に提出する潘基文(パン・ギムン)国連事務総長(2012年1月25日、国連本部)©UN Photo
バングラデシュ北東部の町にある地域クリニックで診察の順番を待つ母子(2011年11月)©UN Photo
深刻な洪水被害に見舞われたタイの首都バンコク(2011年11月)©UN Photo
コートジボワールのアビジャンで、元民兵を対象にDDR(武装解除)を進める国連コートジボワール活動(UNOCI)の要員たち(2012年2月)©UN Photo
民主化の進むミャンマーで、民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーさんと会見に臨むナンビアール国連事務総長特別顧問(2012年2月)©UN Photo
ニューヨークの国連本部で開催された国際ユース年イベントの参加者たち。対話と相互理解を深める上での女児と若い女性の果たす役割を話し合った(2011年8月)©UN Photo