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開催報告:「アジア太平洋経済社会調査2011」ブリーフィング

2011年05月17日

国連広報センターは5月10日、「アジア太平洋経済社会調査」2011年版発表にあたってのブリーフィングを、国連大学本部ビルにて開催しました。国連アジア太平洋統計研修所(SIAP)所長を務めるダバスーレン・チュルテムジャムツ氏、並びに国連アジア太平洋経済委員会(UN-ESCAP)でマクロ経済政策・開発局経済担当官を務める梶浦伸子氏をブリーファーにお迎えし、報告書の概要と、3月11日の東日本大震災による日本及びアジア太平洋地域への影響についてお話いただきました。以下にブリーフィングの概要を報告します。

1)「アジア太平洋経済社会調査2011」報告の概要

・2011年のアジア太平洋地域の経済成長率は2010年の8.8%から7.3%へと鈍化が予想され、輸出指向型経済より内需動因型経済で鈍化の程度が大きいと見られる。とは言うものの、アジア太平洋地域は依然としてリーマン・ショック後の世界的不況からの脱却、成長の牽引役である。

・食料・エネルギー価格の高騰や途上国資本の流動化が進んでいることから、2011年は更なる貧困層の増大の危険性が高まっており、同年に延べ4200万人が貧困状態に置かれる可能性がある。

・アジアのダイナミックな成長を維持するためには生産能力向上が不可欠であり、特にアジア太平洋域内の後発開発途上国(LDC)を、域内での連携を強めながら、国際的にもサポートしていく体制が求められる。

・同時に、工業や貿易発展に必要不可欠なインフラとエネルギーなどあらゆる面における「connectivity(結合性)」を高めていくことも成長を担保するものとなる。

2)東日本大震災による日本及びアジア太平洋地域への影響

・日本のGDP成長が、震災以前のGDP成長予想から1%低下した場合、アジア諸国のGDP成長と輸出への影響は0.1~0.5%のマイナス影響となる。

・この影響は輸出依存型経済や日本との経済的関係が深い国ほど大きくなると予想される。

ブリーフィングには政府関係者、研究者、メディア、学生など約40名が参加しました。食料やエネルギー価格の高騰による更なる貧困の拡大が懸念されるものの、着実な回復・成長を遂げているアジア太平洋地域は、その活力を域内協力によって更なる発展につなげるべきであることを、具体的な調査結果を基にお話いただきました。質疑応答では特に、東日本大震災による経済的影響に関心が集まりました。ブリーファーの梶浦氏からは、今回の報告書は震災以前に作成されたものであるため、今後も経済の動向に着目していく必要性がある、との見解が示されました。参加者からは、アジア諸国に対する影響がいち早く予測されており、有意義であった、といった意見がありました。

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以下はブリーフィングで配布された資料です。

1)日本経済に震災の余波

国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)は2011年5月5日、報告書『アジア太平洋経済社会調査2011(Economic and Social Survey for Asia and the Pacific 2011)』を発表し、2011年3月11日に東北地方を襲った巨大地震と津波がアジアの開発途上国経済に及ぼす影響は、予想されたほど大きくないとの見方を示しました。

ESCAPは、オックスフォード経済予測モデルの枠組みを用いて2011年に日本経済の成長率が1.0%落ち込むとする最悪の見込みを想定し、シミュレーションを行いました。その報告書によると、アジア太平洋地域の開発途上国経済の成長率に及ぶ影響は0.1%程度となる見通しです。

しかし、悪影響の度合いは国によって異なるとも考えられます。2011年に日本の経済成長が減速すれば、シンガポールは経済成長面で比較的大きな影響を受けかねない一方で、インドネシアは輸出実績面で相対的に大きな影響を受けるおそれがあります。

また、域内諸国の中には、地域的生産連鎖の一部を占める日本からの投入財供給が混乱することで、輸出面でさらに大きな打撃を受ける国々が出てくる可能性もあります。

震災と津波に福島原子力発電所の放射線漏れ事故が重なったことで、特に国内のサプライチェーン断絶から、他のアジア諸国にもより長期的な経済的打撃が及ぶ公算が大きくなっています。震災により、日本の電力生産量全体のほぼ30%を占める原子力発電所からの電力供給停止が相次ぎ、国内の工業生産に影響が生じているからです。

震災や津波による被害に関する最新の情報と評価によると、日本のGDP成長率は2011年第2四半期に過去最大の減少を示し、年間の成長率も当初の予測を0.2~0.3%割り込むと予測されています。地震と津波の被災地は農業を主体とする地域ですが、一部で石油や鉄鋼、製紙などの素材型産業も見られ、日本のGDPの6.5%を占めています。

とはいえ、東京をはじめとする経済活動の中心地で混乱が長引かない限り、震災の全国的な影響は限られているというのが基本的な見方です。さらに、来年には被災地の復興が景気浮揚の効果をもたらすと見られています。

2)ESCAP 「アジア太平洋経済社会調査2011」:日本

2010年の景気回復

・2009年に6.3%の縮小を強いられた日本経済は2009年第2四半期以降、急速な回復を遂げました。2010年後半の景気回復は減速したものの、2010年のGDP成長率は3.9%となっています。
・経済成長は依然として外需主導型ですが、内需も若干ながら寄与しています。
・内需を牽引したのは、耐久消費財をはじめとする民間消費の成長ですが、これは財政面からの景気刺激策の一環として「グリーン家電」製品に補助金が支給されたことを反映しています。
・2009年を通じて7%以上も低下していた名目賃金の成長率も、2010年にはプラスに転じ、消費者マインドの改善に貢献しました。
・しかし、住宅投資の回復は滞っており、改正建築基準法の変更によって住宅投資が大幅に落ち込んだ2007年の水準近辺にとどまっています。民間設備投資は、企業収益と業況感の改善を反映し、回復を続けています。
・対ドル円高が続く中でも、輸出は急激に回復しました。しかし、2010年第3四半期になると、アジアでの需要が大幅に減速したため、輸出の成長も頭打ちとなりました。

デフレ懸念

・域内の他の諸国とは対照的に、日本経済ではデフレが再び大きな懸念材料となっています。消費者物価は2009年に比べ、ペースこそ落ちたものの、2010年もマイナス0.7%と低下を続けています。
・このデフレ圧力は、経済成長の減速による生産ギャップ、生産者による値上げをさらに難しくしている規制緩和や中国からの競争圧力をはじめとする構造的要因、賃金上昇率の低迷と円換算の輸入価格を引き下げている円高など、さまざまな要因が重なって生じています。

経済政策

・国債残高は対GDP比で、2009年の217.5%から2010年には225.0%へと増大しました。にもかかわらず、日本政府は2010年後半、デフレ圧力と労働市場の状況悪化に鑑み、財政面からの景気刺激策を再び導入しました。
・この追加的財政支出と景気回復の遅れ、税収の減少が相まって、政府の財政赤字は2010年、GDPの7.5%に達しました。
・その他域内諸国と異なり、日銀は10月、さらなる金融緩和策に踏み切りました。すでに0.1%となっていた誘導目標金利はデフレの再発により、0.0%から0.1%の範囲に引き下げられました。この政策は中長期的に価格が安定するまで続く公算が大きくなっています。
・景気の見通しに明るさが見られない中で、2010年には円高が急速に進んだため、日銀は9月、6年ぶりに外国為替市場に介入を行いましたが、大きな効果は得られませんでした。

地震と津波による大打撃
・未曾有の巨大地震とそれに続く津波による打撃は、放射能汚染のリスクと不安、そして電力供給の混乱によって、さらに深刻になっています。
・3月の政府による概算見積りによると、経済的な損害は3,090億ドルにも上るおそれがあります。東北地方沿岸部のインフラに甚大な被害が及んだことによる経済への悪影響は、今後も長く尾を引くことになりますが、復興によってある程度、経済成長が加速する可能性もあります。
・インフラ復興には膨大な額の公共支出が必要となることから、政府の財政赤字はさらに拡大するものと見られます。
・日銀はすでに、金融市場に多額の資金を投入し、流動性の維持を図っています。

経済見通し

・巨大地震と津波により、経済に甚大な損害が及んでいることもあり、日本の経済成長は鈍化を強いられる見通しが強まっています。経済成長率は1.5%に低下すると見られます。

資料作成:ESCAP「アジア太平洋経済社会調査2011」

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ブリーフィングを行ったダバスーレンSIAP所長(右)とUN-ESCAP経済担当官の梶浦氏
東日本大震災による日本及びアジア太平洋地域への影響に関心が集まった
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