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この人に聞く:エボラ出血熱に関する国連特使、デビッド・ナバロ博士

2015年01月16日

2015116 – 2万1,000人以上が感染し、8,500人が死亡するという破壊的影響を及ぼしたエボラ出血熱への対策が、ようやく実を結びつつある中、対応機関は活動の焦点を、治療と安全な埋葬の確保、地域コミュニティへの働きかけから、感染リスクがある人々の追跡と隔離へと移しつつある。そのねらいは、症例をゼロに近づけるとともに、不可欠のサービスその他、生活のための基本的なニーズを復旧することにある。

デビッド・ナバロ博士は2014年8月以来、エボラ担当特使として、国連によるエボラ対応の戦略的、政策的方向性を定めるとともに、影響を受けたコミュニティや国に欠かせない国際支援の活性化を図ってきた。ナバロ特使は、新たに国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)の長に任命されたイスマイル・ウールド=シェイク・アフメッド特別代表との密接な協力により、感染地域の政府によるエボラ根絶の取り組みを支援している。

リベリア、ギニア、シエラレオネ3カ国の訪問を終えたナバロ特使は、エボラ対策の継続に向けた資金拠出要請を目的とする世界経済フォーラムとヨーロッパ各国の歴訪を前に、ニューヨークでUN News Centreとのインタビューに応じた。特使は、エボラ蔓延の食い止め、対応機関による焦点のシフト、そしてエボラを克服できるという自信の高まりについて語った。また、警戒を続け、国際的な人材、物資、資金の支援をさらに増強する必要性を強調するとともに、エボラ・ワクチン承認の可能性に対する期待も表明した。

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「人材、物資、資金という資源は常に必要です。また、こうした資源を確保するためには、政府や財団に拠出を呼びかける必要があります」

UN News Centre:こんにちは、ナバロ博士。まず、エボラ対策の現状について、最新の動向をご説明いただけますか?

ナバロ特使:ありがとうございます。最初に、現在のエボラ発生状況について説明したうえで、各国政府と地域社会がどのような対応を行っているか、そして、国際社会がこれをどのように支援しているかについて、お話したいと思います。

まず、発生状況について簡単にご説明します。私たちは9月、感染地域で発生する症例数を1日当たり150件と見ていましたが、この数は日に日に急増しました。つまり、発生が加速したことで、私たちの対応が追いつかないことを心配していたのです。現時点で、1日の新規感染数は全体で50件程度に落ち着いています。これより少ない日もあります。しかし最も重要なのは、週ごとに見た場合、新規感染数が徐々に低下しているということです。3つの感染国すべてでこのような低下が見られたのは初めてで、これは発生が 収まりつつある兆候だと言えます。しかし、新規感染者がすべて特定され、治療を受けるまで、対応者としての仕事は終わりません。よって、まだ取り組みの手を緩めることはできないのです。

エボラ対応は、感染国の政府が主導しています。感染地域は広く、ほぼフランスの面積に匹敵します。この地域はさらに60の小地域、つまり地区や郡、県に分かれています。最近の数週間の対応は、こうした現地のレベルが中心となってきました。対応の焦点も、治療または安全な埋葬の確保や、コミュニティへの働きかけから、エボラ感染のリスクがある人々やエボラ感染者を特定し、その早期治療と家族からの隔離を確保するとともに、感染者と最近接触した者全員を追跡するための取り組みへと絞られてきました。現在、私たちは「症例発見と接触者追跡」という段階に入っています。つまり、探偵のような仕事です。地域でのエボラ感染をなくすと同時に、学校教育、保健、農業、市場など、普通の日常生活をつくり上げるすべての側面を復旧、復興させることが、私たちの目下の絶対的な目標といえます。それが私たちの現段階の仕事です。症例をゼロにし、必須のサービスその他、生活の基本的なニーズを元に戻すことです。

ナバロ博士(右)と国連エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)を率いるイスマイル・ウールド=シェイク・アフメッド特別代表(左)。リベリア訪問中、国連ヘリコプターの中でも打ち合わせが続く©Photo: NMEER/Simon Ruf

UN News Centre:症例ゼロに焦点が移るとのことですが、これはどのように達成し、維持していくのですか?

ナバロ特使:症例ゼロを達成するためには、感染リスクにさらされた人をすべて特定し、約20日間、実際に感染しているかどうかを観察しなければなりません。感染リスクのある人とは、感染したことが分かっている人と接触したことがある人を指します。これが「接触者追跡」です。新たな感染症例が、エボラ感染者と接触したことが分かっている人だけから生じていれば、接触者追跡がうまく行き、ゼロ症例の実現が近づいてきていることになります。突如として、あちらこちらで予測していない症例が報告される事態が生じれば、ゼロ症例の達成には程遠いということになります。しかし、予期しない症例発生がストップし、感染が分かっている人のみが発症するようになれば、目標実現が近づいているという感触を得られるでしょう。そこで、今の状況はどうなっているかということですが、幸いにも、感染経路の把握と接触者追跡は一部の区域で成功していることが判明しています。しかし、予期せぬ症例が生じている区域もあります。エボラ患者が急に発生しているのです。私は数日前、現地を訪問した際に、急な症例発生があった区域と、早期治療の促進と急発生の原因究明の取り組みがかなり進んでいる区域をともに視察しました。しかし、日ごとに、そして週ごとに、症例が徐々に減っていることは確かです。ですから私たちは、正しい方向に進んでいるという全般的な感触を得ています。とはいえ、まだ目標は達成できていないため、警戒を続け、油断しないようにすることが肝心です。

 

 UN News Centre:最も感染が広がっている国々を訪問されたということですが、前回の訪問から何か変わっていることはありましたか?

ナバロ特使:これまで、私は6回、感染地域を訪問しています。8月の初訪問では、恐ろしい状況を目にしました。状況がまったく把握できなかったからです。私の口からは「この数週間で、状況がどうなるかわからない」とか、「どれだけの症例があるかまったく掴めない」とか、「これからどのような苦難や苦痛が待ち受けているか、想像できない」などという言葉しか出てきませんでした。私たちは最悪の事態を覚悟していたのです。そして事実、事態は悪化しました。9月はさらに悪く、10月も困難な状況が続きました。しかし、この数週間で、事態は大きく改善し、エボラを克服できるという自信が生まれました。そのきっかけは12月初旬、リベリアで見られました。それまで感染がひどかったいくつかの区域で、症例がゼロまたはほぼゼロになったのです。他の国内各地でも、状況は少なくとも改善に向かっていました。とはいえ、12月上旬になっても、恐ろしい状況は続いていました。特にシエラレオネの状況は深刻でした。

リベリアやシエラレオネ、さらにはギニアで大きな転換が見られたのは、今年に入ってからです。「やったぞ」というのではなく「きっとできる」という気持ちがみんなに芽生えました。任務を何とか達成できるという雰囲気が、周囲に生まれたのです。しかし、そのためには、警戒と注意を怠らず、仕事をやり遂げねばなりません。スポーツの言葉を使えば、「ボールから目を離せば、痛いしっぺ返しがある」というところでしょうか。実際、他の疾病対策では、このようなことが起きています。ですから、集中力を保ち、警戒を解かず、規律を維持する必要があります。今回の訪問は、このメッセージを伝えることが主眼でした。警戒を緩めないこと、気を抜かないこと、任務を確実に遂行すること。私はこれらを自分のメッセージというよりも、人々から受けたメッセージとしてそのまま伝えています。

マリの赤十字社でボランティアとして働く女性(左)。説教師シェリフ・オスマン・マダニ・ハイダラの管理下にある敷地で、巡礼者の体温を測定している©Photo:UNMEER/Pierre Peron

UN News Centre:地域的に、そして国際的に警戒を維持するためには、主に何が必要ですか?

ナバロ特使:病気に対する注意を怠らず、早急に対応できる状況を維持することです。中でも一番大切なのは、病気について知っている専門家がいることです。こうした専門家は「疫学者」と呼ばれます。伝染病を研究する人という意味です。しかし、エボラに関しては、特に罹患時や死亡時の人々の行動で感染が広がることが多いため、「人類学者」という別の専門家も必要になります。つまり、行動を研究する人です。疫学者と人類学者の混成チームを感染国全土に派遣し、病気がどれだけ広がっているか、そして、人々がその対応において、どのような行動を取っているかをつぶさに監視する必要があります。こうした専門家は、あらゆる場所で必要です。私たちが数百人の専門家を必要としているのは、エボラ感染者を見つけ出して監視し、発症した場合に治療を施さねばならないからです。つまり、広範な地域に派遣した専門家に対し、監督者による支援と、相互のコミュニケーションを可能にする極めて効果的なITを提供するとともに、道路やコミュニケーション手段が整備されていない場所で必要なものを供給できるよう、輸送体制も確立する必要があります。私たちはこの作業に注力しています。

ギニアの首都コナクリにあるドンカ国立病院を視察。ナバロ博士(左)とハジャ・ファトウ・シケ・カマラ院長(右)©Photo: UNMEER/Martine Perret
シエラレオネの首都フリータウンでは、急ごしらえの青空教室で学ぶ子どもたちの姿が数多くみられる©Photo:UNMEER/Jorge Rodriguez

UN News Centre:次はヨーロッパ各国を歴訪されるようですが、その主眼は何ですか?

ナバロ特使:取り組みを維持するためには、各国政府やパートナーのNGO、国連システムの人々が、定期的なプログラム策定を続け、問題が生じたときに対処できる資金と、移動のための交通手段を確保しなければなりません。人材、物資、資金という資源は常に必要です。また、こうした資源を確保するためには、政府や財団に拠出を呼びかける必要があります。私はそのために、各国を歴訪し、世界経済フォーラムのような重要な会議に参加するとともに、これまでボランティアをはじめとする人員を多く提供してきたアフリカ連合(AU)も訪問し、資源の提供者が拠出の意義を理解すること、そして、拠出を考えている人々にできるだけ寛大な援助の働きかけが行われることを確保しようとしています。

ギニアの大統領官邸で、アルファ・コンデ大統領(右)と握手を交わすナバロ博士(左)
©Photo: UNMEER/Martine Perret

 

UN News Centre:世界保健機関(WHO)は最近、新ワクチンが「希望の兆し」になっていると述べていますが、このワクチンは、これら最も感染が広がった国々の人々にいつ、どのようにして届くのでしょうか?

ナバロ特使:この数カ月間、体内に抗体を作ることにより、エボラウィルスにさらされた人々の発症を防ぐワクチンの開発に、心血が注がれてきました。最近のエボラ流行により、製薬会社は、候補ワクチンを開発し、これをまず個人のボランティア、次に感染リスクのあるコミュニティで試験する方法を探ってきました。現在、2つの候補ワクチンが試験中です。開発されたワクチンの安全性と有効性が確認されれば、全般的な疾病対策というよりもむしろ、医療従事者その他、エボラ感染者や発症リスクのある者と接触する人々の安全を大幅に改善することになるでしょう。

過去数カ月で、数百人の医療従事者がエボラに感染し、あまりにも多くの人々が命という究極の犠牲を払っています。これは悲劇です。ワクチンが使えるようになったら、何よりもまず、最も大きなリスクに直面する医療従事者の保護を確保したいと思っています。私がワクチンの実用化を心待ちにしているのは、そのためです。すべてがうまく行けば、2015年半ばにはワクチンが使えるようになるという話も聞いています。

エボラ対策センターに入る前に、塩素液で手を洗浄し、体温測定を行うナバロ博士(左) ©Photo:UNMEER/Simon Ruf

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