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潘事務総長、世界未来エネルギー・サミットでの演説 (2012年1月16日、アブダビ)

プレスリリース 12-004-J 2012年01月24日

「持続可能なエネルギーの実現可能性は、携帯電話技術の普及が立証」

以下は、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長が2012年1月16日、アブダビで開催された「世界未来エネルギー・サミット」で行った演説の日本語訳です。

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経済の牽引からミレニアム開発目標(MDGs)の達成、さらには気候変動対策からグローバルな安全保障の確立に至るまで、エネルギーは私たちの活動すべてにとって、なくてはならない存在です。それは経済成長、社会的格差の是正、そして環境保全を結びつける金の糸でもあります。

私は自分自身の体験からも、エネルギーが持つ力を理解しています。戦後の韓国で、まだ幼い少年だった私自身の生活を一変させたのも、エネルギーでした。たった1個の電球が、私の前に希望にあふれた新たな世界を照らし出しました。昼も夜も勉強できるようになったからです。以来、その記憶は私の心の中にずっと残っています。私は世界中のすべての少年少女に、同じような希望をもってほしいのです。

エネルギーの貧困の広がりにより、何十億もの人が今でも暗闇や健康障害に苦しみ、教育と繁栄の機会を奪われています。私がエネルギーの貧困解消を求めているのも、このためです。エネルギーなくして開発を進めることはできません。5人に1人が近代的な電力供給を受けられないという状況は正当でもなく、また、続いてよいはずもありません。30億もの人々が薪や石炭、動物の糞を燃やして料理を作ったり、暖を取ったりしているという現状を放っておくわけにはゆかないのです。

すべての家庭に明かりを灯す必要があります。そのためには、クリーン・エネルギーと省エネ技術の成功例をさらに積み上げなくてはなりません。エネルギー需要が最も急速に拡大している開発途上地域全体に普及できるイノベーションが必要です。グローバルな成長の原動力であり、新規投資の重要な資金源でもある民間企業とパートナーシップを結ぶ必要があります。また、政府、民間、投資家、市民社会を問わず、あらゆる方面の皆様に、先見の明のあるリーダーシップを発揮していただくことも必要です。

エネルギー供給の拡大と、所得増大や公共インフラ整備を進める戦略とを組み合わせれば、MDGsの達成に向け、大幅かつ急速な前進が期待できるでしょう。しかし、エネルギーの貧困解消だけでは不十分です。エネルギー問題のもう一方の側面にも取り組まねばなりません。持続可能な開発には持続可能なエネルギーが必要だからです。

地球は過熱しつつあります。地球の温度を下げることが必要です。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、産業革命以来の地球の温度上昇を摂氏2度未満に抑えるためには、2050年までに温室効果ガス排出量を半減せねばならないと明言しています。国際エネルギー機関(IEA)によると、私たちは「後戻りできない地点」に近づいています。先月、各国はダーバンでの会議で、あらゆる国に排出量削減を義務づける協定の締結期限に合意しました。

しかし、交渉の妥結まで持続可能エネルギーに関する行動を先延ばしすることはできません。また、現状のエネルギーの貧困を野放しにすることで、MDGs達成に向けた前進を危険にさらしてもなりません。私が「すべての人のための持続可能エネルギー・イニシアティブ」を発足させたのも、このためです。このイニシアティブは、あらゆる主要な利害関係者に集まってもらい、直ちに必要な行動を起こしてもらうことを目的としています。

私は2030年までに達成すべき目標を3つ定めました。世界中のすべての人々に近代的なエネルギーの供給を普及させること、エネルギー効率の改善のペースを2倍に速めること、そして、全世界のエネルギー供給に再生可能エネルギーが占める割合を倍増させることです。これらは野心的でありながら、達成可能な目標であり、昨年11月に私が発表した「ビジョン・ステートメント」にも盛り込まれています。3つの目標は完全に相互補完的なものとなっています。私は企業、金融界、政府、市民社会の代表からなる「ハイレベル・グループ」を任命し、このイニシアティブに基づく行動を先頭に立って進めるようお願いしています。きょうの世界未来エネルギー・サミットを主宰されたスルタン・アハメド・アル・ジャベル博士にも、この取り組みに注力いただいています。私は皆様に、ハイレベル・グループとの協働を促したいと思います。皆様の最高のアイデアと、大胆なコミットメントによる協力をお願いします。

私たちは「持続可能な開発に関するリオ+20会議」までに、あらゆる利害関係者との協議のもと、本格的な「アクション・アジェンダ」を策定することになっていますが、ハイレベル・グループはその枠組みを作り上げました。この枠組みは、エネルギーの利用拡大、効率基準と政策の促進、さらには再生可能エネルギーへの投資強化を図るための国内的、国際的行動を提案するものとなっています。私たちはリオで、明確なコミットメントを定めた壮大な利害の共同体を発足させることになるのです。

リオ会議は私たちの世代にとって、理想の未来を作り上げるまたとない機会です。それは「すべての人のための持続可能エネルギー」を実現するという多年度の目標の出発点にすぎません。皆様にはぜひともご協力をお願いします。私たちはここで、エネルギーの新たな未来を切り開こうとしています。それは、テクノロジーとイノベーションの力を人々と地球のために活用できる未来なのです。

すべての人のための持続可能エネルギーは、手の届くところまで来ています。これを疑う人々に対しては、携帯電話の技術が驚異的な普及を遂げたという事実を指摘するだけで十分でしょう。携帯電話は世界各地に行き渡り、数十億人がその恩恵に浴しています。これはイノベーション、投資、そして政府による支援の直接的な成果に他なりません。持続可能エネルギーでも、これと同じような成果を実現できるはずです。

私個人としても、すべての人のための持続可能エネルギーと、その実現に向けた国連システムの総動員を意欲的に推進しています。しかし、私たち国連だけで目標を達成することは不可能です。皆様のパートナーシップ、支援、意欲、リーダーシップ、そして行動が必要です。私たちが皆で力を合わせれば、すべての人々にとってよりクリーンで安全かつ豊かな世界を作り上げることができるのです。皆様のリーダーシップと意欲に厚く感謝いたします。

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世界未来エネルギー・サミットの開会式で演説する潘基文(パン・ギムン)事務総長(2012年1月16日)© UN Photo/Evan Schneider
サミット出席者と並ぶ潘事務総長(左から2人目)とアルナセル国連総会議長(右)(2012年1月16日)© UN Photo/Evan Schneider