このホームページはフレーム対応のブラウザでごらんください

病気との闘い:千年紀末の健康

スティーブン・コーバー博士への質問

生徒のみなさんが電子メールで送り、「病気とのたたかい」を話し合う掲示板に出した質問に答えるのは、汎米保健機関(PAHO)の疾病予防・統制部長のスティーブン・コーファー博士です。

質問1

多くの伝染病にワクチンが発明されていますが、エイズのワクチンができるまで、どれくらいかかりますか。エイズのワクチンを見つけるのは、どうしてこんなに難しいのでしょう。

イリノイ州ニュー・アセンズ
ニュー・アセンズ中学1年生

答え

今のところエイズのワクチンができていないのには、2つの大きな理由があります。

a)
病気に対するワクチンを作るのには、何年かかかるのがふつうです。人間のからだにウィルスが入ると、ふつうならウィルスに対する抗体ができます。次にウィルスが入ってくる時には、その人のからだに抗体ができあがっています。抗体はウィルスを攻撃するので、ウィルスが増えて病気を引き起こすことはできなくなります。

予防接種をするときには、本当のウィルスにとても近いワクチンを注射します。このワクチンを注射すると、からだの中に抗体が作られます。本当のウィルスが侵入してきた時に役に立つ抗体を作れるよう、ワクチンをウィルスにできるだけ近いものにするのが、私たちの望みです。そうすれば、将来、予防接種を受けた人が「本物」のウィルスにかかった時、この抗体はこれを退治し、病気にはならないのです。

エイズは新しい病気なので、私たちは、ワクチンを作り出す前に、それを引き起こすウィルス(HIV)について調べなければなりませんでした。その結果、このウィルスはとても複雑なやり方でからだを攻撃することがわかりました。ウィルスは抗体を作り出す刺激は与えますが、こうしてできた抗体は、ウィルスを退治できないのです。エイズ・ウィルスはまた、私たちがこれまで見たこともないような変化をします。ウィルスを作るのがとても難しかったのは、このためです。

b)
ワクチンを作る会社は、ためしに作ったワクチンで何回か実験をしなければなりません。最初に、作ったワクチンが安全なこと、そして、ワクチンが病気を防ぐことを確かめなければならないのです。私たちはこのため、人間がワクチンを使う前に、よく動物実験をしています。一つ一つの実験には何ヵ月もかかり、その結果はじっくりと調べなければならないことはわかると思います。実際には、ワクチンを作るために何年もかかることがふつうです。

世界中の科学者は、エイズ・ワクチンを作るために、一所懸命努力しています。今のところ、人体実験をするかもしれないワクチンがいくつかありますが、参加に同意している国もいくつかあるようです。エイズ・ワクチンが使えるようになるまでには、まだ少なくとも何年かかかると思います。

質問2

1990年代にアメリカのHIV感染者とエイズ患者はどれだけ増えましたか。僕が大学を卒業する2006年までに、感染者の割合はどれだけになりますか。

トッド・アーチャー君
中学1年

答え

報告が出せない州も多いので、アメリカでHIVに感染している人の数を示せるデータはありません。エイズ自体は、保健所に報告しなければならないので、医者が新しいエイズ患者を発見したら、報告が出されます。感染の検査をする機関も、エイズ患者の報告をしなければなりません。

アメリカでは、100万人あたりのエイズ患者の割合は次のようになっています。

  1990年:192.4人
  1991年:234.8人
  1992年:303.5人
  1993年:297.3人
  1994年:256.6人
  1995年:212.9人

この数字からもわかるとおり、エイズ患者の割合は1992〜3年まで増えましたが、その後は減り始めています。これは感染する人が減ったせいか、それとも、HIVに感染した多くの人々がエイズの発病を遅らせる薬を飲んでいるか、はっきりしたことはわかりません。

これからの予想について、くわしくはCDC全国エイズ情報交換所に問い合わせてください。電話番号は1-800-458-5231、電子メールのアドレスはclearinghouse@delphi.comです。ホームページはhttp://www.cdcnac.orgで見ることができます。

質問3

最近、HIV感染者とエイズ患者に渡されている薬について聞くことが多いですが、人によっては、この薬はまったく効かないようです。もし、これが本当なら、ウィルスを変化させてしまう危険はありませんか。一回だけ薬を飲み忘れて、そのあと、またふつうに飲み出したらどうなるでしょうか。ウィルスの抵抗能力が高くなりませんか。

カリフォルニア州ベイエリアの高校生

答え

人間が病気の時に薬を飲むと、細菌がその薬に対する抵抗力をつけることがあります。これは患者が長い間、薬を飲まなければならない時に起こりやすくなります。(この間、細菌が増えるにつれて、薬から身を守るように遺伝子が変化し、こうして薬が効かなくなった細菌は患者の体の中で繁殖して、他の人間に感染する可能性があります。)

このような抵抗力ができないようにするため、医者は同時にいくつかの薬を出します。これはとても効果がありますが、たくさんの薬を飲むことは患者にとって楽ではありません。

エイズ・ウィルスの薬は、多くの人々がエイズの発病を遅らせることに成功しているようです。エイズの発病を完全に防ぐ効果さえあるかもしれません。(これを知るためには経験が十分ではありませんが。)もちろん、1回や数回、薬を飲み忘れた時にどのようなことが起こるかは、まだわかっていません。一人一人の感染の程度や、その他多くのことが関係していると思います。でも、1回だけ薬を飲み忘れたからといって、ウィルスに抵抗力ができるとは考えられません。

この薬はまだ新しいので、それが長い間にどのような効果を持つか、また、ウィルスの抵抗力ができるかどうかについては、今のところわかりません。ただ、たくさんの薬を同時に飲めば、抵抗力ができない可能性が高いのは確かです。

質問4

カリフォルニア州エルソブランテのデ・アンザ高校2年生、15歳のロビン・ショービンといいます。いくつか質問をさせてください。みずぼうそうが重い人と軽い人がいるのはなぜですか。たとえば、僕がみずぼうそうになった時には、皮膚の表面(うでや足)だけでしたが、僕の妹は、口の中やのどなど、からだの内側と外側の両方がみずぼうそうになりました。また、70歳や80歳になってからではなく、若いうちにみずぼうそうになったほうがよいのはなぜですか。免疫が弱くなるからでしょうか。


答え

みずぼうそうに重い軽いがある理由は、はっきりとはわかっていません。免疫力と関係がありそうだとは考えられます。免疫力が弱ければ、ウィルスが増えて、免疫力が強い人よりも具合が悪くなる可能性は高いかもしれません。みずぼうそうは子どものうちのほうが、歳をとってからよりも軽くてすむというのは、そのとおりです。その理由も、歳をとると免疫が弱くなるためだと考えられます。お年寄りの場合、ほかのストレスや病気のために、免疫がみずぼうそうのウィルスに集中できないからでしょう。

質問5

病気を研究して、なおす方法を考えているそばから、ウィルスが変化して、強くなってしまうのなら、それは人間を余計に危険にしていることにはなりませんか。歴史を見てもそうですが、自然はじゃまされるのがきらいなのです。私たちはどれだけを知る必要があるのでしょうか。そして、それを知るためにもっと安全な方法はないのでしょうか。答えてください。僕はカリフォルニア州リッチモンドのデ・アンザ高校1年生です。

デビッド・スローン

答え

とてもいい質問です。私たちは、研究と科学を通してより多くのことを知り、私たちの生活をよくしようとする欲求を止めることはできません。しかし、私たちはよいことよりも悪いことが多くならないよう、注意しなければなりません。実際、医者の最初のおきては、「何も害を及ぼさないこと」なのです。

私たちの研究がその他の生物、さらには環境へも害を及ぼす危険があります。このような場合、私たちは研究によって手に入るかもしれないものが、起こるかもしれない害を考えても十分に大きいものかどうかを判断しなければいけません。

このため、ほとんどの国々には、どのような研究が許されるか、そして、どのように研究をしなければならないかに関する法律と手続きを決めています。これらの法律は、新しい知識を取り入れるために、ときどき変えなければなりません。たとえば、今ではクローンを作ることが可能になり、その研究もさかんになっていることから、このような研究が私たちの道徳と価値観に合うようにしなければならなくなっています。

もちろん、どのようなことを法律や手続きで決めるかについて、みんなの意見がいつも一致するとは限りませんが、今までのところ、この問題を解決するためには、これがいちばんよい方法になっていることは確かです。私たちは、同じ社会に生きるほかの人々に害を与えない限り、研究の自由は大切にしていきたいと思いますし、私も、あまりきびしい規則を作ることはよくないと信じています。

質問6

空気で感染する病気はいくつ知られていますか。死ぬかもしれない病気はどのくらいありますか。

マイク・マクミラン

答え

空気で感染する病気は数え切れないほどあり、私にもいくつあるかはわかりません。細菌、ウィルス、菌類などの組織はすべて、空気を通じて感染し、しかも、それぞれに数千の種類があります。「死ぬかもしれない病気がどれだけあるか」という2番目の質問は、本当によい質問だと思います。伝染病の重さは、いくつかの要素から決まります。

a)
病気を引き起こしている細菌やウィルスがどれだけ悪性(強い)か。そして、患者のからだの中にそれがどのくらいあるか。

b)
患者の身を守る力がどれだけ強いか。たとえば、ポリオなどのとてもこわい病気の予防注射を受けている人もいます。また、ほかの条件や年齢によって弱っている人は、同じ病気でも死ぬ可能性が高いかもしれません。たとえば、インフルエンザがそうです。若い人がこの病気にかかると、2〜3日から1週間、熱とぐあいの悪さが続くのがふつうです。しかし、毎年この病気で死ぬお年寄りが何千人もいます。特に、ほかの病気にもかかっている人が危険です。

c)
よい薬があるか。多くの伝染病によく効く抗生物質があることは知っていると思います。効き目のある抗生物質がなくても、医者はしばしば、患者の身を守る力が十分に回復するまで、生命維持の措置を講じ、命を守ることができます。

質問7

クラスの先生は、科学者が1918年のインフルエンザ・ウィルスにかかった人の死体を掘り返して、研究すると言っていました。これはほんとうですか。そんなことをしてよいのでしょうか。

ジャッキー・デ・ロス・レジェス

答え

死体の研究はもう行われています。この研究は当時、何百万人もの人々が死んだ病気について、もっと多くのことを知るためのものでした。ウィルスの研究によって、私たちは将来、自分たちを守るためにはどうすればよいかを、よりよく知ることができます。このような研究をする時には、死体の研究をする人々にウィルスがうつらないよう、前もって特別な注意が払われています。

質問8

ハンタウィルスって何ですか。世界のどこにありますか。

ジャッキー・デ・ロス・レジェス

答え

ハンタウィルスは世界中のネズミにうつります。人間がそのネズミに近くで接触すると、ウィルスがうつり、いろいろな病気が起こります。

アメリカでは1993年、新しいハンタウィルスによる病気が流行しました。このおそろしい病気にかかると、熱と寒気と筋肉痛につづいて、急に呼吸が困難になり、ひどい時には死ぬことさえあります。この病気は「ハンタウィルス肺疾患症候群」と呼ばれ、今ではアルゼンチン、チリ、パラグアイ、バルカン半島の国々、アジアなど、多くの国々でみられます。1993年から、アメリカでは155人の患者が報告されています。患者の年齢は11歳から69歳です。患者の60%が男性で、そのうち74人(47.7%)が死亡しています。

質問9

いくつかの病気の流行がペルーから始まっているのはなぜですか。


答え

とても難しい問題ですね。1991年にはコレラの流行がふたたびペルーで始まったことはわかっています。また、ペルーでは黄熱病とペストの流行もありましたが、これまでのところ、これはその他の国々には大きく広がってはいません。

伝染病の流行にはいくつかの理由が考えられます。

●水道の水が汚いこと(細菌やウィルスが混ざっている)
●ゴミがきちんと片付けられていないこと(ゴミが散らかって、病気を運ぶネズミや虫がたかるので、そこから人間に病気がうつる)
●料理の仕方が清潔でないこと(特に、たくさんの人の料理を一度に作る場合)
●人々が貧しく、料理をしたり食べたりするときに、きちんとした予防ができないこと
●いなかで開発が進み、人々が新しく、まだなれていない昆虫やウィルスに接触すること

ペルーやその他多くの国々では、このようなことがときどき起きるため、伝染病が流行するのです。さらに、ペルーの地理はとても複雑で、乾燥した海岸部、スラムに囲まれてごみごみした大都市、北米から見れば通信が不十分なけわしい山地、そして、さらに離れたジャングル地帯からなっています。このように複雑な地理は、さまざまな伝染病が発生する可能性を高めます。また、たまたま病気にかかった人に会ったりするような運にも左右されます。


Copyright: 2000 United Nations Publications

電子メールは
cyberschoolbus@un.org
に送ってください。