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日本から世界に伝えたいSDGs ① 【海のごみをアートに変えて】

UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

いま、プラスチックごみが世界中で増え続けています生産や処理で多くの二酸化炭素を排出する石油由来のプラスチック、世界ではその9割がリサイクルされておらず、毎年1300万トン以上のプラスチックがごみとして海に流れ込み、深刻な環境問題を引き起こしています。2016年の世界経済フォーラムは、海に漂うプラスチックごみの量が2050年には魚の量を上回る可能性を報告しました。

12月7日から19日までカナダで開催の生物多様性条約第15回締約国会議 (COP15)では、持続可能な世界を築くために 海や陸の戦略的保全など、自然の喪失を食い止め、回復させるための世界的な行動の指針を作ろうとしています。

海洋プラスチックごみの約8割は陸から川に流れ出ており、私たちの生活から出てきたものです。私たちはごみの扱い方、ひいては暮らしの見直しを迫られています。

こうした現状を知ってもらいたいと、海洋ごみを拾い、そこからアート作品を生み出している人がいます。「海ゴミアーティスト」のあやおさんです。あやおさんの手にかかると、海洋ごみが魚やペンギン、亀など、愛らしい海の生物たちに生まれ変わります。どうしてこうした作品を作り始めたのか、創作活動の背景にはどんな思いがあるのかを知るために、あやおさんが暮らす石川県を訪ねました。

©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

【略歴】あやお 愛知県一宮市出身。石川県の海のそばに移住し、海のプラスチックごみから海洋生物を模したアート作品を創作する活動を続ける。作品は注目を集め、2022年の国連環境計画国際環境技術センター(UNEP-IETC)の30周年イベントにごみゼロアーティスト として参加。現在はセルフリノベーションした自宅で、4匹の保護猫と3羽の保護ニワトリ、夫と共に暮らしている。

 

美しい海岸に流れ着く大量の海洋ごみ

石川県の自然に心惹かれ、6年前に移住してきたあやおさん。小さい頃から動物や自然に囲まれる生活に憧れ、短大卒業後に長野県の山あいで山村留学の仕事をしていました。その後、移り住んだ日本海に面する石川県の美しい海に魅了されていきます。

海に囲まれた能登半島には、波が穏やかで野生のイルカが住み着き海の美しさが有名な内海と、冬の荒波にのってやってくる様々な回遊魚を見ることができる外海が広がります。あやおさんは以前は、穏やかな内海まで徒歩2〜3分の場所に暮らし、夏になると3日に1度は海で泳ぐ生活をしていました。結婚後は、外海の近くに移り住み、石川県の海を満喫していました。

しかし、次第に海岸に押し寄せるたくさんのごみの存在に気づきます。大好きな海を少しでもきれいにしたいと、あやおさんは一人でごみ拾いを始めました。特に冬に高波が集まる海岸には、たくさんの漂流ごみが堆積していました。

海辺のごみを拾うあやおさん ©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

最初は拾いやすいペットボトルを拾っていましたが、ごみの多様さにも驚きます。漁具や生活用品、時には医療用の注射器など実に様々なごみが流れついていたのです。あやおさんは、そのごみの実態に打ちのめされ、さらなる行動を起こさないといけないと思うようになりました。

海岸に漂流した多くのごみ 写真提供:あやお

「ごみ拾いを始めた頃、私が海岸でごみを拾っている隣でゴミを捨てる人もいました。ゴミを拾っているだけでは状況は何も変わらないのではないか。社会全体を変えなければいけない。しかし、環境問題に興味がない人も世の中に多い。まずはその人たちの興味を引きたいと思いました」

 

どうすれば海洋ごみの問題を人の心に届けられるか  

関心が薄い人にも海洋ごみや環境問題に興味を持ってもらうにはどうしたらいいか。あやおさんが思いついたのが、多種多様な海のごみから目を引くアート作品を作ることでした。

あやおさんの家には、海岸で拾い集められた大量のプラスチックごみが、何箱にも色分けされ置かれています。洗って乾かし、分別して作品作りに備えます。

あやおさんが集め色分けした海洋ごみ©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

この海洋ごみから海の生き物が形作られていきます。作品の製作は、シンプルなものでも1週間を要し、手のこんだものは完成までに3ヶ月ほどかかります。

©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

「海の生き物たちの声を伝えたかったので、こうした作品にしました。生態系や特徴など、海の生き物に興味を持ってもらえるような文章も添えてSNSに投稿しています。投稿は評判が良く、初めて売れたペンギンの作品は、投稿後30分で購入の問い合わせが来て驚きました」

 最初に売れたペンギンの作品とクジラをイメージした作品 写真提供:あやお 

創作活動の喜びをあやおさんは率直にこう語ります。

「きれいな海で泳げることです。始めた頃は誰からも注目されなかったごみ拾いも、作品のことを知った学生や若い人たちの中から興味を持って拾ってくれる人が出てきて、自分が少しでも影響を与えられていることを実感しうれしくなりました」

最近では、あやおさんの作品に感化されて、同じように海のごみから作品を作る地元のグループも生まれているそうです。

 

海の豊さはひとりでは守れない

いま地球上では、気候災害がより頻繁に強度を増して発生し、国内避難民に関しては紛争の3倍もの人が気候災害によって故郷を追われる事態が起こっています。気候変動や環境問題に対し、待ったなしの行動が求められています。海域や沿岸部は地球の表面積のおよそ70パーセントを占め、地球の生命維持システムにとっても不可欠です。海の豊かさは気候変動に立ち向かう力にもつながります。海は世界の年間二酸化炭素排出量の4分の1を吸収しています。プラスチックゴミを含む海洋ごみや海洋汚染の問題の改善を目指す国際的な枠組みや計画も複数作られ、海洋環境の保護が呼びかけられています。あやおさんは、こう問いかけます。

「まずは自分の家にいらないものがどれくらいあり、本当に必要なものは何なのかを見極めることが大切だと思います。意外と物が無くても幸せに暮らせるのではないでしょうか」

©UNIC Tokyo / Ichiro Mae

あやおさんは今後、国内だけでなく、世界に向けても作品を通し、美しい海を守ることを訴えていきたいと考えています。

「世界中の海岸でごみを拾うとか、全ての海をきれいにすることはたったひとりでは無理なんですが、私がごみを拾ってアート作品にすることを通して、『ゴミっておもしろい』『ゴミって売れるんだ』というところから、『そもそもなんで海にゴミがあるんだろうか』という考えを広めていきたい。アート作品を通して海外にも広めていきたいと思っています。メディアなどでも取り上げてもらい、活動は少しずつ認知されてきたと実感しています。次は世界に活動の場を広げられたらと思っています」

シャチを模した作品 ©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

美しい海と共生していくために、あやおさんは、誰かの暮らしの中から流れ着いた多くのごみと今日も向き合い、作品を作り続けます。

©UNIC Tokyo/ Ichiro Mae

(参考記事)SDGsシリーズ目標14「海の豊かさを守ることはなぜ大切か」

https://www.unic.or.jp/files/93bad7a2fc1eea3bb52d28ec54937a60-1.pdf