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総会非公式会合でのアントニオ・グテーレス国連事務総長挨拶 (ニューヨーク、2019年1月16日)

プレスリリース 19-003-J 2019年02月01日

まずこの場を借りて、私はケニアの国民と政府に対し、心から哀悼の意を表したいと思います。昨日の恐ろしいテロ攻撃では、多くの人命が失われました。私たちは全員、これを強く非難します。

犠牲者のご家族に対し、心よりお悔やみを申し上げるとともに、負傷した方々全員の1日も早い全快をお祈りします。国連はケニアの全国民、そしてあらゆる場所のあらゆる人々と手を携え、今日の世界で私たちの社会が直面している最も劇的な脅威であるテロとの闘いを続けていきます。

まずは皆様に新年のご挨拶を申し上げるとともに、2018年中の皆様の厚いご支援に感謝いたします。

1年前、私は年頭のメッセージで、全世界に非常警報を発しました。

2019年の見通しについても、私は率直に申し上げたいと思います。

警報のベルはまだ鳴り続いています。

私たちは混迷の世界に直面しています。

武力紛争は数百万人に脅威を与え、強制的な避難も記録的な水準に達しています。

貧困は根絶から程遠い状況にあり、飢餓も再び広がっています。

不平等は拡大の一途をたどっています。

そして気候危機は猛威を振るっています。

また、貿易紛争の拡大や膨大な債務の累積、法の支配と人権に対する脅威、市民社会の活動範囲の縮小、報道の自由に対する攻撃も見られます。

こうした害悪は、人々の日常生活に深刻な影響を及ぼします。

そして、強い腐食性もあります。

不安を生み、不信を助長します。

政治的にも社会的にも、社会を分断します。

前進の利益が一握りの幸運な者に集中するように見える中で、自分たちは取り残されるのではないかという恐怖が、人々にも国々にも広がっています。

こうした中で、多くの人々が政治的既成勢力への信頼を失い、国が自分たちのことを気にかけてくれているのかどうかを疑問視し、国際機関の価値に疑念を抱く理由は、想像に難くありません。

はっきりさせておきたいのは、この信頼の欠如が国連にも当てはまるということです。

このような状況で、やる気をなくしたり、さらには麻痺に陥ったりする人々が出てきたとしても、無理はありません。

しかし実際のところ、昨年の経験は、私たちが力を合わせ、その責任を全うすれば、問題が解決できることを立証しています。

もう当たり前になった逆風の中で、私たちは国連に付加価値があることを示しました。皆様の尽力もあり、私たちは実質的な変化を遂げることができました。私たちは結果にこだわり、国連をより責任ある、尊敬される存在へと変えたのです。

2018年の重要な成果をいくつか思い出してみましょう。

国連が主導または支援する和平外交の再活性化で、解決不可能と見られていた状況に動きが見られました。

イエメンでは、国連の仲介による交渉で停戦が成立し、依然として多くの困難が残る中でも、世界最悪の人道災害に終止符を打てるのではないかという期待が生まれています。

朝鮮半島では、和平と非核化に向けた心強い対話が始まりました。

南スーダンでは、和平合意が成立しました。

エチオピアとエリトリアは、歴史的な和平協定に署名しました。

長年に及ぶ取り組みの末、国連リベリア平和維持ミッションはその活動を完了し、西アフリカにおけるその他国連活動の成功をさらに確固たるものにしました。

ギリシャとマケドニア旧ユーゴスラビア共和国は、国名に関する両国間の紛争解決に向け、大きな前進を遂げました。

アルメニアと中央アジアでは、民主的な移行とさらなる開放に向けた前進も見られました。

カンボジアで国連が支援する特別裁判所は、クメールルージュ元指導者2名に対し、人道に対する罪、戦争犯罪およびジェノサイド罪のかどで有罪判決を下しました。犯罪が起きてから数十年後に、ようやく正義が実現したことになります。

特にマダガスカル、マリ、モルディブ、リベリアでは、困難な状況の中でほとんどが国連の積極的支援を受けつつ、重要な選挙が無事、実施されました。

私たちは現在、コンゴ民主共和国における選挙プロセスが暴力を伴わず、国民の意思と同国の司法・憲法秩序を十分に尊重する形で完了することを期待しています。

その他、極めて重要な課題についても根本的な前進が見られました。

私たちはカトヴィツェで、国連気候変動枠組条約に基づき締結されたパリ協定に関する作業計画を採択することで、疑念を払拭し、気候変動対策に新たな弾みをつけることができました。3度にわたってポーランドを訪れ、直ちに行動するよう訴えた私は、プラスの成果を達成しようとする加盟国交渉担当者の意志と意欲を肌で感じることができました。

大方の予想を覆し、私たちは「安全で秩序ある正規の移住に関するグローバル・コンパクト」の採択にこぎつけました。この協定は、各国の主権を尊重しながら、移民に機会を与え、その尊厳を確保し、私たちの眼下であまりにも頻繁に繰り広げられている悲劇に終止符を打つために進むべき道を示すものです。

これと補完関係にあるのが、難民に関するグローバル・コンパクトです。これによって各国は、難民の保護や受け入れだけでなく、受入コミュニティーの支援にも公平かつ組織的に貢献できるようになるはずです。

私たちは昨年中、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた作業を本格化させました。自主的報告を行った加盟国は102カ国に上ります。今年はその他51カ国も報告を予定していることから、2030アジェンダの実施に向けた取り組みの熱意を伝える全体像が浮かび上がることでしょう。

世界の最弱者層への人道援助の提供という点でも、皆様の支援は決定的な役割を果たしました。困窮状態にある約1億の人々に対する支援として、皆様からはおよそ150億ドルという記録的な金額の拠出がありました。これは前例のないことです。こうした人道援助による人命の救助は、私たちの連帯の証です。また、国連の付加価値もよく示しています。

私は2018年中、国連の正当性とその結集力を活用した新たな取り組みにも多く着手しました。

私たちは3月、平和維持の目標をより現実的なものにすること、私たちのミッションをさらに確実にし、強化すること、そして最後に、私たちの兵員の訓練と装備に対する支援を増大することを目的とする「PKOのための行動」イニシアティブも立ち上げました。これには、あらゆる和平の取り組みに引き続き鍵を握る政治的解決への支援を強化するねらいもあります。

私は、このイニシアティブに支持を表明した151カ国と4つの大きな組織に感謝します。事実、私たちの活動の基盤となるパートナーシップは、これまでになく充実しており、兵員と警察官の提供国は、ほぼ記録的な数に達しています。

私は5月、軍縮に向けた新たなアジェンダを提示しました。大量破壊兵器だけでなく、通常兵器や、大きなポテンシャルを秘めた新技術が軍事目的に転用され、恐ろしい軍拡競争につながるおそれにも対処せねばならないからです。私たちには、人類を救うための軍縮、人命を救うための軍縮、そして私たちの未来を守るための軍縮という、3つの目標があります。

6月には、全世界でテロ対策を担当する組織の最高責任者による初の会議を開催し、テロ対策に携わる国連主体間の調整を図る国連タスクフォースを創設しました。私たちは、この決定的な闘いに臨む取り組みをさらに強化し、人権を尊重しながらテロと闘えることを立証したのです。

私たちは昨年全体を通じ、若者との連携を深めるとともに、若者のエンパワーメントを図る新たな戦略として「ユース2030」を立ち上げました。

また、男女平等を推進するため、これまでに例を見ない措置を講じました。

私たちは国連史上初めて、上級管理職と常駐調整官候補で、男女同数を達成しています。

私たちは、いかなる嫌がらせも権力乱用もない職場環境を整備するために、全力を尽くしていきます。

女性に対する差別は今でも、全世界で恥ずべき現実となっているだけでなく、女性は常に、和平交渉やその他の重要な意思決定の場から排除されています。国連は引き続き、この分野の変革を先頭に立って進めてゆかねばなりません。

私たちは、自分たちが達成した成果を心強く思うべきです。

その一方で、私たちは国連を効果のない、煩わしく官僚的な存在と捉え続けている人々が多いことも認識しています。

私たち全員が、より機敏で効果の高い、柔軟かつ効率的な国連を望んでいます。人々によりよく奉仕できるよう、私たちが自ら野心的な改革に取り組んでいる理由も、そこにあります。

皆様の指導と支援のおかげで、新たな国連開発システムが発足しました。そこには新たな常駐調整官制度や新世代の国別チームも含まれています。私たちはこれによって、SDGs の達成を目指す皆様の取り組みを、よりよく支援できるようになりました。

予防や調停、平和維持、平和構築を強化できるよう、私たちの平和と安全に関する機構も補強されています。

こうした変革の根底をなすのは、透明性、簡素性、説明責任をさらに高めた新しい管理の能力、構造、そして実践です。これが組織全体の転換につながるものと期待されています。

私は1月1日、200人を超える国連主体の最高責任者に新たな委任状を発給しました。これによって、お役所的な事務処理を減らし、意思決定を現場に近づけることが改革の重要な目標です。

私たちはまた、あらゆるレベルで地理的な多様性が大きな価値を持つことを認識し、職員の地域的バランスの是正も図っています。残念ながら、この問題はこれまで、十分に理解されていませんでした。

2年にわたる改革の議論と決定を経て、2019年は新生国連がすべての人のために尽力する年となることでしょう。

私たちはこれまでの前進を認識しつつも、現状に満足することはできません。

私たちが奉仕する人々のニーズと期待に応えるためには、活動を加速せねばなりません。

その第一歩が、外交活性化の加速です。

その基本はパートナーシップですが、中でもアフリカの人々との連携は最も大切です。

私たちは、アフリカ地域の和平に向けた前進を定着させ、マリとサヘル、南スーダン、ソマリア、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国での問題の恒久的解決に向けて突き進む中、アフリカ連合とのパートナーシップ強化を続けていきます。

先月は、イエメンに関するストックホルム協定の成立もあり、飢饉のリスクを大幅に高めることが危惧されていたフダイダでの軍事衝突という、最悪の事態は回避されました。しかし、当事者がその約束を守り、真の政治プロセスが最終的に和平につながることを確保するためには、さらに多くの取り組みが必要です。

リビアでは、国連の仲介による停戦がいまも続いています。私たちの努力は、通貨の安定化に役立つとともに、ある程度の経済的救済をもたらし、治安部門改革に向けた現実的な見通しも立ちました。 政治プロセスを前進させ、和解と将来的な選挙に向けた道を切り開く国民会議開催の条件を整備するため、リビア国民の連帯を支援する機は熟したと言えます。

シリアの内戦は、終結に程遠い状態です。特に北東部と北西部では、数百万の民間人が避難を余儀なくされたまま、さらなる人道的惨事の恐怖におびえ続けています。私の新任の特使は、唯一残った解決策の実現に向けた取り組みを続けていきます。それは、安全保障理事会決議2254とジュネーブ・コミュニケに従い、すべてのシリア国民の声を聞き、苦情申立に平和かつ公平に対処するという政治的な解決策に他なりません。

アフガニスタンでの紛争は引き続き、恐ろしいほど多数の犠牲者を出しています。私は、交渉と停戦に向けた政府の申し出や、市民社会と各加盟国の両方による困難なイニシアティブを含め、最近の取り組みを歓迎します。

残念なことに、カフカスからウクライナ、さらにはミャンマーやイスラエル・パレスチナ紛争に至るまで、凍結または未解決状態にある平和と安全上の課題も多くあります。

これらをはじめとする問題については、安全保障理事会の結束と支援が、膠着状態の打開に不可欠となるでしょう。

私たちは、全世界で紛争の終結に努める中で、恒久的平和を社会の幅広いコンセンサスに基づくものとせねばならず、特にすべての和平プロセスに女性の全面的参加が必要となることを理解しています。

今日の激動の世界で、現状維持は取り残されることを意味します。私たちは2019年中、21世紀の3大課題に関する取り組みを劇的に加速する必要があります。私たちはまさに、アクセルを全開にしなければならないのです。

第1の課題は気候変動対策です。

今後の世界で、気候変動よりも大きな課題はありません。

この脅威は、より暑く、より速く、より深刻化するという明確な軌跡を描いています。

明らかな科学的証拠があるばかりか、現状は予測よりもさらに悪くなっています。

先週のある調査によると、海水温の上昇は、世界で最も優秀な科学者たちがほんの5年前に予測した速さを40%上回るスピードで進んでいます。

気温上昇を1.5℃に抑えるためには、今後10年間で私たちの経済を未曽有の規模で転換せねばなりません。

パリ協定によると、加盟国は2020年までに、進捗状況を評価し、合意された目標の達成に向けた新たな誓約を提示することになっています。

そして2050年までに、全世界で正味ゼロ・エミッションを達成する必要があります。

そのためには今から、排出量を削減し、クリーンで環境に優しいエネルギーの未来を実現する機会を捉えるため、取り組みを強化せねばなりません。

私はこの理由から、来る9月23日に気候サミットを招集し、政治指導者やビジネス界、市民社会による行動の結集を図ることにしました。

私たちは緩和についても、適応についても、資金についても、そしてイノベーションについても、野心を高める必要があります。

私は世界のリーダーに対し、今度こそ課題の規模に見合った解決策と約束を提示するよう訴えます。

第2に、気候変動対策の劇的改善と並んで、私たちはSDGsの達成に向けた全般的な取り組みを一気に加速せねばなりません。

政府やその他多くの関係者による多大な取り組みが見られるものの、2030アジェンダが求める転換的な変革は、まだ行われていません。

私たちは、貧困と不平等の削減や、環境保護と両立する強靭で包摂的な経済の実現に何が有効かという点に、さらに関心を集中させる必要があります。こうした解決策を実施するための資金の増額も必要です。

この理由から、総会では気候サミットに続き、2030アジェンダ採択以来初の「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム」首脳会合を開催します。

また、同じ理由から、この2つのサミットを補完するものとして、その他3つの重要課題、すなわち開発資金、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、小島嶼開発途上国が抱えるリスクに関する重要会合も開催します。

私は皆様に対し、2019年9月を、野放しの気候変動を止め、SDGsを達成し、公正なグロバリゼーションを構築する決定的な瞬間とすべく、全力を尽くすようお願いします。

第3に、この作業を一気に加速できる新技術も、私たちがその深刻な影響を考慮できる能力を越える速さで進展しています。この点でも、私たちの取り組みの強化が必要です。

第4次産業革命は、医療や教育、人道援助など、多くの分野で新たな可能性を拓き続けています。しかし、こうした恩恵の一方で、私たちは労働市場の混乱や人工知能の兵器化、ダークウェブでの凶悪行為に対処せねばなりません。

私の「デジタル協力に関するハイレベル・パネル」は今年中に、デジタル格差を縮小させ、デジタル能力を構築し、新技術が私たちに利益をもたらし、善を促進する力となることを確保するための報告書を提出する予定です。

この作業を通じ、全世界で真の主役となるのは人々、すなわち「われら人民」です。

そして、私たちの指針となるのは一連の価値、すなわち私たちを結び付けている国連憲章の普遍的価値なのです。

それこそ平和、正義、人間としての尊厳、寛容、連帯に他なりません。

現在、こうした価値は全世界で攻撃にさらされています。

イデオロギー的な闘争が起きているのです。

最も気がかりなのは、はるか昔の時代を彷彿とさせる不穏な憎悪に満ちた文言や、有害なものの見方が主流へと躍り出てきていることです。

1930年代の教訓を忘れてはなりません。

ヘイトスピーチや不寛容、排外主義を容認する余地は決してないからです。

私たちはいつでも、どこでもこれと闘っていきます。

しかし、私たちはもっと多くの取り組みを行わねばならず、取り組みに深みをもたせなければなりません。

私たちが擁護する価値が真の勝利を収めるためには、私たちが人々の不安や恐怖、懸念を理解していることを示す必要があります。私たちは、人々が激動の現代世界で置き去りにされていると感じる根本的な原因に取り組まねばなりません。

私は自信をもって、グリーン経済と第4次産業革命へと前進を続けられることを確信しています。

しかし、私は同時に、社会的一体性や教育、人々の新たな適応能力、そして取り残される危険性のある人々を対象とするセーフティーネットにも投資せねばならないことを確信しています。炭坑作業員や組立ラインの労働者、さらには全世界で貧窮したり、危機に見舞われたりして取り残される恐怖を抱えるすべての人々のことを忘れてはならないからです。

私たちには、価値のための新たなキャンペーンが必要です。それは、人権と人間としての尊厳という、私たちが大切に守り、すべての人の生活で実現せねばならない価値に他なりません。

ここで私が3年ほど前、事務総長に立候補した際に述べたことを、もう一度繰り返したいと思います。

「人々が将来に不透明感を抱き、心配や恐怖がポピュリストの政治家や昔ながらの国粋主義者、宗教原理主義者によって増幅、悪用される不安の時代に、国連と国際社会の成功は、私たちが共通の決意をもって共通の価値を守っていけるかどうかにかかっているのです」

これが私の発言でした。

この精神に則り、私たちがすべての人々に配慮していることを証明しようではありませんか。

自分たちの価値を、行動で示していこうではありませんか。

そして、私たちの世界を前進させ、誰ひとり取り残さないための取り組みを加速しようではありませんか。

ありがとうございました。

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原文(English/French)はこちらをご覧ください。