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国連総会での事務総長演説 (ニューヨーク、2017年9月19日)

プレスリリース 17-042-J 2017年09月22日

©UN Photo

私はこの場で、世界の人民に奉仕するという任務を皆様から託していただいたことを、感謝の気持ちとともに、謙虚に受け止めています。

「われら人民」と国連は、深刻な課題に直面しています。

私たちの世界は苦境に陥っています。人々は傷つき、怒りを抱えています。そして、不安が高まり、不平等が悪化し、紛争が広がり、気候が変動する様子を目にしています。

グローバル経済はさらに統合が進んでいますが、私たちのグローバル共同体としての実感は、崩れてきているおそれがあります。

社会は分断されています。政治的主張は分極化しています。国の中でも、国の間でも、相手を悪者扱いし、意見を分裂させる人々によって、信頼が揺らいでいます。

世界は不和に陥っていますが、私たちに必要なのは平和な世界です。

そして私は、私たちが力を合わせれば、平和を構築できると強く信じています。私たちは信頼を回復し、すべての人にとってよりよい世界を作ることができるのです。

私はきょう、私たちの前途に立ちはだかる7つの脅威と試練を中心にお話ししたいと思います。

誰の目にも、その危険はあまりにも明らかです。しかし、私たちが本当の意味で国々の連合として機能すれば、答えを見つけられることも明らかです。

第1に、核の危険です。

核兵器の使用など、考えられないはずです。その使用の脅しをかけることでさえ、決して容認することはできません。

しかし現在、核兵器に関するグローバルな不安は、冷戦の終結以来、最も高まっています。

この不安は抽象的なものではありません。百万単位の人々が、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)による挑発的な核実験とミサイル実験が投げかける恐怖におびえながら暮らしているからです。

DPRKの国内を見ても、こうした実験に、飢餓や深刻な人権侵害に苦しむ人々の窮状を救う効果はまったくありません。

私はこれらの実験をはっきりと非難します。

私はDPRKとすべての加盟国に対し、安全保障理事会決議を全面的に遵守するよう呼びかけます。

先週の全会一致による決議2375の採択は、制裁を強化し、同国の国際的責任に関する明確なメッセージを送るものとなりました。

私は安保理に対し、その結束を維持するよう訴えます。

朝鮮半島の非核化を実現するとともに、決議も認めているとおり、危機解決に向けて外交的な取り組みを行う機会を作り出すものは、この結束を置いて他にはありません。

緊張が高まれば、誤算の危険性も高まります。舌戦は、取り返しのつかない誤解につながりかねません。

政治的な解決を図らねばなりません。今こそ政治的手腕を発揮すべき時です。

夢遊病者のようにふらふらと戦争に足を踏み入れてはならないのです。

さらに話を広げれば、すべての国は、核兵器のない世界という普遍的な目標を達成する決意を、もっと強く示さなければなりません。核保有国には、その先頭に立つ特別の責任があります。

核拡散は現在、想像を絶する危険を作り出す一方で、軍縮はまったく進んでいません。

拡散を予防し、軍縮を推進するとともに、こうした目標に向けた前進の成果を守ることが急務となっています。

2つの目標は相互に関連しています。どちらかの目標に向けた前進が見られれば、他方の目標の達成も近づきます。

第2に、グローバルなテロの脅威があります。

テロを正当化するものなどありません。どのような大義があっても、どのような不満があっても同じことです。

テロによる死者や破壊は増え続けています。

それは社会を破壊し、地域を不安定化し、もっと生産的な営みに使えるはずのエネルギーを奪っています。

各国内と多国間のテロ対策が、テロリストのネットワークを混乱させ、領土を回復し、攻撃を予防し、人命を救っていることは事実です。

しかし、私たちはこの活動をさらに本格化しなければなりません。テロに対処するうえで、国際協力の強化は依然として欠かせないからです。

私の初の改革イニシアチブのひとつである、国連テロ対策局の設置を承認した総会に感謝いたします。

私は来年、新たな「国際テロ対策パートナーシップ」を結成するため、加盟国のテロ対策機関の最高責任者による初の会合を招集するつもりです。

しかし、戦場でテロリストと闘い、その資金源を断つだけでは不十分です。

私たちは、実質的な不正と不正感、高い失業率、若者の不満など、過激化の根本的原因にもっと取り組まねばなりません。

政治、宗教、そしてコミュニティーの指導者には、憎悪に対して立ち上がり、寛容と中庸の手本を示す責務があります。

私たちはともに、国連の手段を最大限に活用し、生存者や遺族に対する支援を拡大する必要があります。

容赦ない弾圧や高圧的な手法が逆効果であることは、経験も示すとおりです。

闘いに勝つためには、人権や民主的自由の侵害も必要だと信じた瞬間、私たちはすでに闘いに負けているのかもしれません。

第3に、未解決の紛争や、人道法の組織的違反の問題が挙げられます。

ミャンマーのラカイン州で宗派間の緊張が劇的に悪化したことについては、私たち全員がショックを覚えました。迫害、差別、過激化、暴力的弾圧という悪循環により、絶望的状況に置かれた40万人以上が避難民となり、地域の安定がリスクに晒されています。

私は、きょうのアウン・サン・スー・チー国家顧問の演説と、コフィー・アナン氏を議長とするラカイン関する諮問委員会の提言をできる限り早期に実施する旨の意思表示に留意します。

もう一度、強調させていただきます。ミャンマーの当局は、軍事作戦を停止し、支障のない人道アクセスを認めるとともに、難民が安全と尊厳の中で帰還する権利を認めなければなりません。また、あまりにも長い間、その地位が未解決となっているロヒンギャの不満にも取り組まねばなりません。

今日の紛争に勝者はいません。

シリアからイエメン、南スーダンからサヘル、アフガニスタンその他の地域に至るまで、平和をもたらせるのは政治的解決だけです。

私たちは幻想を抱くべきではありません。暴力的過激主義の温床である無秩序を作り出している紛争を解決しない限り、テロを根絶することはできないのです。

私は先週、ハイレベル調停諮問委員会の創設を発表しました。これら著名な委員は、全世界での私たちの和平仲介の実効性を高めてくれることでしょう。

国連はアフリカ連合、欧州連合、アラブ諸国連盟、イスラム協力機構など、主要な地域機関とのパートナーシップを緊密化しています。

私たちは、平和維持の強化と現代化を続け、全世界で民間人を保護し、人命を救っていきます。

また、私は就任以来、紛争の当事者だけでなく、紛争当事者に影響力を及ぼす者も、 交渉の場に加えるよう努めてきました。

その有意義な一例として、私は特に、あすのリビアに関する会合に期待しています。

私は先月、イスラエルとパレスチナを訪れました。現在の和平プロセスの停滞が、将来的な紛争の激化につながるようなことがあってはなりません。私たちは人々の希望を取り戻さなければなりません。今後進むべき道は依然として、2国家共存という解決策以外にありません。これを早急に追求する必要があります。

しかし、率直な意見も申し上げねばなりません。戦闘当事者は、戦争こそが解決策だと信じることがあまりにも多くあります。

妥協の意志を語ることはあるかもしれません。

しかし、その行動はあまりにも多くの場合、どのような代償を払っても、軍事的な完全勝利を貪欲に求める意思をはっきりと示しています。

国際人道法違反は蔓延し、不処罰がはびこっています。

民間人は最も大きな犠牲を払っていますが、中でも女性と女児は、組織的な暴力や抑圧を受けています。

私自身の国でも、そして国連で活動している間も、私は戦争から平和へ、そして独裁から民主制への移行が可能であることを目の当たりにしてきました。今こそ外交の活性化を進め、将来的な紛争予防を大きく前進させようではありませんか。

第4に、気候変動は私たちの希望を危険にさらしています。

昨年は史上最も暑い年になりました。過去10年間の気温は、それまでの記録を更新しています。

地球の平均気温は上昇を続け、氷河は後退し、永久凍土層も縮小しています。

百万単位の人々と兆ドル単位の資産が、海面上昇をはじめとする気候の混乱により、リスクにさらされています。

自然災害の件数は1970年以来、4倍に増えました。

1995年以来、最も多くの災害を経験しているのは米国で、以下中国、インド、フィリピン、インドネシアと続いていますが、その数は1,600件を超えており、5日に1件の割合で災害が起きている計算になります。

私は最近、継続期間で最長記録を更新した、カテゴリー5のハリケーン「イルマ」による被害を受けたカリブ諸国と米国の人々に対し、連帯の意を表します。そして今、ハリケーン「マリア」も近づいています。

ひとつの異常気象を気候変動と結び付けるべきではありません。しかし科学者は、自分たちのモデルに照らせば、このような異常気象がまさに、温暖化が続く世界での新たな常態となることを明らかにしています。

私たちは、起きていることに合わせて、自分たちの言葉を変えることを迫られました。現在ではメガハリケーン、スーパーストーム、ゲリラ豪雨などという言葉が使われるようになりました。

今こそ自滅的な排出量増大に終止符を打つべきです。私たちには今、行動するために十分な知識が備わっています。科学を否定することはできません。

私は各国政府に対し、これまでよりも大きな野心を持って、歴史的なパリ協定を履行するよう強く訴えます。

私は、大胆なターゲットを設定している都市を称賛します。

また、大手の石油・ガス会社を含め、クリーンかつグリーンな未来に賭ける民間企業数千社による取り組みも歓迎します。

エネルギー市場は、グリーンビジネスがグッドビジネスであることを教えてくれます。

再生可能エネルギーのコスト低下は現在、地球上で最も心強い話のひとつです。

排出量を削減しても、経済は成長できるという証拠が増えていることも同様です。

新たな市場や、より多くの雇用、さらには兆ドル単位の経済生産を作り出す機会も生まれます。

事実ははっきりとしています。解決策も目に見えています。リーダーシップがそれに追いつかねばなりません。

第5に、不平等の拡大は、社会の基盤と社会契約を損なっています。

世界経済の統合、貿易の拡大、そして目を見張るような技術進歩は、大きな利益をもたらしました。

これまでになく多くの人々が、極度の貧困を脱しています。世界の中間層も、かつてない大きさに成長しています。健康な状態で長生きできる人も増えました。

しかし、こうした進歩は公平に行き渡っていません。

所得や機会均等、研究やイノベーションの成果へのアクセスという点で、著しい不平等が見られます。

全世界で最も豊かな8人が、総人口の半数と同じだけの財産を抱え込んでいます。

地域や国、さらにはコミュニティー全体が、進歩と成長の波から遠くに追いやられ、現代世界の「ラストベルト」に取り残されているのです。

こうした社会的排除には苛立ち、疎外、不安という代償が伴います。

しかし私たちには、方向性を変え、公平なグローバリゼーションを実現するための計画があります。

その計画こそ、2030アジェンダです。

世界人口の半数は女性です。

世界人口の半数は25歳未満です。

女性の能力を活用し、若者の巨大なエネルギーに依存することなしに、持続可能な開発目標を達成することはできません。

私たちは、現代の変革がどれだけの速さで進みうるかを知っています。

また、世界の財産と資産が数十億ドルに上ることから見て、資金が足りないということもありません。

すでに私たちの掌中にあるツールや計画、資源を賢く使って、すべての人にとって持続可能かつ有益な開発を実現しようではありませんか。そのこと自体が、ひとつの目標であるだけでなく、紛争を予防するための最善の手段でもあるのですから。

イノベーションの負の側面は、私たちが立ち向かうべき第6の脅威です。まだ遠くにあると見られていたこの脅威は、もうそこまで迫っているからです。

テクノロジーは引き続き、共有の前進を促す中心的要素となるでしょう。しかし、イノベーションは人類にとって不可欠であるとはいえ、予期せぬ結末をもたらすおそれもあります。

サイバーセキュリティー関連の脅威が増しています。

サイバー戦争はますます、明らかな現実と化しています。そして、国家間の関係を乱し、現代人の生活の構造やシステムの一部を破壊する能力を強めています。

サイバー空間で見られる前進が、個人の自律性を高めることは間違いありませんが、いわゆる「ダークウェブ」は、他者を傷つけ、隷属化させるために、この潜在的可能性を利用する者がいることを示しています。

人工知能は、開発を刺激し、生活環境を大幅に改善できる新たな存在です。しかし、労働市場に劇的な影響を及ぼし、それによって国際社会や社会的結束さえも損なう可能性があります。

遺伝子工学は、SFの世界から市場へと入ってきましたが、未解決の新たな倫理的ジレンマを多く抱えています。

責任ある形で対処しなければ、こうした技術的進歩が計り知れない損害をもたらすおそれもあります。

各国政府と国際機関は、この新たな状況に備えることがまったくできていません。

従来の規制だけで対応することは、もはや不可能です。

このような動向や能力に取り組むためには、新世代の戦略思考や倫理的配慮、規制が必要となることは明らかです。

国連には、加盟国や市民社会、企業、学界が一堂に会し、すべての人にとって有益な今後の取り組みについて話し合える場となる用意があります。

最後に、人間の移動についてお話ししたいと思います。但し、私は一部の人々と異なり、これを脅威として捉えていません。むしろ、適切に管理すれば、世界の結束を高めることに貢献できる課題として考えています。

はっきりさせておきたいのは、私たちが直面しているのは難民危機ではなく、連帯の危機だということです。

どの国にも、自国の国境を警備する権利はあります。しかし、国境警備は移動する人々の権利を守る形で行わねばなりません。

私たちは門戸を閉ざし、敵対心を開け放つのではなく、完全な難民保護体制と、人に対する思いやりという単純な良識を確立し直す必要があります。真の意味でグローバルに責任を分担すれば、今いる数の難民には対応できるはずです。

しかし、あまりにも多くの国々が、その責任を果たしていません。

私は、避難を強いられた百万単位の人々に対し、賞賛すべき思いやりを示している国に賛辞を送ります。私たちはこうした国をさらに支援する必要があります。

また、移住という課題への対応にも、もっと取り組む必要があります。事実、大半の移民は秩序ある形で移住し、受入国と出身国の双方に貢献しています。

リスクが明らかになるのは、移民が無秩序に移動する場合です。国家にとってのリスクもありますが、より深刻なのは、移民自身が危険な旅を強いられるというリスクです。

移住はこれまでも常に起きていました。

気候変動や人口力学、情勢不安、不平等の拡大、よりよい生活の希求、労働市場で満たされない需要といった要因があるため、移住がなくなることはありません。

それに対する答えは、効果的な国際協力で移住を管理することによって、その恩恵が最も広く行き渡り、関係者全員の人権が適切に保護されるようにすることです。

しかし、私の経験から見て、ほとんどの人々が故郷で夢を叶えたいと思っていることは間違いありません。

そうできるよう、私たちは協力して、開発協力の方向性を定めなければなりません。

移住は必要性ではなく、選択肢とすべきです。

私たちはまた、人身取引犯を取り締まり、その被害者を保護するため、国際社会によるさらに強力なコミットメントも必要としています。

しかし、はっきりさせておきたいことがあります。それは、正規の移住機会をもっと増やさない限り、地中海やアンダマン海などでの悲劇に終止符を打つことはできないということです。そうすれば、移民と各国の双方にとって利益となるでしょう。

この議場にいらっしゃる多くの方々と同様、私自身も移民です。しかし、穴の開いたボートで自分の命を危険にさらしたり、トラックの荷台で砂漠を横断したりして、生まれ故郷の国以外で仕事を探すことを私に期待する人はいませんでした。

安全な移住の機会を、グローバル・エリートに限定することはできません。

難民や国内避難民、移民に問題があるのではありません。問題は紛争や迫害、絶望的な貧困にあるのです。

難民や移民がステレオタイプ化され、諸悪の根源として扱われる様子を見るたびに、また、政治家が選挙で勝とうとして怒りを煽る姿を見るたびに、私の心は痛みます。

現在の世界では、すべての社会が多文化的、多民族的、多宗教的になっています。

この多様性は脅威ではなく、豊かさと捉えなければなりません。しかし、多様性を成功へと導くためには、社会的一体性に投資することで、すべての人々が、自分たちのアイデンティティーが尊重されていること、そしてコミュニティー全体と関わり合いがあることを実感できるようにせねばなりません。

私たちの世界を改革する必要があります。そして私は、国連を改革する決意を固めています。

私たちは一緒に、包括的な改革への取り組みに着手しました。その目的は、

  • 各国による国民の生活改善を支援できる国連開発システムを構築すること
  • 私たちが人々の平和、安全、人権を守れる能力をさらに高めること
  • そして、これらの目標を妨げるのではなく、その実現に向けて前進できる管理実践を受け入れることにあります。

私たちは、性的搾取と虐待を予防するため、被害者を中心とする新たなアプローチを採用しました。

私たちには、国連でジェンダー・パリティー(男女職員同数)を達成するためのロードマップがあり、すでに取り組みが進んでいます。

私たちがここにいるのは、奉仕するためです。「われら人民」の苦痛を和らげ、その夢の実現を助けることが仕事です。

私たちは、世界の隅々からやって来ました。

私たちの文化や宗教、伝統は大きく異なっていますが、私に言わせれば、それは素晴らしいことです。

時折、私たちの利害は対立します。

あからさまな紛争が生まれることさえあります。

私たちに国連が必要なのは、まさにそのためです。

多国間主義がこれまで以上に大切になっている理由も、ここにあります。

私たちは自らを国際社会と呼んでいます。

私たちは一体となって行動しなければなりません。国々の連合として力を合わせてはじめて、私たちは国連憲章の約束を果たし、あらゆる人の人間としての尊厳を高めることができるからです。

ありがとうございました。

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原文(English)はこちらをご覧ください。