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事務総長の国連総会演説 (ニューヨーク、2012年9月25日)

プレスリリース 12-048-J 2012年10月01日

潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は2012年9月25日、ニューヨークの国連総会で下記の演説を行いました。

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私たちは毎年、この大きな議場に集まり、私たちの世界の様子をありのままに、冷徹に見つめます。

今年、私はこの場所で、私たち人類全体が進んでいる方向について警告しなければなりません。不安や不正、不公平や不寛容が広がっていることは、誰の目にも明らかです。政府は多額の貴重な資金を武器の購入に充てる一方で、人々への投資を切り詰めています。気候変動の影響は私たちの目前で、ますます深刻かつ重大になりつつあるにも関わらず、権力の座にある人々の中には、この脅威を見て見ぬふりをする向きも多くみられます。

私たちは混迷、移行、そして転換の時代を迎えています。今は時間との闘いです。人々は雇用と人間らしい生活の見通しを望んでいます。しかし、あまりにも多くの場合、人々が実際に得るものは、不和、先延ばし、そして夢や希望の否定です。事態の進展を切望する表情は、この議場の中にもあふれています。皆様の中には、初めてここを訪れる方々、すなわち新たな声に支えられて政権の座に就き、過去との決別を期待されている新しい指導者の方々も多くいます。皆様の国民は遠い将来でなく、今すぐに成果を期待しているのです。

当然のことながら、国連も同じように、すぐに成果を求める厳しい目、焦り、そして説明責任を求める厳しい声にさらされています。人々が国連に期待するのは、分裂する世界のありさまをそのまま反映することではありません。人々は今すぐに前進と解決を求めています。新しい発想、皆様のリーダーシップ、そして将来への具体的な希望を求めているのです。私たちの責務は、こうした苛立ちと渇望に応えることにあります。今年1月にも発表したとおり、私の行動課題は持続可能な開発、予防、より安全な世界の構築、移行期にある国々への支援、そして女性と若者のエンパワーメントの5つを重点としています。

私は、そのうちいくつかの点で大きな前進が見られることに心を強くしています。極度の貧困は対2000年比で半減しました。アラブ世界やミャンマーその他多くの国々では、民主化が進んでいます。アフリカは世界で最も速い経済成長を遂げています。アジアやラテンアメリカでも大きな前進が見られています。

それでも、私たちはさらなる高みを目指さなければなりません。皆様一人ひとりの一層の協力が必要です。そして世界は、私たち国連からより多くのものを必要としています。持続可能な開発は、私たちが望む未来の実現の鍵を握っています。それは事務総長である私の最優先課題でもあります。しかし、貧困と不平等は依然として蔓延しています。私たちの資源の使い方は、地球を限界に追い込んでいます。生態系も限界点に近づいています。世界の最先端の科学は、手遅れになる前に私たちの進路を変えなければならないことを教えてくれます。

昨日、世界銀行総裁と私は「すべての人のための持続可能エネルギー」イニシアティブにより、エネルギーの普及と効率化に向けて数百億ドルが投入できることになったと発表しました。明日は、新たな取り組みとして「教育第一(Education First)」イニシアティブを立ち上げる予定です。そして9月27日には、「栄養への取り組み拡充運動」に対する大々的な追加支援策が発表されます。また、女性と子どもの健康の実現に向けたグローバル戦略(Every Woman Every Child)に参加する260のパートナーは、この2年間で新たに100億ドルを拠出しました。実際の活動で、しっかりとしたパートナーシップを作り上げれば、私たち一人ひとりでは決して達成できない成果でも達成しうることが立証されているのです。

ミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限まで、あと3年強しかありません。私たちは極度の貧困の根絶に向けた取り組みをさらに強化しなければなりません。経済危機を言い訳に、あらゆる人々の基本的ニーズを満たすという皆様の約束を果たさないわけにはゆかないのです。

仮に私たちがMDGsを達成できたとしても、その先にはさらに長い道のりが控えています。リオ+20会議は、一連の持続可能な開発目標を設定し、その方向性を示しました。これら新たな目標と2015年以降に向けた開発課題は、私たちの今後の活動指針となるものです。MDGsは、グローバルな力を結集させる起爆剤となりました。これら新たな枠組みも、全世界の人々に語りかけ、その心を動かすことで、同じ成果を生まなければなりません。

気候変動への対策は残る重大な課題の一つです。加盟国は昨年12月、2015年までに法的拘束力を有する協定を成立させることで合意しました。皆様は今こそ、この約束を果たさなければなりません。地球の気温上昇を摂氏2度以下に抑えるための取り組みは、待ったなしの状況です。進路の変更は容易ではありません。しかし、これを単なる負担と考えていたのでは、全体像を見失ってしまいます。持続可能性と環境にやさしい経済は必ず、雇用、成長、革新そして長期的安定を促進する機会をもたらします。今すぐ行動すれば、私たちが望む未来を手に入れることができるのです。開発がなければ平和があり得ないのと同様、平和がなければ開発もあり得ません。

アフガニスタンやコンゴ民主共和国で続く暴力を、私は深く憂慮しています。私はスーダンと南スーダンに対し、分離独立後に残る課題をすべて解決するよう強く促します。ソマリアは心強い前進を遂げる一方で、リビアでは半世紀ぶりに自由な選挙が行われました。成果はさらに促進、維持してゆかねばなりません。そして私たちは、紛争が勃発する前にこれを予防し、平和的手段で紛争を解決することに引き続き力を注がなければならないのです。

ミャンマーの指導者たちは勇気と決断を持って、民主化と和解への道を歩みだしました。同国は経済改革から少数民族の保護に至るまで、多くの課題を抱えています。政府と国民が一丸となってこの責任に取り組む中で、国際社会と国連はできる限りの支援を提供しなければなりません。

サヘルの危機については、十分な関心も支援も見られません。貧困や脆弱性、干ばつ、宗派間の緊張状態が、この地域全体の安定を脅かしています。憲法違反の政権交代も頻発しています。過激派が台頭をはじめています。仕事が見つからない状態の中で、武器だけは簡単に手に入ります。国際社会は協調し、この憂慮すべき事態に本腰を入れて取り組む必要があります。私はあす、総合的な戦略に向けた私たちの考え方を示すつもりです。同地域の政府や機関と国際パートナーは、この数週間でその詳細を詰めることになるでしょう。私は皆様に対し、この話合いへの参加と強力な支援をお願いします。

サヘル情勢は、開発のための早期警報を強化する必要性を如実に示しています。全世界に設置されたセンサーや地震計は防災に役立ちます。最貧層、最弱者層が抱える苦難の微動を感知するための取り組みも強化しなければなりません。

私たちは、食料安全保障や栄養状態にも、より一層の関心を向ける必要があります。数百万の人々にとって、頻繁なショックはもはや日常茶飯事となりました。食料価格はますます不安定化し、一般市民の不安や買い占め、騒乱を引き起こしています。セーフティネットを強化する必要があります。また、特に小規模農家を対象に、持続可能な農業への投資も増額してゆかねばなりません。政府は穀物その他の農産品の貿易を制限してはなりません。そうすれば食料の供給が減る一方で、農家の生産拡大への意欲をそぐことになるからです。私たちが力を合わせれば、近年のような食料危機を回避し、貧困ゼロという目標を達成することができるのです。

シリア情勢は日ごとに悪化しています。危機はもはやシリア国内にとどまらず、グローバルな悪影響を伴う地域的な惨事へと発展しました。この国際の平和と安定に対する深刻な脅威は増大の一途をたどり、安全保障理事会の対応が必要とされています。私は安全保障理事会の理事国と地域諸国をはじめとする国際社会に対し、ブラヒミ合同特別代表による取り組みを全面的かつ具体的に支持するよう呼びかけます。いち早く暴力と両当事者への武器の流れを止め、シリア人の主導による移行を緒につけなければなりません。

人道ニーズはシリア内外で高まっています。国際社会は歯止めのきかない暴力から目を背けるべきではありません。主として政府側による残虐な人権侵害が続いていますが、反体制派による残虐行為も見られます。このような犯罪を野放しにしてはなりません。こうした極度の暴力に時効などないからです。シリアの内外を問わず、国際犯罪の野放し状態に終止符を打つことは、私たちの世代に課された責務といえます。保護の責任に具体的な意味を与えることも、また然りです。

アラブ世界その他に端を発した変革の風は、今後も吹き続けることでしょう。数十年にわたり過酷な占領と、生活のあらゆる側面に及ぶ屈辱的な制約を受けてきたパレスチナ人は、存続可能な国家を樹立するという権利を実現できなければなりません。イスラエル人は脅威やロケット弾攻撃のない、平和で安心な暮らしを送れなければなりません。2国家の併存こそ、唯一持続可能な解決策です。ところが、この解決への扉は永久に閉ざされようとしています。パレスチナ被占領地区のイスラエル人入植地が拡大を続け、和平への取り組みに大きく立ちはだかっているからです。私たちはこの危険な行き詰まり状態を打開しなければなりません。

また、国家が互いに相手の合法性を認めない発言をしたり、軍事活動の可能性をちらつかせたりすることをいずれも容認できません。このような攻撃は破滅をもたらすからです。ここ数週間に聞かれる声高な好戦論は憂慮すべきものであると同時に、平和的な解決や国連憲章と国際法の全面的遵守の必要性を私たちに改めて思い起こさせるものでもあります。指導者には、今ある緊張や不安を高めるのではなく、これを鎮めるための発言を行う責任があります。

より安全な世界の構築は、核兵器のない世界という目標を追求することでもあります。このような兵器が存在する限り、私たちは危険にさらされるからです。核兵器とあらゆる大量破壊兵器を排除する地帯を中東に設けるための会議が、今年中に結実することを期待しています。イランは、その核開発プログラムの目的が平和利用のみにあることを証明しなければなりません。朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島の非核化に向けて踏み出さなければなりません。関連の安全保障理事会決議はすべて、全面的に遅滞なく履行すべきです。

人権や法の支配に対する尊重、女性のエンパワーメント、子どもの保護、さらには保護の対象を広げてきた諸条約や宣言なしには、平和も開発もあり得ません。これらは私たちの試金石となるものです。昨日の法の支配に関するハイレベル会合は、国際法、正義、そして国内および国家間の制度の重要性に関し、断固としたメッセージを送りました。

この2週間、無神経な恥ずべき行為により、正当化できない犯罪や暴力が発生しました。言論や集会の自由は基本的な権利です。しかし、これらはいずれも、暴力を扇動したり、暴力を働いたりしてもよいという意味ではありません。ところが私たちは、短期的な政治目的のために分裂が利用されがちな世界に暮らしています。わずかな食い違いの火種を燃え上がらせようと躍起になる人々があまりにも多くいます。不寛容に寛容な人々が多すぎるのです。穏健な多数派は声なき大衆に堕すべきではありません。声を大にし、強硬派に対しても過激派に対しても「自分たちの意見は違う」と言い切らなければならなりません。今こそ責任ある政治指導者、地域指導者の出番なのです。

これだけの課題に直面しながらも、国連は自らの改革を続けなければなりません。分野や機構、場所を問わず、一丸となって使命を果たさねばなりません。私たちは、国連のグローバルなプレゼンスを支援する、グローバルな事務局を作り上げているところです。それは共有のサービスや統合的なアプローチ、革新的な技術活用を意味します。この取り組みは長年の懸案でした。数週間後に具体的な提案を行う予定ですので、皆様のご支援をお願いします。

信頼を土台に、合理的な予算過程を共に作り上げようではありませんか。マイクロマネジメントは誰のためにもなりません。早急な成果を望む加盟国にとっても、皆様と同じく最高のものを求める私たち事務局にとっても、それは同じことです。私は事務総長として、ダイナミックな環境の中で指揮を執るための空間を必要としています。

また、幅広い課題分野を通じ、パートナーシップの力を全面的に活用できる環境も整えようではありませんか。私は近々、国連のパートナーシップ能力を強化するための具体的提案を行う予定です。これにより、私たちはより多くの、よりよい成果を実現し、説明責任を高め、一貫性を向上させることができるでしょう。皆様から国連に委任された多くの重要な任務を果たすためには、皆様の支援が欠かせません。国連の強化は、世界の人々のために達成を望むあらゆる成果を可能にする重要な要素です。国連が自らを改革し、時代の流れについてゆけることを証明しようではありませんか。

私はいつも人々を第一に、そして課題を中心に考えてきました。私たちはともに、人々の日々の暮らしにとって重要な問題、そして人々を眠れないほど悩ませる問題の解決に努めてきました。世界の指導者である皆様は、国家の権力、すなわち政府を動かす手段を掌握しています。

各国の国民は、皆様がその希望に耳を傾け、その活力と想像力を解き放ってくれることを期待しています。そして世界は皆様に、共通の利益のために協力することを期待しているのです。

一人で何でもできる人はいません。しかし、私たち一人ひとりが、それぞれのやり方で、何かができるはずです。私たち全員がそれぞれの責任を果たせば、今の試練に立ち向かい、劇的な変革の時代が作り出す機会をとらえ、国連憲章の理念と目的に新たな生命を吹き込むことができるのです。ありがとうございました。

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