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国連識字の10年(2003-2012年)」国連本部で開始
「すべての人に識字を」をスローガンに、国連副事務総長が提唱

プレスリリース 03/038-J 2003年05月09日

2003年2月13日にニューヨークの国連本部で行われた「国連識字の10年-すべての人に教育を」のオープニング式典において、ルイーズ・フレシェット国連副事務総長は「すべての人に識字を」をこの10年のスローガンにすることを提唱しました。
 
 第56回国連総会は2003年から2012年までの10年を「国連識字の10年」と宣言しました。その目的は、読み書きのできない8億6,000万人の成人と、学校に行っていない1億1,300万人の子どもたちが読み書きをできるようにし、それによってそれぞれの地域の持続可能な識字環境を達成することです。国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、識字運動はもっとも貧しい人々や社会の進歩から取り残された人々には届いていません。したがって、もっとも不利な立場にある人々、特に女性や少女、民族的・言語的少数者、先住民、移住者と難民、障害者、学校に行っていない子どもや若者の識字を優先させなければなりません。
 
 式典にはフレシェット国連副事務総長のほか、この「識字の10年」の影の推進力となってきたナツァギン・バガバンディ・モンゴル大統領、それにこの「10年」の実際の指揮をとることになる松浦晃一郎ユネスコ事務局長が出席しました。ゲアハルト・プファンツェルテル(オーストリア)総会副議長がスピーカーを紹介するとともに、すべての人に識字を保証するために真剣かつ積極的な行動をとるよう国際社会に求めました。
 
 バガバンディ大統領は、読み書きのできない人々が存在する限り、すべての人に平等な人権を保障することにはならないと述べました。そうした状況を回避するために、「識字の10年」の枠組みの中で断固とした行動をとり、2015年までに成人の非識字者数を半減させることを目指したダカール・コミットメントを実現しようと訴えました。識字は経済的な福祉の必要条件であるばかりではなく、充実した幸せな生活を築くための強力な基盤となるものです。
 
 松浦ユネスコ事務局長は、ユネスコのスローガンである「自由としての識字」が目指していることは、無知や無能力、排除から人々を解放し、かつ行動、選択、参加のために人々を解放することである、と述べました。識字を通して、虐げられてきた人々は発言の場を見出し、貧しい人々はいかにして学ぶかを学び、力のない人々は力を得ることができます。その点において、普遍的な識字運動は必然的に人権の問題に結びついています。識字はすべての開発問題を解決する普遍的な万能薬ではありませんが、開発の道具としていろいろな目的に利用することが可能であり、事実、そのことは証明されています。
 
 ルイーズ・フレシェット国連副事務総長は、「識字の10年」の開始によって、識字を広め、その恩恵をすべての人々や社会にもたらすというグローバルな努力に新しい段階が開かれた、と述べました。識字は20世紀にやり残した仕事の一つです。21世紀の成功物語の一つは全人類に識字が拡大されたということでなければなりません。2015年までに世界の識字率を50パーセント引き上げるという目標を達成するためには、もう無駄に過ごす時間などありません。
 
 グローバルな非識字に関する現実は厳しいものです。およそ8億6,000万の人々、つまり成人5人に1人は、読むことも書くこともできません。こうした人々の3分の2は女性です。このことが意味することは、過去の誤りから得た教訓を生かしながら、これまで以上の努力を行うことです。これまでもっとも成功した方法は、それぞれのコミュニティの行動に基づいたやり方でした。これは、現地に関するものを中心に、現地の事情に合わせたやり方です。パートナーシップを発展させることが重要で、常に学ぶ者のニーズを活動の中心に置かなければなりません。
 
 識字は人権です。世界の成人人口の20パーセントがその権利を否定されていることは不当なことです。識字はそれ自体が目標であることには変わりありません。そればかりか識字は健全かつ公正な、繁栄した世界を実現するための必要条件となっています。識字は、より良い世界を築く青写真として採択された「ミレニアム開発目標」を達成するために不可欠であり、特に女性の識字について、このことは明らかです。事実、女性や少女の教育に勝る効果的な、開発のための手段はありません。
 
 女性が教育を受けて力をつけると、家族はより健康になり、食生活が改善されます。収入が増え、HIV/エイズの感染から身を守る機会が増え、また子どもたちの教育の機会も広がります。家族について言えることはコミュニティについて、そして最終的には国についても言えることです。「識字の10年」の最初の2年間に識字とジェンダーの問題を中心に活動を進めることになっているのは、こうした理由からです。「識字の10年」は、識字運動をいかに進めるかについて学んだすべての教訓を生かし、これまでと違った成果をあげるために、これからの10年、持続可能な方法でともに働くかけがえのない機会となります。
 
 松浦晃一郎ユネスコ事務局長は、識字は教育を受ける権利の重要な側面であって、すべての人に教育を与える幅広い運動の一部であるばかりでなく、経済的、社会的、文化的発展のための道具である、と述べました。「識字の10年」は、識字への挑戦についての認識を高め、維持することを求めています。それは広範なパートナーやステークホルダーの行動にとって刺激となるものです。そうした活動を進めるにあたっては、識字への挑戦が示す厳しい現実を常に心に留めておかなければなりません。すなわち、8億6,000万人以上の成人が読み書きをできないという現実をです。15歳以上の人では5人に1人が非識字者であり、そのうちの3分の2が女性なのです。
 
 識字への挑戦は途方もなく大きいものですが、気をくじかれるようなことがあってはなりません。しかし、あまりにも野心的な期待はいさめる必要があります。いうまでもなく、世界の識字問題を早急に解決する方法はありません。識字を広めるにはすべてのパートナーのスタミナと持久力とが必要です。そして同様に加速化も必要です。この数年、世界の識字率の上昇ペースは遅くなってきていますが、これからは本当の意味で押し上げが必要です。認識を高めるには、新鮮なアプローチや新しい戦略を採択し、これまでの方法を改める必要があります。これまでの上意下達式の大衆識字運動では効果をあげられないでしょう。
 
 識字の意義そのものが変わってきています。識字とは複雑かつ多様な特質をもち、学習者の中に深く目指したものであり、異なるレベルや形態をもっていることを認識する必要がある、と事務局長は強調しました。その際には、もっとも優先すべきことは何かということを見失わないようにしなければなりません。もっとも貧しく、もっとも疎外されてきた人々に識字を教えるということです。こうした人々の基本的な識字技能はもっとも遅れています。また、識字が狭い意味での関心事となってはなりません。今日、識字への挑戦は2つの方向に向けられています。一つはコミュニティであり、もう一つはより広い世界です。新しい学習者は新たに取得した識字の技能を通してその世界に入る権利を有しているのです。
 
 「識字への10年」のもう一つの重要な目的、すなわち行動の活性化について、松浦事務局長は、ユネスコが作成し国連総会が承認した「国際行動計画」がいくつかの重要な行動領域とそれに関連した戦略を明らかにしていると述べました。国内および国際レベルでの資源動員は不可欠です。最大の効果を発揮するには行動があらゆるレベルでの緊密な協力を伴う必要があります。ジェンダーの視点からすべての行動に取り組まなければなりません。「識字の側面」がすべての政策、計画、プロジェクトの特徴とならなければなりません。
 
 ナツァギン・バガバンディ・モンゴル大統領は、「国連識字の10年」の目的はすべての人間の現在および将来の福祉を確保することであると述べました。それは、その中心に個人の基本的な利益の問題があるからです。識字は、人々が自分たちの幸せな、繁栄した生活を築くために知識と情報を利用できるようにする不可欠の道具で、それによって世界人権宣言が定めた基本的人権と自由を意識的に行使する機会を提供するものです。
 
 非識字がもたらすのは後進性と貧困、不平等です。非識字の撤廃のために、国際社会はこの数年にかなりの努力を行ってきましたが、8億6,000万人以上の成人が依然として読み書きができず、世界の指導者の間に大きな懸念が広がっています。新しい情報化の世紀において進歩や発展が見られたものの、それでも非識字を実質的に撤廃するには、現在の努力を倍増し、資源の動員を図り、グローバルなレベルで関連の政策や戦略を調整し、その上に効果的なパートナーシップを築いていくことが必要です。
 
 「識字の10年」は、非識字を撤廃し、かつ教育を通して後開発や貧困、失業を効果的に克服し、持続可能な開発と民主主義の理念に貢献する力を人々に与えようとするすべての国にとって重要な道しるべとなるでしょう。識字が文学、文化、知的発展における成果の共有を通じ、相互理解と信頼を促進することは明らかです。識字はすべての人のより良い、安全な生活を築くことに大きく貢献するでしょう。