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アフリカ、日本の投資家の新たな貿易イニシアティブを歓迎 ― TICAD VIの「ナイロビ宣言」で経済的関係の強化を目指す ―

2016年12月28日

担当:キングスリー・イゴボル
『Africa Renewal(アフリカ・リニューアル)』2016年12月 – 2017年3月号に掲載

TICAD VIで、アフリカ首脳の隣に立つ安倍晋三総理大臣©Photo: Rwandan Presidency

2016年8月、ケニアのナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)に参加したアフリカのリーダーたちは、アフリカでの投資と開発に向けた日本の最近の公約と、これがアフリカの市民生活の質をどのように改善するかを見届けようと、躍起になっています。

色とりどりの文化に彩られた歓迎セレモニーの直後から、アフリカの首脳はビジネス界や市民社会の代表とともに、アフリカ経済の転換と政情の安定化を図るための方策を探るという、真剣な課題への取り組みをスタートさせました。

ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領とともにTICAD VIの共同議長を務めた安倍晋三総理大臣は、70人を超える日本企業のリーダーを率い、ナイロビの会議に臨みました。会議には南アフリカのジェイコブ・ズマ、ナイジェリアのムハンマド・ブハリ、セネガルのマッキー・サル、リベリアのエレン・ジョンソン=サーリーフ、モザンビークのフィリッペ・ニュシ各大統領も出席しました。

会場となったケニヤッタ国際会議場には、企業のトップ300人、日本企業の代表1,700人、アフリカ企業の代表2,000人を含むおよそ1万8,000人の参加者が集まりました。

基調を打ち出す

日本政府、国連アフリカ担当特別顧問室、国連開発計画(UNDP)、アフリカ連合(AU)、世界銀行が共同で開催するTICADは今回、1993年の発足以来、初めてアフリカで開催されました。アフリカの参加者からの強い要請に応じる形で、会議は今後、5年に1回ではなく3年に1回、しかも日本とアフリカで交互に開催されることになったからです。

それまでの5回の会議と同様、リーダーたちは「持続可能な開発目標(SDGs)」と、アフリカのリーダーが地域を変革するために採択した一連の野心的目標「アジェンダ2063」を尺度として用いながら、アフリカの社会経済開発について討議する場として、今回のTICADを活用しました。

安倍総理は開会の辞で「皆さまはいま,2063年にはこんな国、大陸になっていたいと念じ、目標めがけて走っています」と会議の基調を打ち出しました。

参加者は、農業開発やインフラ整備に加え、貿易の改善でアフリカの産業化を推進できると語りました。安倍総理に同行し、ナイロビを訪れたビジネスリーダーが経営する日本企業77社の中には、大企業も中小企業も含まれていましたが、これは、さまざまな貿易と投資のレベルでアフリカとつながろうという試みの表れでした。

安倍総理は「これらの企業は、アフリカに熱意を抱いています。私の訪問が、ケニアおよびアフリカとの2国間関係を後押しするものと期待しています」と述べています。

友好と貿易

2日間にわたるイベントは、アイデアを競う場というだけでなく、大がかりなパーティーの様相も呈しました。政治的指導者とビジネスリーダーが外国投資家に対するそれぞれの国の魅力を説く中で、企業は製品やサービスを宣伝するためのテントを設けました。しかし、最も大きなニュースになったのは、日本がアフリカのインフラや医療システムの整備、安全保障の充実に向けて300億ドルを拠出するという発表でした。

安倍総理はまた、2018年までに、アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)による専門家1,500人に加え、3万人のエンジニアを含む1,000万人に上るアフリカの人々の訓練または「エンパワーメント」を図る施策によって、「産業基盤」を支援することも明らかにしました。

参加者は、アフリカ開発の優先課題として、3つの分野を検討しました。第1に、経済の多角化と産業化。そのためには、道路や港湾、エネルギー、食料バリューチェーンへの投資が必要になります。第2に、レジリエントな保健システム。この問題は2014年のエボラ発生の際、ギニア、リベリア、シエラレオネの保健システムがその蔓延に対応できなかったことを受け、緊急課題として認識されるようになりました。

そして最後に、社会的安定の達成。そのためには、リーダーが女性と若者の雇用創出、災害リスク管理などを通じ、社会経済的な不安や気候変動による災害に取り組む必要があります。経済的安定によって、武装蜂起が発生しにくくなることも期待されます。

安倍総理は、日本が情勢不安や一次産品価格の下落といった「アフリカが直面する課題を解決する」ための支援を怠らないとする一方で、日本のアフリカとの関係が、どちらか一方のパートナーだけが利益を得るような一方通行の関係ではないという事実も強調しました。

「アフリカが開く可能性は、日本と日本企業を、きっと力強く成長させる。その直感が、私たちを動かします」経済問題が山積する中でも、専門家は、アフリカの豊富な天然資源、人口の増大、そして中間層の台頭が、日本企業にとって絶好の投資機会を提供すると確信しています。

日本の対アフリカ貿易は現在、黒字となっています。日本貿易振興機構(JETRO)によると、2015年の対アフリカ輸出額は116億ドルに上るのに対し、輸入額は85億ドルとなっています。ケニヤッタ大統領は、豊かな国が開発途上国との貿易を活発化する必要があると助言しました。

インフラ整備計画

ケニヤッタ大統領は、300億ドルの拠出予定額のうち100億ドルが、教育、エネルギー、都市交通(道路と港湾)、保健、農業などのプロジェクトを対象とする3カ年「アフリカ・インフラ計画」に注入されるという安倍総理の発表を歓迎しました。この資金はアフリカ開発銀行(AfDB)を通じ、アフリカの発電能力を2,000メガワット増強し、2022年までにさらに300万世帯への電力供給を行う目的で利用されます。

日本とAfDBは、長年にわたり関係を築いてきました。日本は2005年から2014年にかけ、「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ」に基づき、農業、水、保健およびインフラ関連プロジェクトの協調融資を支援するため、計30億ドルをAfDBに供与することを発表しました。これにより遂行されたプロジェクトの例としては、ウガンダのブジャガリ水力発電所、マダガスカルのサニボトリ水力発電所、ナイジェリアのレッキ有料高速道路、ガーナのタコラディ第2ガス火力発電所などが挙げられます。

AfDBとの関係は、アフリカ全土をカバーする機関との連携により、プロジェクトの実施を図るという戦略をうかがわせる一方で、日本は2016年になってから、大エジプト博物館建設のためにエジプトに4億5,100万ドルの借款を供与するなど、各国との個別協力も行っています。

TICAD VIでは、いわゆる「ナイロビ宣言」の枠内で、計73件の協定に署名が行われました。重要なものとしては、AfDBと三井住友銀行によるアフリカの経済開発推進を目的とした協定への署名が挙げられます。両金融機関は、貿易だけでなく、貿易リスクを緩和するための産業・インフラ整備のプロジェクトや取り組みにも協力して資金を提供することになっています。

日本企業は、アフリカのグリーンエネルギーや農業、自動車、オートバイ、繊維、金融およびサービス部門関連のプロジェクトに関心を持っています。豊田通商は、ナイロビ北西のナイバシャにあるオルカリア第2発電所で、地熱発電を開発中です。同社は他の国々でも、肥料生産に関わっています。家電・エネルギー会社の東芝はKenya Power and Lighting Companyとの間で、国内送電網における送電ロスを削減するプロジェクトに関する協定に署名しました。

企業に優しい環境を

ケニヤッタ大統領は「我が国の若者が質の高い職を得るだけでなく、我が国の農民もその労働からより多くの稼ぎを得られ、また、農業生産の90%以上が国内で加工されることを確保するパートナーシップを支援する」用意がケニアにあることを表明しました。

専門家の中には、日本が2015年5月、アジア諸国のインフラ整備に1,110億ドルの拠出を約束したことに鑑み、日本はもっとアフリカを支援できるはずだとする向きもあります。しかし、アフリカのリーダーたちは原則的に、TICADの目標とともに、日本のアフリカとの関係を敬意に満ちたものとして称賛しています。そして、アフリカの課題を自分自身で解決することを望んでいます。ルワンダのポール・カガメ大統領は「近代化とは、価値観を輸入することではなく、自分自身の価値観を改善することを指すのです」と述べ、パートナーがアフリカのイニシアティブを支援する必要性を強調しました。

モザンビークのフィリッペ・ニュシ大統領は「我が大陸の経済的・財政的独立の構築」をビジョンに掲げました。

ナイジェリアのガルバ・シェフ大統領報道官によると、ブハリ大統領は、新たな投資家の誘致を図りつつ、本田技研工業、三菱商事、豊田通商、 West African Seasoning Companyをはじめとする既存の投資家からも、国内での業務拡大の確約を取り付けています。

アフリカ諸国が、投資の受入態勢は整っていることを強調しているのに対し、安倍総理と同行者は、より企業に優しい環境を整備する必要性を強調し続けました。シェフ報道官はこれを「情勢不安問題」を間接的に指摘した発言と解釈しています。ナイジェリアはボコ・ハラムによる反乱と闘っているところです。また、ケニアと国境を接するソマリアでは、反政府勢力アル・シャバーブが破壊活動を続けており、時にはケニア国内も攻撃の対象となっています。

サミットでは、アフリカ連合(AU)議長を務めるチャドのイドリス・デビー大統領が日本とその他のパートナーに対し、AUによるテロ対策への資金供与を呼びかけました。

専門家は、ビジネスに優しい環境とは、安定的な経済・通商政策や信頼できるインフラも含む概念であり、多くのアフリカ諸国には、これが欠けているのではないかと考えています。その一方で、谷口智彦・内閣官房参与は、次のようにも語っています。「本来はリスクを嫌う日本企業もようやく、アフリカが実質的な成長のチャンスを提供できることに気づいたのです」

TICAD VIの目玉の一つとして、「日・アフリカ官民経済フォーラム」の発足が挙げられます。このフォーラムは、政府と企業をビジネスでつなげる基盤となることが期待されています。安倍総理は、このフォーラムを「官民力を合わせ課題を解決する」場にすると述べたうえで、日本政府の閣僚や企業のトップが、3年に1度アフリカを訪れ、アフリカ企業と会い、「日本とアフリカの企業がもっと一緒に仕事をするため何が必要か」を特定することになると付け加えました。

アフリカの受益国にとって、TICAD VIはカンフル剤の役割を果たしました。日本にとって地域最大の貿易相手国である南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領は、日本の投資にいま必要なこととして、「特に大型プロジェクトに関し、すべての(アフリカ)諸国が受益できるような構造にする」ことを掲げました。こうした見解は、アフリカでも経済規模の小さい国々のリーダーにとって、朗報となることでしょう。

2019年に東京で開催予定の次回TICADは、「ナイロビ宣言」以後の進捗状況を把握する、もう一つの機会となるはずです。

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原文(English)はこちらをご覧ください。