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UNRWA事務局長フィリッポ・グランディ氏、パレスチナ難民の状況を語る

2012年08月27日

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の事務局長フィリッポ・グランディ氏が、8月8~10日に訪日し、政府関係者や国会議員に対してUNRWAへのさらなる支援を呼びかけました。上智大学での講演やプレス・インタビューなどもこなすなか、グランディ氏は国連広報センターのインターンによるインタビューにも応じました。以下はそのインタビューの内容です。

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◆現在パレスチナ難民が抱えている問題と、UNRWAの優先課題について教えてください。

UNRWAは、中東地域の約500万人のパレスチナ難民に、基本的なサービスである保健、教育、社会保障などを提供している国連機関です。紛争や緊急事態時には特別に食糧配給、現金支給、追加の医療ケアも行います。難民が発生して60年以上、UNRWAは難民コミュニティに対してインフラを含めた包括的な支援を提供しています。何世代にもわたって難民が暮らす難民キャンプは、現在はもはや大きな町の様相を呈しているものもあります。また、難民の中にはキャンプの外へ移住する人もいます。

UNRWAが直面する課題は3つあります。まず、パレスチナ難民支援のためにUNRWAが毎年事業に必要とする12億ドルは世界各国による任意の拠出金に基づいていますが、世界各国が厳しい財政問題を抱え、国際社会の中でパレスチナ難民の問題は優先順位が低いため、資金を確保するのはとても困難です。次に、難民が極めて紛争や混乱が起こりやすい地域に住んでいるということです。現在最も深刻なのがシリアで、約50万人の難民がシリア市民と同じように苦難に面しています。そして3つ目は、イスラエル・パレスチナ問題が政治的に解決しない限りパレスチナ難民の問題も解決されないということです。これら3つの課題は相互に関係しており年々支援は難しくなっていますが、UNRWAが引き続き難民支援を行うことがとても重要だと考えます。

◆教育の機会を提供しているというお話でしたが、教育を受けても職を得られない若者が多いと聞きます。失業率が高いのはなぜなのでしょうか

UNRWAは雇用促進への努力をしています。まず、パレスチナ難民が存在するヨルダン川西岸、ガザ地区、ヨルダン、シリア、レバノンにおいて10の職業訓練センターを運営し、毎年約1200名の卒業生が全員職を得ています。民間セクターとも協力しながら、センターの卒業生が雇用市場で必要とされている技術を獲得できるよう努めています。さらに、貧困層に対して、彼らの経済状況を分析し、貧困から抜け出せるような支援をしています。

しかし、これらの支援は大海の一滴に過ぎません。ガザの封鎖やヨルダン川西岸の分離壁による移動の制限、レバノンでの財産権と雇用権の制限、シリアでの紛争などの外部要因が貧困、失業の原因となっています。これがUNRWAの任務遂行をさらに難しくしています。

◆アラブの春は、ガザやヨルダン川西岸にいる難民にどのような影響を与えたのでしょうか。またこの民主化の波がパレスチナに大きな変化をもたらす可能性はあるのでしょうか。

アラブの春は中東地域に広く影響を及ぼしました。リビア、チュニジア、エジプトなどで進展が認められる一方、シリアやバーレーンなどでは未だ問題は解決していません。話し合い、デモ、民主化運動によって改善の方向に向かっているのを見て、パレスチナ難民は他のアラブ諸国と自分たちの違いを感じています。まず、彼らには属する国がないのです。よって、彼らの要求もアラブ諸国の市民のものとは異なってきます。彼らにとって、国としての独立を得ることも必要で、平和を手に入れることも必要なのです。周辺諸国が経験しているような進展が実現可能となることが難しいため、多くのパレスチナ難民は失望感を抱えています。

このような不満は、2006年の選挙以降分裂しているパレスチナの指導層にも向けられています。実際、約1年半前にアラブの春が起こった際、パレスチナの人々はパレスチナ政府の中核であるファタハとガザを実行支配しているハマスの指導部同士に対して歩み寄りを求めました。それが最低限要求すべきことだと思ったからです。しかし、パレスチナの国家がない限りは、パレスチナ難民が民主化や資源の平等な分配を望むことは難しいでしょう。

◆日本政府や日本国民に対して、どのようなパレスチナ支援を期待していますか。

世界にとって中東は資源のみならず政治・経済的にも戦略的に重要な地域です。これは日本にとっても同じです。しかし、日本はアメリカや中国などと異なり、中東に対してこのような政治的な利害ではなく、純粋な支援として行われていることに現地の人々は日本の支援を高く評価しているのです。日本は世界で大変重要な国であり、日本の若者にもそう思ってほしいと感じています。日本は、経済、歴史、外交的な側面で、アメリカや中国とは違う性質を持った大国です。日本のパレスチナ支援は現地の人々にとても高く評価され、しかも政治的利害から離れて行われてきました。

東日本大震災から一年が経った3月18日、ガザの子どもたちはUNRWAと協力して凧揚げを行い、日本との絆を改めて深めました。彼らは、まさに日本の支援が真摯なものであると感じてくれたからこそ、震災で苦しんでいる人々の様子をテレビで見て自分たちの状況と重なるものを感じ、とても純粋な気持ちからこのイベントに参加したのだと思います。
日本には、他の国の手本となる援助をこれからも続けて欲しいです。そして日本の方々には、国際協力にも興味を持ち、できるところから積極的に参加していただければと思います。

◆最後に、人道機関で働きたいと考えている若者に向けてメッセージをお願いします。

何事にも興味を持ち、積極的に参加してください。世界は狭くて小さいものです。そこで、小さな世界の良いところを利用するだけでなく、果たさなければいけない責任があることにも気づいてほしいと思っています。昨年の東日本での出来事を思い出してください。日本の人々の絆は、そのまま世界に広まり、また日本に返ってきています。良いものだけでなく、痛みや苦しみも共有してほしい、これが、日本の若者に伝えたいメッセージです。

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フィリッポ・グランディ UNRWA事務局長© UN Photo/Paulo Filgueiras
パレスチナの若手音楽家による演奏に聴き入るグランディ氏(左から2番目)(ガザにて、2011年5月3日)© UN Photo/Shareef Sarhan
国連広報センター・インターンによるインタビューに応じるグランディ氏(国連広報センターにて、2012年8月10日)
グランディ氏とインターン(国連広報センターにて、2012年8月10日)