<<高齢化に関する国際行動計画および高齢者のための国連原則>> すべての世代のための社会をめざして 1999国際高齢者年 国際連合 ニューヨーク、1998年 目次 高齢化に関する国際行動計画 ......5 前文 ......5 序文 ......7 I.序論9  A.人口学的背景 ......9  B.高齢化の人道的・開発的側面 ......11 II.原則 ......14 III.行動勧告 ......16  A.目標と政策勧告 ......16   1.一般的な政策勧告 ......17   2.高齢化の開発への影響 ......19   3.高齢者の関心分野 ......24 (a)健康と栄養 ......25   勧告1〜17 (b)高齢消費者の保護 ......31   勧告18 (c)住宅と環境 ......32   勧告19〜24 (d)家族 ......34   勧告25〜29 (e)社会福祉 ......36   勧告30〜35 (f)所得保障と雇用 ......38   勧告36〜43 (g)教育 ......41  勧告44〜514  B.推進政策およびプログラム ......44   1.データの収集と分析 ......44    勧告52〜53   2.訓練と教育 ......45    勧告54〜59   3.研究 ......47    勧告60〜62 IV.実施勧告 ......49  A.政府の役割 ......49  B.国際・地域協力の役割 ......50   1.地球的行動 ......50    (a)技術協力 ......51    (b)情報と経験の交換 ......52    (c)国際的指針の策定と実施 ......53   2.地域的行動 ......53  C.査定、再検討および評価 ......54 高齢者のための国連原則 ......55 ************************************************************ 高齢化に関する国際行動計画 前文 高齢化に関する世界会議に参集した国々は、 各国において人口の高齢化が進んでいることを認識し、 高齢化に対するその関心、ならびにこれに鑑みて、長寿の達成およびその課題と潜在的可能性をともに検討し、 個別的および集団的に、  (i)国際、地域および国内レベルで、高齢者の個人としての生活を向上させ、心体とも完全かつ自由にその老後を平和、健康および安全の中で過ごすことを可能にするための政策を開発・適用すること、ならびに、  (ii)高齢化の開発に対する影響と開発の高齢化に対する影響を調査することにより、高齢者の潜在能力の開花を可能にするとともに、この影響から生じるマイナスの効果があれば、適切な措置により、これを軽減することを決定し、  1.世界人権宣言に謳われた基本的で譲渡不可能な権利が高齢者にも完全に、かつ、先細ることなく適用されるという信念を厳粛に再確認し、  2.生活の質は長寿に劣らず重要であること、ならびに、それゆえに、できる限り、高齢者が社会の不可欠な構成員として評価され、自らの家族とコミュニティーの中で、達成感、健康、安全および満足のある生活を享受できるようにすべきであることを厳粛に認識する。 序文 高齢化に関する国際行動計画  1.「高齢化に関する国際行動計画」は、高齢化に関する最初の国際協定であり、高齢化に関する考え方と、政策およびプログラムの策定の指針となるものである。行動計画は1982年、オーストラリアのウィーンで開かれた「高齢化に関する世界会議」で採択され、同年中に国連総会(決議37/51)によって支持された。採択場所にちなんで、行動計画は「ウィーン計画」と呼ばれることもある。しかし、最近では、世界のあらゆる地域におけるその妥当性を重視し、「国際計画」と呼ばれることが多くなっている。  2.この計画のねらいは、高齢化に効果的な対処を行い、高齢者の開発面での潜在能力と扶養ニーズに取り組む政府と市民社会の能力を強化することにある。計画は地域的・国際的協力を推進する。計画には、研究、データ収集・分析、訓練・教育および以下のセクター別分野を対象とする62の行動勧告が含まれている。 ・健康と栄養 ・高齢消費者の保護 ・住宅と環境 ・家族 ・社会福祉 ・所得保障と雇用 ・教育  3.「行動計画」は、国際社会が最近の数十年間に策定した基準と戦略の国際的枠組の一部をなすものである。したがって、行動計画は人権、女性の地位向上、家族、人口、青少年、障害者、持続可能な開発、福祉、保健、住宅、所得保障・雇用および教育の分野で合意された基準および戦略との関係で考えられるべきである。 高齢者のための国連原則  4.「行動計画」に対する支持表明から9年後に当たる1991年、国連総会は「高齢者のための国連原則」(決議46/91)を採択した。これら18の原則は、高齢者の地位に関連する6つの領域にわたっている。 ・自立(independence) ・参加(participation) ・介護(care) ・自己実現(self‐fulfilment) ・尊厳(dignity) 行動計画および国連原則から派生したもの  5.「1999国際高齢者年のための理念枠組み」(文書A/50/114)は、行動計画と国連原則に基づくものであり、以下の4つの要素から構成されている。 ・高齢者の状況 ・個人の生涯開発 ・世代間の関係 ・高齢化と開発の相互連関 国際高齢者年のテーマと理念は、高齢化の「生涯的」(“lifelong”)および「社会全般的」(“society‐wide”)側面を重視している。このことは、長寿の文脈における個人の生涯開発に対する政策投資、ならびに、高齢化の影響およびグローバル化・技術革新など他の社会的変容との間の調整が重要であることを示している。 ●●I.序論●●● A.人口学的背景  6.大規模な高齢化現象によって提起される社会的、経済的、政治的および科学的問題に対して、国内および国際社会の関心が高まったのは、ここ数十年間のことである。それまでにも長生きをする人はいたものの、その数と人口全体に対する割合はさほど高くなかった。しかし、20世紀に入り、世界の多くの地域で、乳幼児の死亡率の抑制、出生率の低下、栄養の改善、基本的な医療、ならびに、多くの感染症の予防が見られるようになった。このような要素の組み合わせにより、長寿の人々はその数においても、割合においても、増大していったのである。  7.国連の推計によれば、1950年の時点で、60歳以上の人口は世界全体で2億人程度に過ぎなかった。1975年までに、その数は3億5,000万人に増加した。国連の予測によれば、その数は2000年には5億9,000万人となり、2025年までに11億人を超えるものと見られている。すなわち、1975年以来の増加率は224%に達することになる。この同じ期間に、世界人口は全体として、41億人から82億人へと、102%増加するものと予測されている。このため、今から45年後には、高齢者は世界人口の実に13.7%を占めることになると見られる。  8.さらに、1975年には、開発途上国に住む高齢者が全体の半数強(52%)に過ぎなかったことに留意すべきである。増加率の差により、2000年までに、開発途上国に住む高齢者は全体の60%を超えることになり、2025年までには、この割合がほぼ4分の3(72%)に達するものと見られている。  9.高齢者の数と割合の増大と並行して、人口の年齢構成に変化が見られている。人口に占める子どもの割合が低下し、高齢者の割合が増大しているのである。事実、国連の予測によれば、開発途上地域における15歳未満人口の割合は、1975年の平均約41%から2000年には33%へ、さらに2025年には26%へと低下する見込みである。そして同じく開発途上地域において、60歳以上の人口の割合が1975年の6%から2000年には7%、さらに2025年には12%に上昇し、1950年代の先進地域のレベルに達するものと見られている。先進地域では、15歳未満人口の割合が1975年の25%から2000年には21%、さらに2025年には20%へと低下する見込みであるが、60歳以上の人口は、1975年の全体の15%から2000年には18%、さらに2025年には23%へと増大するものと見られる。但し、これらは広範な地域における平均値であり、各国間および各国内のそれぞれのレベルで大きな差があることに留意すべきである。  10.モデル生命表によれば、出生時の平均余命の伸びにより、先進地域における60歳時点の平均余命は、1975年から2025年までに約1年延びる可能性がある。開発途上地域においては、この伸びが約2.5年と予測されている。60歳の男性は平均で、2025年までに、先進地域でさらに17年以上、開発途上地域ではさらに16年以上生きるものと予想される。女性については、それぞれ約21年と18年の余命を期待することができる。  11.現在の傾向が続けば、先進地域における性比率(女性100人あたりの男性の数)は、依然として不均衡が続くものの、若干改善されることに留意すべきである。例えば、60〜69歳の性比率は、1975年の74から2025年には78へと上昇するのに加え、80歳以上の年齢層についても、48から53へ上昇すると見られる。一方、開発途上国における性比率は、60〜69歳について96から2025年には94、80歳以上については78から73へと、若干の低下が見込まれる。こうして、ほとんどの場合、女性が高齢者人口の大半を占める傾向が強まっていくものと見られる。性別による寿命の差は、生活様式、所得、医療およびその他の支援システムに何らかの影響を及ぼす可能性がある。  12.もう一つ、考慮すべき重要な点として、都市・農村間の人口分布動向があげられる。先進地域では、1975年の時点で、高齢者の3分2が都市部に住んでいたが、この割合は2000年までに、4分の3に達するものと見られる。開発途上地域では、高齢者の4分の3が農村部に住むものと見られていた。しかし、これらの国々では、都市部に居住する高齢者の割合が急増しており、2000年までに40%を超える可能性が出てきた。こうした変化については、移住による影響も考えられる。 B.高齢化の人道的・開発的側面  13.上述の人口学的動向は、社会に顕著な影響をもたらすことになる。持続可能な開発を達成するためには、社会的、経済的および環境的要素と、人口増加の分布および構成における変化との間に、適切な均衡を保つことが必要である。各国はその開発を最適化するために、自国の人口動向、および、人口構成の変化を認識し、これを考慮に入れるべきである。  14.この関連で、各国政府と関係国際機関には、相当な財政努力が必要となる。しかし、現在のところ、ほとんどの開発途上国はその劣悪な経済状況のため、開発政策を十分に遂行するために必要な手段と資金を捻出することができていない。  15.これらの国々が、高齢者を含む国民の基本的ニーズを充足できるようにするためには、相互に恩典をもたらし、かつ、利用できる富、資源および技術の公正で公平な活用を可能とするような新しい国際経済関係に基づき、新経済秩序を確立することが必要である。  16.この「高齢化に関する国際行動計画」は、個々人の高齢化に影響する問題と、人口の高齢化に関連する問題の両方に取り組むものである。  17.人道面での問題は、高齢者の特殊なニーズに関連するものである。高齢者はその他の年齢層の人々と同じ問題やニーズを多く共有しているものの、高齢者特有の性質と要件を反映する問題もある。ここでは、副次的課題として、健康と栄養、住宅と環境、家族、社会福祉、所得保障と雇用、および、教育を取り上げる。  18.開発面での問題は、人口全体に対する高齢者の割合の増大として定義される高齢化の社会・経済的意味合いに関連するものである。この点についてはとりわけ、高齢化の生産、消費、貯蓄および投資への影響、ならびに、その帰結として、特に高齢者の被扶養率が高まる中での一般的な社会・経済条件および政策に対する影響を取り扱う。  19.これら人道および開発面の諸問題は、国内、地域および国際レベルでの行動計画策定を念頭に検討される。  20.一部の開発途上国では、社会の段階的高齢化に向けた動きが顕在化していないため、計画担当者と政策立案者は、国民全体の基本的ニーズ充足を目指す全般的な経済・社会開発計画と行動において、高齢者の問題を考慮する際、高齢化に十分な注意を向けない可能性がある。しかし、前節でも触れたとおり、国連の予測によれば、以下のことが明らかになっている。 (a)今後、60歳以上人口、特に80歳以上の人口の急増が予想される。 (b)多くの国では、60歳以上人口の割合の増加が、来る10〜20年間、特に21世紀最初の25年間のうちに顕著になるものと見られる。 (c)女性がこれら高齢者人口の大半を占める傾向が強まる。  21.高齢化という問題は、国家レベルの全般的開発と、高齢者個人の福祉および安全の両方に対して大きな意味合いを持ち、比較的近い将来、あらゆる国に関係する問題となる。世界の先進地域の一部では、すでにその影響が現れている。  22.高齢者の知恵と専門技術の最適利用を図る措置が検討されることになる。  23.人類は、長い幼児期と長い老年期によって特徴づけられる。古くから、このことにより、年長者が年少者を教育し、価値観を伝えていくことが可能となってきたが、この役割は、人類の存続と進歩を確保してきたのである。家庭、近隣およびあらゆる社会的生活形態の中に高齢者が存在することにより、人類のかけがえのない教訓が受け継がれていることに変わりはない。その生きざまだけでなく、まさにその死により、高齢者は私達すべてに教訓を与える。残された者はその悲しみを通じ、死者がまさに、その労働の成果、後世に残した功績と制度、および、その言葉と行いの記憶により、人間社会の中に生き続けていることを知らされる。このことは、私達が自分自身の死をより冷静に見つめ、将来の世代に対する責任の認識を深めるきっかけとなりうるのである。  24.長寿は人間に対し、その生涯を回顧し、その過ちのいくつかを正し、真実に近づき、その行動の意味と価値について異なる理解を得る機会を提供する。人間社会に対する高齢者のより大きな貢献は、この点にあって然るべきである。特に、前例のない変革が人間の一生を揺るがしているこの時代に、高齢者による人生の再解釈は、私達すべてにとって、急務である歴史の方向転換を達成する助けとなるであろう。 ●●II.原則●●●  25.高齢化に関する政策の策定と実施は、各国の主権と責任に属する事項であり、各国独自のニーズと目標に沿って遂行されるべきである。しかし、先進地域および開発途上地域の双方において、高齢者の活動、安全および福祉の推進は、新国際経済秩序の枠組みにおける総合的・協調的開発努力の不可欠な要素とすべきである。しかしながら、国際的・地域的協力も、重要な役割を果たすべきである。「高齢化に関する国際行動計画」は、以下に掲げる原則に基づいている。 (a)開発のねらいは、開発プロセスへの人々の完全な参加と、そこから得られる恩典の公平な分配に基づき、人々全体の福祉を向上させることにある。開発プロセスは人間の尊厳を高めるとともに、社会の資源、権利および責任の共有という点で、各年齢層の間の公平性を確保しなければならない。個人は年齢、性別あるいは信条に関係なく、その能力に応じた貢献を行う一方で、そのニーズに応じたサービスを受けるべきである。この文脈において、経済成長、生産的雇用、社会的正義および人間の連帯は、文化的アイデンティティーの保存および認識ととともに、開発の根本的かつ不可分な要素である。 (b)高齢者のさまざまな問題に対する真の解決策は、平和、安全、軍拡競争の停止、および、軍事目的に費やされる資源の経済・社会開発ニーズへの転用があってはじめて見い出すことができる。 (c)開発面および人道面での高齢化問題に対する解決策は、専制と圧政、植民地主義、人種主義、人種や性別、宗教に基づく差別、アパルトヘイト、ジェノサイド、外国による侵略や占領、あるいは、その他の形態の外国による支配がなく、かつ、人権が尊重されている状況においてこそ、見い出すことができる。 (d)各国は自らの伝統、構造および文化的価値観の文脈において、人口動向およびこれに起因する変化に対応を図るべきである。あらゆる世代の人々は、調和のとれた開発を模索する上で、伝統的要素と革新的要素の均衡を図るべきである。 (e)高齢者の精神的、文化的および社会・経済的貢献は、社会にとって価値あるものであり、その認識に基づき、これをいっそう推進すべきである。高齢化対策のための支出は、永続的な投資として考えるべきである。 (f)その形態や構造こそ違っても、家族は世代を結びつける根本的社会単位であり、各国の伝統と慣習に応じて維持、強化および保護されるべきである。 (g)政府、ならびに、特に地方当局、非政府組織、個人のボランティア、および、高齢者団体を含むボランティア団体は、家庭およびコミュニティーでの高齢者に対する支援とケアの提供に極めて大きな貢献を行うことができる。政府はこの種のボランティア活動を維持・奨励すべきである。 (h)社会・経済開発の重要な目標の一つは、年齢による差別と非自発的分離が解消され、世代間の連帯と相互支援が奨励されるような、世代統合型社会の達成である。 (i)高齢化は一生続くプロセスであり、そのような認識をすべきである。人生の後半段階に向けてすべての人々が準備を行うことは、社会政策と不可分の一体をなすべきであり、その中には、身体、心理、文化、宗教、精神、経済、健康およびその他の要素を含めるべきである。 (j)物質的にも精神的にも、高齢者にとっての正義と繁栄に満ちた生活を達成するため、「行動計画」は、世界の社会、経済、文化および精神の動向という、より幅広い文脈で捉えるべきである。 (k)高齢化は、経験と英知のシンボルであるばかりでなく、自らの信念と希望に応じた自己実現に人間を近づけることもできる。 (l)高齢者は、自らに特に影響するものを含め、政策の策定と実施に積極的に参加すべきである。 (m)政府、非政府組織およびすべての関係者は、高齢者の中でもっとも脆い人々、特に女性と農村出身者を多く含む貧しい人々に対し、特別な責任を負っている。 (n)高齢化のあらゆる側面について、一層の調査が必要である。 ●●III.行動勧告●●● A.目標と政策勧告  26.「行動計画」が提示できるのは、社会の段階的高齢化という課題と世界中の高齢者のニーズについて、国際社会、政府、その他の機関および社会全体が対応できる方法に関する幅広い指針と一般原則のための提案だけである。より具体的なアプローチおよび政策は、その性質上、各国あるいは民族コミュニティーの伝統、文化的価値観および慣行に照らして考案・策定しなければならない。また、行動プログラムは、各国あるいはコミュニティーの優先課題および物質的能力に適合させなければならない。  27.それでも、文化、宗教あるいは社会的地位に関係なく、一般的かつ根本的な人間の価値を反映する基礎的な課題は多く存在する。これらの価値は、高齢化が共通の、かつ避けられないプロセスであるという生物学的な事実に起因している。高齢者に対する尊敬とケアは、あらゆる場所の人間文化に見られる数少ない不変要素の一つであり、人類の存続と進歩を条件付けてきた自己保存と社会保存の衝動の基本的な相互作用を反映している。  28.生きてきた年数でのみ人々が老齢に達したと判断され、その時点で職を失い、片隅に追いやられてしまうかもしれないという傾向は、一部の国における社会・経済開発プロセスにおける悲しい逆説的現実の一つとなっている。本来、こうした開発のねらいは、高齢者を含め、国民全体の一般的生活水準、健康および福祉を向上させることにあったはずである。  29.前世紀以来の先進国における社会・経済および技術開発と、このプロセスの一環としてこれらの国々が採用した老後保障制度との間の密接な歴史的相互関係を分析し、これに留意する必要があるが、開発途上国の状況とニーズにより適したその他の選択肢も検討すべきである。  30.高齢化は量的にも質的にも、社会・経済開発の徴候であると同時に、その結果でもある。国内レベルと国際レベルの双方における開発に対する各部門別アプローチ間の不均衡の影響を如実に物語る一つの例は、医療と公衆衛生における進歩が、同時期における生産、所得分配、訓練、教育、住宅、制度の近代化および一般的な意味での社会開発における進展をはるかに上回ったという事実である。この意味で、開発途上国は、来る数世代のうちに予測される高齢者の急増に対応し、これらの人々にふさわしい生活水準を保証できるような均衡の取れた総合的開発を確保するために必要な部門が十分に揃わないまま、「高齢化」の時代を迎えようとしているのである。 1.一般的な政策勧告  31.上記を背景とした以下の簡潔な考察は、政策および具体的行動の検討に関する指針となりうる。 (a)社会の段階的高齢化、すなわち絶対的・相対的な高齢者人口の継続的増大は、予期されない予測不可能な事象でもなければ、国内および国際の開発努力の偶発的結果でもない。それは何よりも、全世界で社会・経済開発に対して部門別アプローチを取った場合に最初に生まれるもっとも顕著な結果であり、均衡の取れた成長と総合的開発を確保するためには、その他の分野において同様に効率的な介入を伴うべきものである。 (b)コミュニティーの全般的な高齢化を減速させるという長期的観点から、各国政府は、高齢者の生命に対する権利を保全しながら、世代間の不均衡を調整あるいは回避するために必要な措置を講じることが可能であろう。 (c)世界中で全般的に生じている個人の寿命の伸びに伴い、こうした追加的時間を目的意識と達成感によって満たすための努力を払い、一定の年齢に達した人々が社会の片隅の消極的な立場に追いやられないようにするために、こうした政策と行動は、量的プロセスにさらに質的な内容と意味を与えるという決意から着想を得るべきである。 (d)老年への移行は緩やかな個人的プロセスである。一部の国々や文化において定年が法律で定められていたとしても、すべての政策およびプログラムは、高齢化が個人のライフサイクル、キャリアおよび経験の自然な段階であり、通常は、生涯全体を通じて、同じニーズ、能力および潜在的可能性が存在するという事実に基づいて策定されるべきである。 (e)ほとんどの人々は定年後も長い間生き続けると予測できるため、「老後の備え」という概念は、定年間際になってからの適応という観点から考えられるべきではなく、将来の恩典を考える個人にとっても、政策立案者、大学、学校、産業労働拠点、メディアおよび社会全体にとっても、成年期以降の生涯を通じた考え方として提案されるべきである。それは、高齢化と高齢者に関する政策が社会全体の重要な課題であり、少数の弱者に手を差し伸べるという問題に止まらないことを想起させる役割を果たすべきである。この意味で、全般的な予防政策が必要となる。 (f)より健康で活動的な高齢者の増加という挑戦に対応するための政策は、―社会の高齢化が活用されるべきものであるという見解に基づき―個々の高齢者に物質的およびその他の恩典を自動的に与えるものである。同様に、高齢者の生活を質的に改善し、その多様な社会的・文化的ニーズを充足しようとする努力は、高齢者が社会と関わり続ける能力を拡大する。この意味で、高齢化問題の開発面と人道面は密接に絡み合っている。 (g)高齢化問題を考える際に、高齢者の状況を全般的な社会・経済状況と切り離して考えてはならない。高齢者は、他の人々と不可分の一体をなすものとして捉えるべきである。また、高齢者は女性、青少年、障害者および移民労働者などと同様、人口集団の枠組においても捉えられるべきである。高齢者は該当する社会のあらゆるレベルにおいて、開発プロセスの重要かつ必要な要素として考えられなければならない。 (h)60歳以上の人口が増えるよりもはるか前に、高齢化は労働年齢人口において明らかになる。労働政策全体、および、科学技術と経済機構をこの状況に適応させることが不可欠である。 (i)こうした考慮とともに、高齢者一般、特に一定年齢以上の人々(「後期高齢者」)について、その特定的なニーズと制約に対応した政策の検討とプログラムの実施を行わなければならないことを認識すべきである。健康と栄養、住宅、所得保障および社会・文化・余暇活動などの分野における部門別施策は、その他の人口集団と同様、高齢者にとっても必要であり、それぞれの国あるいはコミュニティーは、利用できる手段に応じて、これを行うべきである。こうした施策を提供できる程度およびその時期は、そのときの経済状況の影響を受けることが認識されている。 (j)高齢者に恩典をもたらすことをねらいとした政策と行動は、高齢者の自己実現のニーズを充足するものとしなければならない。この自己実現とは幅広い意味で、個人的な目標の成就および潜在的可能性の実現を通じて得られる満足である、と定義することができる。重要なのは、高齢者を対象とする政策およびプログラムが、高齢者自身にとって魅力的で、かつ、家族とコミュニティーに役立つようなさまざまな役割において、自己表現の機会を推進するものとなることである。高齢者が個人的な満足を得られる主な方法としては、家族・親族制度への継続的参加、コミュニティーに対するボランティア活動、正規・非正規の学習を通じた継続的成長、芸術・工芸による自己表現、コミュニティー組織および高齢者組織への参加、宗教活動、レクリエーションと旅行、パートの仕事、ならびに、見聞の広い市民としての政治過程への参加があげられる。  32.すべての国々が検討すべき優先課題の一つは、高齢者のための甚大な人道的努力が、相対的に消極的かつ刹那的な人々を引き続き増大させることにならないようにするためには、どうしたらよいかということである。今日の高齢化問題が保護とケアを提供することに止まらず、高齢者の関与と参加の問題でもあることを認識するためには、政策立案者や研究者はもとより、マスメディアや一般市民にも、発想の大転換が必要となろう。最終的に、高齢化に関するプラスの積極的で開発志向の発想への転換は、高齢者自身により、まさにその数と影響力の増大を通じてもたらされて然るべきである。高齢者であるという集団的な意識は、社会的統一をもたらす理念として、プラスの要因となりうるものである。精神的な福祉は物理的な福祉と同じく重要であることから、高齢者の精神的福祉を支援・強化するために、あらゆる政策、プログラムおよび活動を開発すべきである。各国政府は、宗教的慣習と表現の自由を保証すべきである。 2.高齢化の開発への影響  33.人口構成の継続的高齢化が、今世紀最後の数十年間、さらに21世紀にかけて、国際的および国内的計画作業における大きな課題の一つとなることは間違いない。社会における高齢者の置かれた地位および苦境に関する上記の一般的考察、ならびに、高齢者のニーズと潜在的可能性の再検討に加え、高齢化が全世界の社会の構造、機能および一層の開発に対してもたらすことになる巨大で多面的な影響にも注意を向けるべきである。このような状況においては、現在、開発途上国の家族が果たしている機能の一部を担うべく、公共および民間セクターの役割を増大させることも必要となるであろう。  34.まず第1に、高齢化は、絶対数においても、社会における高齢者の割合においても、必然的に、経済的な現役人口の構造と構成を変化させることになる。もっとも基本的な現象として、社会の中で経済的に活動できる雇用人口と、これらの人々によって提供される物質的資源にその生存を依存する人々との割合が悪化する。社会保障制度が確立された国々は、自国の経済力に依存しながら、急増する高齢者のための所得に基づく延払いの退職給付の累積負担、ならびに、子どもの扶養および若者向けの訓練と教育の費用を支えていくことになる。  35.依存比率(相対的に若く、経済的に活動し、所得を得ている人々に物質的安全を依存する高齢者の割合を示す)は、社会構造、伝統あるいは正規の社会保障制度の内容に関係なく、世界のあらゆる国の開発に確実に影響を及ぼす。伝統的に、高齢者が親類あるいは地域社会のケアと保護を受けてきた国と地域においては、社会的な性質の問題が生じる可能性が高い。扶養対象となる高齢者が増大すると同時に、大家族などの伝統的なケア提供の機構が世界の多くの地域で急激な変革を遂げつつある中で、これらの関係を維持していくことはますます困難となりうる。  36.上記のとおり、多くの国々における全体的依存比率は最終的に、失業者の減少、および、出生率低下による被扶養者の子どもと若者の減少により、現在に近いレベルに維持できる可能性がある。しかし、生産活動と公的生活に直接に参加しない人口集団の物質的およびその他のニーズを充足することが比較的急務であるとする考え方に関連し、政治的・心理的な問題が残っている。将来に対する投資の一形態としての価値からすれば、若い世代を対象とした事業の費用は、容易に受け入れやすい。対照的に、高齢者のための費用は、特に個人の貯蓄あるいは賃金関連の恩典に直接的に結びついていない場合、受け入れることがより難しい。すでに逼迫した国家財政に大きな負担をもたらすとなれば、なおさらである。  37.生産性の低い開発途上国の自耕自給農業地域をはじめとする農村部では、より若くて活動的な年齢層が賃金雇用を求めて都市部へと流出していることにより、すでに打撃を受けている。これらの農村部では、依存比率の悪化により、稼得能力の低下した高齢者に対し最小限の物質的保障を行うという問題が、もっとも先鋭化することになる。この傾向は当然に、取り残された高齢者の将来をさらに不透明にするばかりでなく、一層の窮乏という悪循環により、農村部に残った農民を対象とした農業およびサービスへの公共投資を刺激する可能性を低めるものである。  38.ある程度において、この現象は、都市および工業地域で賃金雇用を得た若い人々からの仕送りによって、部分的に相殺、あるいは、少なくとも軽減されるものと考えうる。多くの場合、こうした仕送りは、家族の扶養のためばかりではなく、その生産性に関わらず、将来の投資のために貯蓄をしようとする努力を指し示すものである。当面のところは、この現象が過疎化の影響を緩和し、残された高齢者および不活動者に一定レベルの物質的保障を提供する助けとなるかもしれない。しかし、これによって、農村部あるいは故国からの若く活動的な人々の移住に対し、長期的で信頼できる補償が確保できるとは考えにくい。特に、移住者の故国への帰還を考慮すれば、農村部で支配的な社会・経済条件の改善に向けた集中的な努力が不可欠である。  39.農村開発は、世界の大部分における全体的な高齢化問題を解決する鍵として考えるべきである。同様に、農村開発は、農業経済を基幹とする諸国における均衡の取れた総合的な国家発展への鍵も握っている。ある程度において、農村部における生産と生産性を向上させ、投資を刺激し、必要なインフラを整備し、適切な技術を導入し、基本的サービスを提供するための政策は、その他のより工業化の進んだ国における現行の一般化された社会保障制度を強化できる可能性がある。  40.開発途上地域でも人々の寿命がゆっくりと延びていることは、国民経済にとって隠れた資源であり、適切な刺激と活用がなされれば、若年層の流出を相殺し、実質依存比率を低下させるとともに、開発の受動的で脆弱な犠牲者としてではなく、国民生活と生産への積極的な参加者として、農村部高齢者の地位を確立するための一助となりうる。  41.若者の外国への移住を相殺するために望ましい措置として、移民労働者に対する給付の支給形態に拘らず、送金に対する優遇措置を含めた、年金への加入資格という点での社会給付の継続性改善があげられる。この措置は公平であるばかりでなく、母国の経済開発の促進とも整合性を有することになる。そのためには、2国間および多国間の社会保障協定を開発しなければならない。こうした努力に伴い、特に帰国者向け住宅の提供という点で、その他の措置を講じるべきである。高齢の移住者はその他の高齢者と同じニーズを有しているものの、移住者であるという立場から、追加的な経済的、社会的、文化的および精神的なニーズが生じる。加えて、より若い移住者を支援する上で、年長の移住者が果たしうる役割を認識することが重要である。  42.義務的な退職年齢の違いに応じて社会保障制度が十分に開発されている国では、全体的な高齢化が今後とも、労働力の構成に影響を与える最大の構造的要因の一つとなる。この現象は、高齢者に対する影響という点のみから捉えるべきではない。退職に関する政策は、その規模、および、現役労働力に影響するその他の部門およびプロセスとの密接な相互関係により、別の現象として切り離して取り扱うことはできない。さまざまな国々にとって、もっとも際立っているのは、退職制度と失業問題(特に就職を控えた若者の失業問題)との関係である。  43.この関係については、すでに多くの議論がなされており、これに対処するため、政府によるさまざまな施策が検討あるいは実施されている。若者に就職機会を与えるため、退職年齢を引き下げるという政策は、一見して賢明なように思われても、ある社会問題を短期的かつ部分的に解決するために、おそらくより長期的な別の問題を作り出すような政策に他ならない。労働力人口構成の両端において、より革新的な施策を検討すべきである。  44.他方、退職年齢に近づいている人々の間で個人的な関心や嗜好が多様化しているが、このことは、過度の行政面あるいは組織面での変革を伴わずに、高齢者一人ひとりに応じた柔軟性のある退職制度において考慮の対象となるであろう。退職希望者については、年金給付額を引き下げた上でさまざまな自発的早期退職年齢を設定する一方で、仕事が主たる目標、あるいは、場合により主たる生活理由となっている高齢者については、雇用期間を引き伸ばすことができよう。特に上級の技術および行政レベルですでに用いられているパート、臨時雇いあるいは顧問役などその他の取極めは、より多くの労働者に拡大できよう。この措置を実施するためには、訓練および再訓練、ならびに、新たな技能開発のための施策を講じるべきである。  45.女性は平均寿命が長く、そのため、その老後は経済的な必要性や孤立によってさらに苦しくなり、賃金雇用の見通しもほとんどあるいはまったく持てない。その意味で、若者と高齢者の雇用および所得ニーズの相互関係は、特に女性に対して厳しい問題を提起する。  46.積立式の退職給付に基づく社会保障制度が存在する国では、退職者の増加と寿命の伸びが、国民経済資源の倹約の重要な側面として浮上しつつあり、国民資産の大部分をいわゆる非生産目的のために徐々に凍結することとの関連で引き合いに出されることもある。その一方で、退職基金の蓄積は、通常であれば変動の大きい経済システムに対して有益となりうる、大規模な長期的・保守的運用資金源を提供するという意味において、国民経済の安定化要因となる可能性があるということも、おそらく認識されよう。このようなシステムにおいては、支給される年金の購買力をできる限り維持すべきである。  47.同様に、退職基金からの年金給付のほとんどは、退職者個人の繰延所得に当たる。また、長期的で不透明な投資よりも、当面の物質的ニーズを優先するという年金の自然な使い方は、経済の維持を個人の支出と消費に大きく依存している社会において、刺激を与える要素となりうる。  48.正式な退職給付制度がまだ存在しない国では、社会の高齢化は当面のところ、経済に対して大きなマイナスの意味合いを持っており、この負担を社会全体にとっての潜在的恩典に変えるための真剣で広範な努力が行われない限り、同じ状況が継続する可能性が高い。伝統的な保護の構造が解体しつつある地域においては、老後を迎えつつある人々の将来に備えるために、物質的な開発と社会福祉を促進しようとする政府のイニシアチブと、こうしたイニシアチブを存続させるための国際的行動を、共同で実施することができよう。 3.高齢者の関心分野  49.高齢化のあらゆる側面が相互に関連しているという認識は、この問題に関する政策と研究に対する協調的アプローチの必要性を示唆している。高齢化のプロセス全体、および、その社会・経済状況との相互作用を考える際には、全般的な経済・社会計画の枠組みにおける総合的なアプローチが必要である。特定部門の問題を不当に強調すれば、高齢化に関する政策とプログラムのより幅広い開発枠組みへの統合に対する深刻な障害となろう。下記の勧告は幅広い項目に分けられているが、その間には大きな相互依存関係があることを認識すべきである。  50.の相互依存関係を認識する枠組において、時機尚早の高齢化の悪影響に対する予防努力の調整に、特別な注意を向けることができよう。時機尚早の高齢化が個人に及ぼす悪影響は、以下により、出生時から回避することができよう。 ・加齢に応じて生じる変化に対する認識を高めるための、特に若者を対象とした教育活動 ・健康的な一般的ライフスタイル ・労働時間と労働条件への適切な対応 ・さまざまな種類の活動に各個人の時間と責任を分散させることにより、加齢に応じて異なる仕事を経験し、余暇、訓練および労働の時間のバランスを最大限図ること ・人間の労働に対する恒常的適応、および、さらに重要なこととして、労働の人間に対する恒常的適応、ならびに、各個人、家族状況および技術的・経済的発展の変化に応じた労働の種類の変更。この分野においては、職業病医学と生涯教育が不可欠な役割を果たすべきである  51.決議1981/62により、経済社会理事会は事務総長に対し、消費者保護に関する一連の一般的指針を策定するよう要請した。さらに、国連食糧農業機関は「食糧の国際取引に関する倫理規範」を採択したほか、世界保健機関は子どもの健康を保護するため「母乳代替品のマーケティングに関する国際規範」を制定した。高齢者の健康、安全および福祉は「高齢化に関する世界会議」の目標であるため、高齢消費者の保護を行うべきである。 (a)健康と栄養  52.全世界における高齢者人口の急増は、人類にとっての生物学的成功を物語るが、ほとんどの国では、高齢者の生活水準が概して、経済活動を行っている人々に比べて劣っている。しかし、健康、すなわち身体的、精神的および社会的福祉の総合的状態は、開発に寄与するあらゆる部門の相互作用の結果である。  53.疫病学的調査によれば、連続的に同一年齢に達する高齢者集団の健康状態は徐々に改善しているため、男女の寿命が延びる中で、重度の障害者は、死亡直前の狭い年齢層に集中していくものと見られる。 勧告1  障害者のハンディを軽減し、残された機能の再教育を行い、痛みを和らげ、障害者の平静、くつろぎおよび尊厳を維持するとともに、新たな希望と計画の方向づけを助けるためのケアは、特に高齢者の場合、治療と同様に重要である。 勧告2  高齢者のケアは、単に病気への対処に止まらず、身体的、心理的、社会的、精神的および環境的要因の相互関係を考慮した上で、その総合的福祉を図るものとすべきである。したがって、医療には保健・社会セクターと家族を関与させ、高齢者の生活の質的向上を図るべきである。戦略としてのプライマリー・ヘルスケアをはじめ、健康増進努力は、社会のあらゆる活動から排除・疎外されずに、高齢者が自らの家族とコミュニティーの中で、できるだけ長く自立した生活を送れるようにすることを主眼とすべきである。  54.年を取る毎に、病気の回数が多くなることは間違いない。さらに、その生活条件から、高齢者は、自らの健康に悪影響をもたらすかもしれないリスク要因(社会的孤立や事故など)にさらされる可能性が高くなるが、こうした要因は大きく変えることが可能である。研究や実際の経験から明らかになっているところによれば、高齢者の健康維持は可能であり、病気が高齢化の本質的要素となる必然性はない。 勧告3  高齢者の障害と病気を減らすためには、早期の診断と適切な治療に加え、予防措置が必要である。 勧告4  後期高齢者および日常生活に支障をきたしている高齢者に対する医療の提供には、特別の注意を払うべきである。これらの人々が精神障害あるいは環境への不適応を起こしている場合、これは特に当てはまる。精神障害は、家族とボランティアに対する専門的労働者による訓練と支援、巡回精神保健相談の促進、福祉作業、デイケアおよび社会的孤立の防止をねらいとした措置など、患者の施設収容を必要としない手段によって、予防あるいは改善できることが多い。  55.それでも、高齢者の一部、特に後期老年は社会的弱者となり続けるであろう。これらの人々は特に、動ける範囲が非常に限られている可能性が高いため、自宅やコミュニティーの近くに所在する施設からのプライマリー・ヘルスケアの提供を必要としている。プライマリー・ヘルスケアの理念には、高齢者介護の簡単な技術の訓練を受けたコミュニティーの保健担当官の援助を受けた、既存の保健・社会サービス職員の活用が組み込まれている。  56.早期の診断と治療は、高齢者の精神病の防止にもっとも重要である。精神保健上の問題を抱えているか、そのリスクが高い高齢者を援助するために、特別な努力を行う必要がある。  57.病院でのケアが必要な場合、老人医療の技術の応用により、患者の全体的な状況を評価することが可能であるほか、学際的チームの作業を通じて、早期のコミュニティーへの復帰と、そこで必要となる継続的ケアの提供を念頭に置いた治療とリハビリのプログラムを考案することができる。何らかの集中治療を必要とするすべての患者については、恒久的な障害と早死ににつながる合併症および機能不全を防ぐ観点から、適切な時期にこれを受けさせるべきである。 勧告5  不治の病に冒された人々の細心のケア、これらの人々との対話、および、死亡時とその後における近親者に対する支援は、通常の医療を超えた特別な努力を必要とする。保健実務者は、こうしたケアの提供に努めるべきである。こうした特別な努力の必要性は、医療提供者、不治の病に冒された人々の家族、および、不治の病の人々自身によって周知・理解されなければならない。これらに留意しながら、多くの文化において得られた関連する経験と実務に関する情報の交換を奨励すべきである。  58.高齢者に対する医療提供機関と家族の役割については、家族と地 元コミュニティーがバランスの取れたケア・システムの要素であるという認識 に基づき、両者の適切な均衡を図ることが必要である。  59.既存の高齢者向け社会サービスや医療システムは、ますます高価になっている。「アルマアタ宣言」の精神に基づき、この傾向を停止・逆転させ、プライマリー・ヘルスケア・サービスとともに社会制度を発展させる手段を検討する必要がある。 勧告6  社会サービスおよび医療システムのコスト増大傾向は、国家、コミュニティー双方のレベルにおいて、社会福祉と医療サービスの調整を緊密化することによって相殺すべきである。例えば、この2つのセクターで働く職員の間の協力を拡大し、これに学際的訓練を施す措置を講じる必要がある。しかし、家族とコミュニティーはバランスの取れたケア・システムの鍵を握る相互連関的要素となり続けるべきであり、こうしたシステムは、その役割を考慮して開発すべきである。こうした作業はすべて、高齢者の医療と社会的ケアの水準を損なうことなく実施しなければならない。  60.高齢者にもっとも直接的なケアを提供する人々が、ほとんど、あるいは十分に訓練を受けていない場合が多い。セルフケア、健康増進、病気と障害の予防を通じ、高齢者の福祉と自立を維持するためには、高齢者自身はもとより、その家族、および、地元コミュニティーの保健・社会福祉活動員のそれぞれが新しい方向性と技能をもつことが必要となる。 勧告7 (a) すべての人々が、ケアを必要とする高齢者への対処に関する情報を受けるべきである。高齢者自身も、セルフケアの教育を受けるべきである。 (b) 家庭あるいは機関で高齢者の世話をする人々は、高齢者とその家族の参加、および、さまざまなレベルにおける保健・福祉分野の活動員の協力に特に重点を置く基本的な作業訓練を受けるべきである。 (c) 開業医および人間のケアに関する職業(医療、看護、社会福祉など)を学ぶ学生は、長寿学、老人病医学、高齢者心理学および高齢者介護の関連分野における原理と技能の訓練を受けるべきである。  61.多くの場合、高齢者は承諾が必要な人々と見なされない。高齢者に影響する決定はしばしば、高齢者自身の参加なしに下される。これは特に、後期高齢者、虚弱者あるいは障害者について当てはまる。このような人々には、自らが受けるアメニティーとケアの種類について選択権を与える柔軟なケア・システムを以って対処すべきである。 勧告8  何が必要で何をすべきかは通常、高齢者自身が最もよく知っているので、高齢者の生活管理は、保健、社会サービスおよびその他のケア担当者の手だけに委ねるべきではない。 勧告9  医療の開発および保健サービスの機能について、高齢者の参加を奨励すべきである。  62.高齢者のケアの根本的原則は、高齢者ができるだけ長くコミュニティーで自立した生活を送れるようにすることとすべきである。 勧告10  保健および保健関連サービスは、コミュニティーのなかで最大限の充実をはかるべきである。これらサービスには、デイケア・センター、外来診療所、外来病院、医療・介護および在宅サービスなど、幅広い巡回サービスを含めるべきである。救急医療サービスを常時提供可能とすべきである。医療機関でのケアは常に、高齢者のニーズに沿ったものとすべきである。医療施設における病床の不適切な使用は避けるべきであり、特に、精神病患者でない者を精神病院に収容すべきでない。健康診断・相談は、老人病診療所、近隣の保健所あるいは高齢者が集まるコミュニティー施設を通じて提供すべきである。必要な保健インフラと、老人病の総合的で十分なケアを提供する専門職員を利用できるようにすべきである。医療機関でのケアの場合、とりわけ、家族とボランティアの関与をさらに奨励し、高齢者の隔離による社会的疎外を回避すべきである。  63.先進国、途上国を問わず、貧しく恵まれない高齢者は、栄養の量的不足やその不適切な成分などの問題に直面している。高齢者にとっては、偶発的な事故も重大なリスクである。これらの問題を軽減するためには、多角的アプローチが必要とされるであろう。 勧告11  高齢者の健康増進、疾病予防および機能能力の維持は、積極的に追求すべきである。これについては、高齢者の身体的、心理的および社会的ニーズの評価が必要前提条件となる。このような評価を行えば、障害予防、早期の診断およびリハビリが強化されよう。 勧告12  十分かつ適切な栄養、特に蛋白質、ミネラルおよびビタミンの十分な摂取は、高齢者の福祉に不可欠である。栄養不良は貧困、孤立、食糧流通の問題、および、歯の病気などを原因とする劣悪な食習慣により一層悪化するため、以下について、特別の注意を払うべきである。 (a) 適切なスキーム、および、農村部高齢者の食糧生産における積極的な役割の奨励を通じた、高齢者にとっての十分な食糧の入手可能性の改善 (b) 食糧、富、資源および技術の公正かつ公平な分配 (c) 都市部、農村部双方における、高齢者を含む一般の人々を対象とした正しい栄養と食習慣に関する教育 (d) 栄養不良の早期発見と咀嚼の改善を目的とした保健および歯科医療サービスの提供 (e) 局地的に不満足な状況があれば、これを是正するための措置を含めた、コミュニティー・レベルでの高齢者の栄養状態調査 (f) 高齢化の過程における栄養素の役割に関する調査の開発途上国への拡大 勧告13  良質の保健・社会サービスを必要なだけ提供するための在宅ケア開発を一層進めるよう努力することにより、高齢者が地元のコミュニティーに留まり、できるだけ長い間、自立した生活を送れるようにすべきである。在宅ケアは施設でのケアに代わるものと捉えるべきではない。この2つは相互補完的な存在であり、高齢者がそのニーズに応じた最善のケアを最少の費用で受けられるようなサービス提供システムへ統合すべきである。在宅ケア・サービスについては、入院の必要性を制限するために必要な基準を満たす十分な医療、準医療、看護、技術的施設を提供することにより、特別な支援を行うべきである。 勧告14  高齢化の機能的悪影響を防止、あるいは少なくとも延期する可能性については、極めて重要な問題が存在する。多くの生活習慣要因は通常、予備能力が低下する老年期に、もっとも大きな影響を及ぼす可能性がある。 高齢者の健康は根本的に、それまでの健康状態によって条件付けられるため、若いときから生涯を通じた健康管理を行うことが極めて重要である。その中には、予防的な保健、栄養、運動、健康に害を及ぼす習慣の回避および環境要因に対する注意が含まれる。こうしたケアは継続すべきである。 勧告15  放射性・微量元素およびその他の汚染物質を含む有害物質蓄積の健康に対する危険は、寿命が延びるにつれて増大するため、生涯を通じた特別の注意と検査の対象とすべきである。各国政府は、有害物質の使用中の安全な取扱いを促進し、その使用によって発生する廃棄物が恒久的かつ安全に人間の生活圏から排除されることを確保すべく、迅速な措置を講じるべきである。 勧告16  回避できる事故は、人間の苦痛という点でも、資源という点でも、潜在的に大きなコストを伴うことから、家庭および路上での事故、ならびに、治療可能な医学的条件あるいは不適切な投薬によって引き起こされる事故を防止する措置を優先的課題とすべきである。 勧告17  各地の健康および病気のパターンとその帰結に関する疫学的研究を実施し、セルフケアおよび介護人による在宅ケアを含むさまざまなケア提供システム、特にプログラムの効果の最適化を図る方法について、有効性の調査を行い、さまざまな種類のケアに対する需要の調査と、目標の達成と相対的費用効果に関する比較研究に特別な注意を払いながら、これを充足する手段の開発を行うとともに、将来の行動に向けた健全な基盤を作るため、農村部および僻地におけるサービスへのアクセスに関する特殊な問題に対する注意を含め、さまざまな社会的・文化的文脈における個々の高齢者の身体的、精神的および社会的特徴に関するデータを収集する上で、国際的な交流と研究協力を促進すべきである。 (b)高齢消費者の保護  勧告18  政府は、以下を行うべきである。 (a) 食糧、ならびに、家庭用の製品、設備および機器が、高齢者の脆弱性を考慮した安全基準を満たすようにすること。 (b) 製造者に対し、必要な警告と使用法の表示を義務づけ、医薬品、家庭用化学品およびその他製品の安全な使用を奨励すること。 (c) 高齢者が医薬品、補聴器、義歯、メガネおよびその他の補助機器を入手できるようにし、その活動と自立性の延長を可能にすること。 (d) 主として高齢者の少ない資金をねらいとする集中的な販売促進およびその他のマーケティング技術を制限すること。政府機関は消費者教育プログラムに関し、非政府組織と協力すべきである。関係国際機関は、その加盟国による高齢消費者保護の集団的努力を促進することが求められる。 (c) 住宅と環境  64.十分な住居と快適な物理環境は、あらゆる人々の福祉にとって必要である。また住宅はあらゆる国のすべての年齢層の生活の質に大きな影響力を及ぼすことが、一般的に認められている。住まいがあらゆる活動の中心となる高齢者にとって、適切な住宅はさらに重要である。家庭への適応、日常生活に対する実用的な家庭内補助の提供、および、適切な設計の家庭用機器は、移動が不自由であったり、その他の障害を有する高齢者が自宅に住み続けることを容易にすることができる。  65.高齢者は輸送と交通において、さまざまな問題に直面する。特に、高齢の歩行者は、客観的あるいは主観的に感じられる危険に対処しなければならず、その移動性と社会参加の希望が制限されている。交通環境を高齢者に適応させるべきで、その逆の適応を図ってはならない。そのための措置および施設としては、交通教育、特に住宅地での速度制限、安全に通行できる環境、座席・寝台設備および輸送手段などがあげられる。 勧告19  高齢者のための住宅は、単なる居所以上のものとして捉えなければならない。高齢者にとって住宅は、物理的な側面に加え、心理的・社会的な側面でも重要な意味を持つことを考慮に入れるべきである。高齢者を他者への依存から解放するために、各国の住宅政策は、以下の目標を追求すべきである。 (a) 住居の復旧・開発、実行可能な場合には適宜その改修、ならびに、高齢者の出入りおよび設備使用能力に対するその適応を図りながら、高齢者ができるだけ長い間、自宅に住み続けるのを助けること。 (b) 公的資金の提供および民間セクターとの合意も含めた住宅政策の一環として、地元の伝統および慣習に従い、高齢者自身の地位および自立の程度に適したさまざまな種類の高齢者用住宅を企画・導入すること。 (c) 関係者、コミュニティー・サービス(社会、保健、文化、余暇、通信)などと住宅政策の調整を図ることにより、国民全般に対する住居提供に比べ、特に高齢者に対する住居提供の優遇を確保すること。 (d) 高齢者が動き回ることを可能にし、交通の危険から高齢者を守るため、特別な政策と措置を開発・適用するとともに、そのような手はずを整えること。 (e) こうした政策は、国民のもっとも恵まれない人々を対象とした幅広い支援政策の一環とすべきである。 勧告20  都市の再建と開発に関する計画と法律は、高齢者の問題に特別な注意を払い、その社会的統合の確保を助けるものとすべきである。 勧告21  各国政府は、高齢者と社会的に恵まれない人々のニーズを考慮した住宅政策を採 用するよう、奨励されるべきである。高齢者と社会的に恵まれない人々の機能的能力を支援するための生活環境は、各国の人間居住政策および行動に関する国内指針と不可分の一体をなすべきである。 勧告22  環境問題、ならびに、高齢者の機能的能力を考慮し、十分な輸送手段の提供を通じて移動と通信を容易にするような生活環境の設計に、特別の注意を傾けるべきである。 政府、地方自治体および非政府組織からの支援を受け、高齢者が望めば、自らが馴染んだ場所で生活を続け、長期にわたるコミュニティーへの参加と、豊かで、正常で、安全な生活の機会を得られるような生活環境を設計すべきである。 勧告23  一部の国々において高齢者を対象とした犯罪が増加しているが、このことは、直接の関係者に被害を及ぼすばかりでなく、それにより高齢者が恐怖を感じ外出することを躊躇するようになるという意味で、多くの高齢者を犠牲者にしている。法執行機関と高齢者を対象として、高齢者に対する犯罪の程度と影響に対する認識を高める努力を行うべきである。 勧告24  可能であれば、高齢者は常に、自らを対象とした住宅政策とプログラムに関与すべきである。 (d)家族  66.家族は、その形態あるいは組織に関係なく、社会の基本的構成単位として認識されている。寿命の伸びに伴い、世界中で4世代、5世代型の家族が珍しくなくなっている。そうした中、女性の地位の変化は、家庭内における高齢者のケアという女性の伝統的な役割を軽減している。男性を含め、家族全員が家庭での家族による介助の負担を引き継ぎ、分担できるようにすることが必要である。女性の社会進出により、女性が労働力として留まる期間も長くなっている。子育ての役割を終えた多くの女性は、働いて所得を稼ぐ欲求および必要性と、年老いた両親あるいは祖父母の介護責任の間で板挟みになっている。 勧告25  家族は社会の基本的単位として認識されているため、各々の社会の文化的価値体系に沿ってこれを支援、保護および強化し、高齢者家族のニーズに対応できるようにすべきである。政府は、家族全員の参加の下35に、世代を超えた家族の連帯の維持を奨励する社会政策を推進すべきである。ひとつの社会構成単位としての家族の強化を図る上で、非政府組織の役割および貢献も、あらゆるレベルで強調すべきである。 勧告26  必要なときに必要な場所で、コミュニティーから幅広い適切な支援が得られれば、高齢の親族のケアを続ける家族の意思と能力を大きく高めることができる。サービスを計画・提供する際には、こうしたケアを担う人々のニーズを十分に考慮すべきである。  67.開発途上国では、高齢者が敬われていることを示す証拠が十分に存在する。しかし、工業化および都市化、ならびに、労働力の流動化の傾向により、家庭における高齢者の役割に関する伝統的な概念は、大きな変化を遂げつつある。世界的に見ても、高齢者の伝統的なケアと支援のニーズを充足する家族の責任は、全体として減少している。 勧告27  家族の死活的な役割と、高齢者の尊厳、地位および安全の継続を、この安全状態に影響を与えかねない国内的・国際的事象を考慮しながら、どのように確保していくかは、政府と非政府組織による慎重な考慮と行動を要する課題である。高齢者には女性が圧倒的に多いこと、および、全世界的に寡婦が寡夫よりも多いことを認識した上で、高齢者の特殊なニーズと役割を特に考慮すべきである。 勧告28  政府は、高齢者とその家族の特殊なニーズと特徴を認識するような計画と開発に対して、年齢・家族統合型アプローチを採用するよう促される。政治、社会、文化および教育などの分野において、高齢者は政府その他の意思決定過程に関与すべきである。また、子どもには両親を支援するよう奨励すべきである。 勧告29  政府および非政府組織には、家庭内に高齢者がいる家族全体を支援する社会サービスを確立し、高齢者を自宅に置くことを望む低所得世帯を特に対象とした措置を実施することを奨励すべきである。 (e)社会福祉  68.社会福祉サービスは、国内政策の手段となることが可能であり、高齢者の社会的機能の極大化をその目標とすべきである。社会サービスはコミュニティーを基盤とし、高齢者に幅広い予防、治療および開発サービスを提供することで、高齢者が自宅と地元のコミュニティーでできる限り自立した生活を送り、積極的で有用な市民であり続けることを可能にすべきである。  69.高齢の移民については、その民族的、文化的、言語的およびその他の特徴に応じた社会福祉サービスを提供するため、適切な措置を講じるべきである。 勧告30  社会福祉サービスは、高齢者のコミュニティーにおける、コミュニティーのための積極的で有用な役割の創造、推進および維持をその目標とすべきである。  70.資源が希少な多くの国々では、特に農村部において、組織的な社会福祉サービスが全般的に欠如している。こうしたサービスを提供する上で、政府の役割は支配的ではあるが、非政府組織の貢献も極めて重要である。  71.伝統的な社会において、高齢者は常に、尊敬、思慮、地位および権限に基づく特権的な立場を与えられてきた。しかし、近代化の動きの影響により、状況の変化が見られ、こうした特権的な立場にも、疑問が投げかけられるようになった。こうした変化を認識し、これに基づいて、一部の先進国が直面する高齢者問題のいくつかを回避できるような国内高齢化対策を策定するときが来たといえる。 勧告31  既存のフォーマルおよびインフォーマルな組織は、高齢者の特殊なニーズを考慮し、そのプログラムおよび将来計画にこれらを組み入れるべきである。この分野でのサービス提供において協同組合が果たすことのできる重要な役割を認識・奨励すべきである。このような協同組合はまた、正規のメンバーあるいはコンサルタントとして高齢者を迎えることで、恩典を得ることもできよう。高齢者の社会福祉ニーズ充足に対する包括的、総合的、協調的かつ多目的的アプローチを確保するため、政府と非政府組織の間にパートナーシップを構築すべきである。 勧告32  サービスとケアの提供、および、高齢者のための、高齢者との活動への参加という点で、若者の関与を奨励し、世代間の連帯促進を図るべきである。能力と行動力を備えた高齢者の間での相互的自助は、これらの人々がより恵まれない高齢者に提供できる援助、および、インフォーマルなパート労働への高齢者の参加とともに、できる限り促進すべきである。 勧告33  政府は、インフォーマルおよびボランティア活動に対する金銭的あるいはその他の制約を軽減あるいは解消すべきである。また政府は、パート労働、相互的自助、および、社会サービスの提供あるいは高齢者向け施設における専門スタッフと並ぶボランティアの活用を妨げているか、その意思を損ねている規制を廃止あるいは緩和するよう努めるべきである。 勧告34  高齢者にとって施設収容が必要あるいは不可避な場合は常に、その尊厳、信条、ニーズ、利益およびプライバシーを十分に尊重した上で、地元コミュニティーにおける通常の条件に対応する施設生活の質を保証するため、最大限の努力を行わなければならない。各国は、施設内でのケアの質的向上を確保する最低基準を定めるよう奨励されるべきである。 勧告35  高齢者の間での相互自助を促進し、その発言力を高めるため、政府および非政府組織は、高齢者の団体・運動の設立と自由な構想を奨励するとともに、その他の年齢層に対して、高齢者の支援に関する訓練機会と情報を与えるべきである。 (f)所得保障と雇用  72.先進国と途上国の間、特に工業化された都市経済と農業中心の農村経済の間には、所得保障と雇用に関連する政策目標の達成度に大きな差がある。多くの先進国は、一般化された社会保障制度を通じ、普遍的な保障を達成している。一方、生存ぎりぎりのレベルで生活する人々が大半を占めるか、そうでなくとも多数存在する開発途上国にとっては、所得保障がすべての年齢層にとっての関心事項である。これら開発途上国のうち一部の国々では、発足した社会保障プログラムの対象が制限される傾向にある。国民の大半が住む場合が多い農村部では、社会保障がほとんど、あるいは、まったく適用されていない。さらに、女性高齢者の所得は概して男性よりも低く、雇用も妊娠・出産や家庭内での責任によって中断していることが多いため、社会保障および社会プログラムにおいては、これらの人々の状況に特別な注意を払うべきである。長期的には、女性に対し、その能力に応じた社会保障を提供できるよう、政策の方向づけを行うべきである。 勧告36  政府は、すべての高齢者に対して適切な最低所得を保障するための適切な行動をとり、国民全体に利益が及ぶような経済開発を図るべきである。このために、政府は以下を行うべきである。 (a) 高齢者全体を対象とすることを原則に、社会保障制度を創設あるいは開発すること。これが実行不可能な場合、給付の現物支給、あるいは、家族や地元の協同組合型施設に対する直接的援助など、その他のアプローチを試みるべきである。 (b) 最低給付額を、高齢者に不可欠なニーズを充足し、その自立を保証するのに十分なものとすること。社会保障給付が以前の所得を考慮して算定されるか否かに関係なく、その購買力を維持する努力を行うべきである。高齢者の貯蓄をインフレの影響から守る方法を模索すべきである。年金支給年齢を決定する際には、退職年齢、国内の人口構成の変化、および、国民経済の能力に適正な考慮を払うべきである。同時に、継続的な経済成長を達成する努力も行うべきである。 (c) 社会保障制度においては、男性だけでなく、女性も受給権を取得できるようにすること。 (d) 社会保障制度内で、また、必要であればその他の手段により、高齢失業者あるいは労働能力がない高齢者の特殊な所得保障ニーズに対応すること。 (e) その他、追加的な退職給付と、高齢者向けの新しい個人貯蓄の手段を開発するインセンティブを提供できる可能性を追求すべきである。  73.所得保障の問題と幅広く関連するものとして、労働の権利と退職の権利という表裏一体の問題が存在する。世界のほとんどの地域において、高齢者は、コミュニティーの生活に貢献し、社会全体に恩恵をもたらしたいと欲し、そうしたニーズを満足させるような労働と経済活動に参加すべく努力しているが、そのなかで困難に直面している。年齢による差別は広範に行われており、高齢労働者の多くは年齢差別により、労働の継続や再就職ができなくなっている。いくつかの国では、こうした状況により女性が一層深刻な影響を受ける傾向がある。高齢者の開発機構への統合は、都市住民と農村住民の両方に影響を与える。 勧告37  政府は、社会の経済活動への高齢者の参加を促進すべきである。この関連で、 (a) 雇用者および労働者の団体と協力し、できる限り、高齢労働者が満足できる条件の下で働き続け、雇用の保障を享受できるようにするため、適切な措置を講じるべきである。 (b) 政府は労働市場での差別を解消し、職業上の処遇の平等を確保すべきである。一部の雇用主は、高齢労働者にマイナスのイメージを持っている。高齢労働者はほとんどの職業について、かなり高い能力を備えていることから、政府はその能力に関し、雇用主と職業相談員を教育する措置を講じるべきである。高齢労働者はまた、就職指導、訓練および職業紹介の施設およびサービスに対し、平等なアクセスを与えられるべきである。 (c) 新たな雇用の可能性を創出し、訓練あるいは再訓練をしやすくすることにより、高齢者が自立できる雇用を見つけたり、これに戻ったりする援助を行う措置を講じるべきである。高齢労働者が就職する権利は、年齢ではなく、労働能力に基づくものとすべきである。 (d) 特に若者に関し、多くの国が深刻な失業問題に直面しているものの、自発的な場合を除き、被雇用者の定年を引き下げるべきではない。 勧告38  高齢労働者は、他のすべての労働者と同じく、満足できる労働条件と労働環境を享受すべきである。必要に応じ、労働災害および職業病を予防する措置を講じるべきである。労働条件と労働環境、および、労働の計画と組織については、高齢労働者の特徴を考慮すべきである。 勧告39  労働者の適切な保護は、高齢者のためのフォローアップを可能にするものであるが、これは職業病の知識の改善を通じて実現できる。そのためには、医療スタッフに職業病医学に関する訓練を施すことが不可欠である。同様に、退職前の健康診断を行えば、該当する個人に対する職業病の影響を発見し、適切な措置を講じることが可能になろう。 勧告40  政府は、現役の労働生活から退職へのスムーズで段階的な移行を確保する措置を講じるか、これを奨励するとともに、年金支給開始年齢を柔軟化すべきである。このような措置としては、退職前の研修、ならびに、労働条件と組織の労働環境の修正、および、労働時間の段階的削減の促進などによる、退職前の数年間にわたる労働量の軽減があげられよう。 勧告41  政府は、国際労働機関勧告162に体現されたものをはじめ、国際的に採択された高齢労働者に関する基準を適用すべきである。加えて、国際レベルでは、これら労働者の特殊なニーズに関するアプローチおよびガイドラインの開発を継続すべきである。 勧告42  社会保障権の維持に関するILO条約157号に鑑み、特に2国間あるいは多国間条約を通じ、合法的移民労働者に対して、受入国における完全な社会保障の適用、および、母国へ帰国する際の年金をはじめとする既得社会保障権の維持を保証する措置を講じるべきである。同様に、帰国する移民労働者に対しては、帰国後の再統合を促進するために、特に住居に関して特別な条件が認められるべきである。 勧告43  ある国が受け入れる難民の中には、成人や子どもだけでなく、できる限り、高齢者も含めるべきであり、家族を離れ離れにせず、適切な住宅とサービスの提供を確保する努力を行うべきである。 (g) 教育  74.20世紀の科学技術革命は、知識と情報の「爆発」をもたらした。こうした革命の継続的・拡張的性格はまた、社会変革を加速させている。世界の社会の多くでは、高齢者が依然として、情報、知識、伝統および精神的価値の伝達者となっているが、この重要な伝統は失われるべきでない。 勧告44  高齢者を知識、文化および精神的価値の教師および伝達者とする教育プログラムを開発すべきである。  75.多くの場合、知識の爆発は情報の陳腐化をもたらし、それによって社会的陳腐化の意味合いも生まれている。こうした変化は、生涯を通じた教育ニーズに対応するため、社会の教育構造を拡大しなければならないことを示唆している。教育に対してこのようなアプローチをとるとすれば、高齢化への準備と時間の創造的な使い方を含め、継続的な成人教育が必要となろう。加えて、その他の年齢層と同じく、高齢者に対しても、基本的な識字教育、および、コミュ二ティーで利用できるすべての教育施設へのアクセスを確保することが重要である。 勧告45  基本的人権として、教育は高齢者にとっても、差別なく利用できるものとしなければならない。適切な資源の配分を通じ、また、相応しい教育プログラムにおいて、教育政策には、高齢者の教育に対する権利の原則を反映させるべきである。高齢者の能力に教育方法を適応させることにより、提供される教育に高齢者が公平に参加し、その恩恵を受けられるよう、配慮を行うべきである。あらゆるレベルにおいて、継続的成人教育の必要性を認識し、これを奨励すべきである。高齢者向けの大学教育というアイデアも考慮すべきである。  76.また、高齢化の過程について、一般市民を教育する必要もある。高齢化を自然な過程として十分に認識させるためには、このような教育を早い段階から始めなければならない。この点で、マスメディアの役割の重要性はいくら強調しても足りない。 勧告46  高齢化プロセスと高齢者自身のプラスの側面にスポットを当てるため、マスメディアによる協調的努力を行うべきである。この努力はとりわけ、以下を対象とすべきである。 (a) 現実的なニーズの判別・対処を目的とした、特に先進国および途上国農村部における高齢者の現状。 (b) 農村部における相対的な人口高齢化に対する移住(国内、国際を問わず)の影響、および、これら地域における農業生産と生活条件に対するその影響。 (c) 高齢者のための雇用機会を開発し、高齢労働者に労働条件を適応させる方法。これには、体力の限られた者が指定された職務を遂行するのを助ける簡単な機材および道具の開発あるいは提供が含まれうる。 (d) さまざまな文化と社会における教育の役割と高齢化に関する調査。 勧告47  国連教育科学文化機関(UNESCO)が制定した生涯教育の理念に従い、高43齢者に自立とコミュニティーでの責任の感覚を身につけさせるため、高齢者向けのインフォーマルな、コミュニティー・ベースの余暇志向プログラムを推進すべきである。こうしたプログラムは、各国政府および国際機関の支援を受けるべきである。 勧告48  政府および国際機関は、高齢者の余暇活動への参加拡大と、時間の創造的利用を奨励するため、高齢者の文化施設(美術館、劇場、オペラハウス、コンサートホール、映画館など)に対する物理的アクセスを容易にするためのプログラムを支援すべきである。さらに、文化センターに対しては、高齢者向けに、また、高齢者とともに、工芸、美術および音楽など、高齢者が聴衆と参加者の双方として積極的な役割を演じられる分野でのワークショップを開催するよう要請すべきである。 勧告49  政府、および、高齢化問題に関係する国際機関は、高齢化の過程と高齢者に関して、一般市民の教育をねらいとしたプログラムを発案すべきである。このような活動は、幼少期から開始し、正規の学校制度のあらゆるレベルを通じて続行すべきである。この関連で、幼少期から始まる個人の正常な発達および生涯教育の一側面として、高齢化というテーマをカリキュラムに含めることを奨励・促進する上での教育行政機関の役割と関与を強化し、この問題に関する知識を向上させるとともに、可能であれば、高齢化に対する現世代の画一的な態度を改善させるようにすべきである。こうしたプログラムの開発には、非正規のチャンネルとマスメディアも活用すべきである。マスメディアはまた、コミュニティーにおける社会、文化および教育活動への高齢者の参加を推進する手段としても活用すべきである。また、その逆に、高齢者あるいはその代表は、これら活動の考案と企画に関与すべきである。 勧告50  高齢者についてイメージの画一化がみられる場合、メディア、教育機関、政府、非政府組織および高齢者自身が、高齢者とは常に身体的・心理的障害を露呈し、独立した行動をとれず、社会に役割も地位も持たない44人々であるというような固定したイメージにとらわれないように努めるべきである。これらの努力は、世代統合型社会の達成に必要である。 勧告51  高齢者の生活のあらゆる側面に関する総合的な情報は、これらの人々にとって明確でわかりやすい形で提供されるべきである。 B.推進政策およびプログラム  77.「行動計画」の完全実施は、上記4.および5.で言及したすべての国際文書、戦略および計画の履行にかかっている。「行動計画」の枠組内の政策およびプログラムを推進する上で、社会開発・人道問題センター、国連人口基金、国連開発計画、開発技術協力局および地域委員会、専門機関、団体、ならびに、その他の政府間・非政府組織は、要請に応じ、すべての国々に最大限の援助を提供することが望まれる。高齢化の分野において存在する先進国・途上国間の技術協力の機会は、最大限に活用すべきである。1.データの収集と分析  78.高齢人口に関するデータ(センサス、調査あるいは人口統計制度を通じて収集したもの)は、高齢者のための政策およびプログラムを策定、適用および評価し、その開発プロセスへの統合を図るために不可欠である。  79.担当政府機関および団体は、現在の統計において「60歳以上」として大ざっぱに処理されてしまう年齢層について、一層詳細で、かつ、高齢者の発展および高齢者関連問題解決の計画策定に資するような情報ベースを開発すべきである。こうした情報ベースは、社会、年齢、機能および経済の面での分類などを行うことができよう。  80.世帯標本その他の調査、ならびに、その他の人口および関連社会経済統計は、高齢者のための政策およびプログラムを策定・実施する上で、重要なデータを提供する。  81.要請に応じ、すべての国に対して、国内の高齢者に関連するデータベースを開発あるいは改善するのに必要な技術援助、ならびに、これに関連するサービスおよび施設を提供すべきである。こうした援助は、データの収集、処理および分析のための方法論に関する訓練および研究を対象とすべきである。 勧告52  高齢者に関するデータを任意の分類システムに沿って開発し、性別、年齢、所得レベル、生活状況、健康状態、セルフケアの程度などの別に集計された情報を各国政府に提供することができよう。こうしたデータは、センサス、小規模あるいは試験的センサス、または、見本調査を通じて収集できよう。政府はこのために資源を配分することが望ましい。 勧告53  政府および関連機関は、高齢化に関するデータバンクなど、既存の情報交換手段の設置あるいは改良を行うべきである。 2.訓練と教育  82.高齢者の数と割合は劇的に増大しており、そのため、訓練の大幅な拡充が必要になっている。それには、該当する国及び地域の条件に適した国内・地域訓練プログラムと、国際的な訓練プログラムとを両立させた、二正面のアプローチが必要である。すべての世代、特に若年世代向けの教育・訓練政策およびプログラムを開発する際には、高齢者のニーズ、および、開発に対する高齢化の意味合いを考慮する必要がある。 勧告54  高齢者および高齢化の問題は学際的であるため、教育・訓練プログラムにも学際的な性質を持たせるべきである。高齢者と高齢化のさまざまな側面に関する教育と訓練は、高度に特化されたレベルに限定すべきでなく、あらゆるレベルで受けられるようにすべきである。高齢化の分野におけるさまざまな機能に関する訓練技能と教育要件について監督すべく努めるべきである。  83.高齢者人口に関し、類似のあるいは比較可能な構造および構成を有していたり、歴史、文化、言語その他の面で関係を持つ国々の間で、技能、知識および経験を共有することは、特に実りある国際協力の形態となろう。特定の技能と技術の移転に加え、高齢化に関連する幅広い慣行に関する経験を交換することもまた、開発途上国間の技術協力の一つの分野となりうる。先進国と途上国が隣接する地域では、訓練と研究に関して相互に学習し協力できる豊富な機会に恵まれており、これを積極的に活用すべきである。 勧告55  政府間機関および非政府組織は、高齢化の分野での人材養成を図るために必要な措置を講じるべきであるほか、特に高齢者自身を対象に、高齢化に関する情報の提供活動を強化すべきである。 勧告56  退職者および高齢者の団体は、こうした情報交換の計画および実施に関与すべきである。 勧告57  いくつかの勧告を実施するにあたっては、高齢化の分野で訓練を受けた人材が必要となる。適切な施設がすでに存在する場合には、実務訓練センターの設置を推進・奨励し、特に開発途上国からの人材を訓練し、さらに、それらの人材がその他の人々に訓練を施すことができるようにすべきである。これらのセンターはまた、更新・中間研修を提供するとともに、先進国・途上国間の実務的な橋渡し役を務めることになろう。適切な国連機関および施設との連携も考えられる。 勧告58  国内、地域および国際レベルで、高齢化問題の計画策定および政策形成・管理への統合支援のための研究と調査に、一層の注意を払うべきである。 勧告59  長寿学と老人病医学のあらゆる側面に関する訓練を奨励し、あらゆる教育プログラムの全レベルで、相応の重要性を与えるべきである。政府および権限ある当局は、新規あるいは既存の機関に対し、長寿学と老人病医学に関する適切な訓練に特別な注意を払うよう奨励することが求められる。 3.研究  84.「行動計画」は、高齢化の開発・人道面に関連する研究に高い優先度を置いている。研究活動は、 (a) 開発にとっての高齢化の意味合い、および、 (b) 高齢者のニーズに関する政策とプログラムを策定、評価および実施する上で重要である。資源の効率利用、機能低下、年齢関連の障害、病気および貧困の防止を含む社会・保健措置の改善、ならびに、中高年のケアに関わるサービスの調整を図るため、高齢化の社会、経済および健康面に関する研究を奨励すべきである。  85.研究によって得られた知識は、効果的な社会計画および高齢者の福祉改善の基盤健全化に対し、科学的な根拠を与える。例えば、(a)高齢化に関する知識と、高齢者の具体的ニーズに関する知識の間の大きなギャップを縮め、(b)高齢者に提供された資源のより効果的な利用を可能にするためには、一層の研究が必要である。新しい知識の発見から、その精力的でより迅速な応用と、文化的・社会的多様性を適切に考慮した技術知識の移転に至る研究の連続性を重視すべきである。 勧告60  地方、国内、地域および地球レベルにおいて、高齢化の開発的・人道的側面に関する研究を行うべきである。特に、生物学的、心理的、社会的分野における研究を奨励すべきである。すべての社会の普遍的関心事である基礎・応用研究の課題としては、以下のものがあげられる。 (a) 遺伝的・環境的要因の役割 (b) 生物学的、医学的、文化的、社会的および行動的要因の高齢化への影響 (c) 経済的・人口的要因(移住を含む)の社会計画への影響 (d) 高齢者のもつ技能、専門技術、知識および文化的可能性の活用 (e) 高齢化のマイナスの機能的影響を遅らせること (f) 高齢者に対する保健・社会サービス、および、協調プログラムの調査 (g) 訓練と教育 こうした研究は一般的に、国内および地域の状況に精通した研究者が、革新と普及のために必要な独立性を認められた上で計画・実施すべきである。国家、政府間機関および非政府組織は、高齢化一般に関連する政策の論理的基盤を築くため、高齢化の開発・人道側面に関する一層の研究と調査を実施し、この分野で協力し、研究結果を交換すべきである。 勧告61  国家、政府間機関および非政府組織は、長寿学、老人病医学および高齢者心理学を専門に教育する機関がない国々において、そうした機関の設立を奨励すべきである。 勧告62  将来の社会政策および行動に合理的な基盤を与えるため、国際交流と研究協力、および、データの収集を、高齢化に関連のあるすべての分野で推進すべきである。高齢化に関する比較調査と文化横断的調査を特に重視すべきである。学際的アプローチを強調すべきである。 ●●IV.実施勧告●●● A.政府の役割  86.「行動計画」の成否は、市民、特に高齢者の完全参加のための条件および広範な可能性を創出する政府の行動に大きくかかっている。このために、政府は、高齢化問題に一層の注意を傾けるとともに、退職者および高齢者団体を含む政府間機関および非政府組織によって提供される支援を十分に活用することが望ましい。  87.さまざまな社会、文化および地域における高齢化の状況については、異なるニーズと問題に反映されるように、幅広い多様性が存在するため、各国はそれぞれの国内戦略について決定し、「行動計画」内で自らの目標と優先課題を明らかにすべきである。適切な行動によってこれらの目標を達成し、これらの優先課題を実現するため、政府のあらゆるレベルで明確なコミットメントを行うべきである。  88.政府は、それぞれの国の政治、社会、文化、宗教および経済状況に鑑み、高齢化の開発に対する意味合いを判定するため、個人的および人口学的観点から高齢化の過程を評価することにより、「行動計画」に関し重要な役割を演じることができる。  89.「行動計画」実施のための国内政策および戦略の立案者は、中高年が同質的な集団ではないことを認識するとともに、生涯のさまざまな段階における中高年の広範な差異とニーズに敏感になるべきである。政府は、著しく不利な立場に置かれることの多い女性高齢者の運命を改善することに、特別な注意を払うべきである。  90.政府内での学際的・部門横断的機構の設立は、国内開発計画において高齢化の問題を考慮し、高齢者のニーズに相応の注意を向け、高齢者を社会に完全に統合することを図る上で、効果的な手段となりうる。  91.これらの行動は、その準備、実施およびフォローアップをさまざまな地政学的レベルで十分な調整を図ることにより、効果を増すことになろう。高齢者に直接関係する決定を下す際に高齢者自身の参加を確保するため、あらゆる部門で責任ある地位にある人々と、年金受給者および高齢者の代表との協力を通じた調整を図るべきである。したがって、国内レベルで対応する計画機関、プログラム策定機関および調整機関の設置を検討することが適切といえる。  92.一部の国においては、「行動計画」の目標がすでに、いくつか達成されているが、その達成が段階的にのみ可能な国もある。さらに、その性質自体により、他の措置よりも実施に時間がかかる措置もある。したがって、政府は、自らの資源と優先順位に鑑み、「行動計画」の実施を容易にする観点から、短期、中期および長期目標を設定することが望ましい。  93.政府は必要に応じ、「高齢化に関する世界会議」によって勧告された活動の計画、実施および評価を促進する態勢を整えるため、同世界会議準備のために国内レベルで設立された機構を適切な形態で維持(あるいはその設置を奨励)すべきである。 B.国際・地域協力の役割 1.地球的行動  94.とりわけ、新国際経済秩序の確立に関する行動計画、および、異なる社会制度を有する国家の平和共存に基づく「第3次国連開発の10年のための国際開発戦略」の実施に関する国際協力は、「行動計画」の目標達成に不可欠であり、政府間あるいは国連システムを活用した2国間あるいは多国間協力の形態を取りうる。こうした協力は、各国あるいは地域の要請に対応した直接援助(技術あるいは資金)、共同研究、または、情報および経験の交換という形で行うことができよう。  95.国連総会、経済社会理事会およびそのあらゆる適切な補助機関、特に社会開発委員会、国連開発計画管理理事会、ならびに、関係する専門機関および政府間機関の立法・政策立案機関は、「行動計画」を慎重に検討し、これについて適切な対応を確保することが望まれる。  96.国際経済社会局の社会開発・人道問題センターが高齢化に関する問題について国連システム内で果たしている役割に鑑み、この点での活動拠点としての役割を継続させるため、同センターを強化すべきである。このため、国連事務総長は、国連が有する既存の地球的資源の枠内で、主として国内レベルにおける「行動計画」の実施に用いる適切な資源の拡大に、相応の考慮を払うよう要請される。  97.行政調整委員会は、「行動計画」の実施に関する連絡と調整の継続の観点から、国連システムに対する「行動計画」の意味合いを検討すべきである。  98.高齢者に関連する分野での新しい指針を策定する必要性は、「行動計画」の実施との関係において、恒常的に検討の対象とすべきである。  99.政府、国内および地方の非政府ボランティア組織、ならびに、国際非政府組織は、「行動計画」の目標達成のための共同努力に参画することが望まれる。これらの機関は、高齢者との間で、その生活に影響する政策およびプログラムに関する協議を行うため、国内レベルでの定期的なコミュニケーション経路の確立を促進し、これを活用することにより、自らの活動を強化すべきである。政府はまた、高齢者および高齢化に関する事項を取り扱う国家および民間の機関を奨励し、可能な場合には、これを支援することが望まれる。  100.すべての国は、1981年11月9日の総会決議36/20に従い、国内の「高齢者デー」を指定するよう招請される。101.「高齢化に関する国際行動計画」を、「国際人口会議」(1984年)の準備を担当する適切な国連部局に通達し、その結論と勧告が、「世界人口行動計画」の一層の実施に関する提案の作成において考慮できるようにすべきである。 (a) 技術協力  102.国連、特に、国連開発計画と開発技術協力局は、専門機関とともに、「行動計画」の目標を支援する技術協力活動を実施すべきである。社会開発・人道問題センターは、このすべての活動を引き続き促進するとともに、これに実質的な支援を提供すべきである。  103.総会決議35/129によって設立された自発的な「高齢化に関する世界会議信託基金」は、総会の要請どおり、開発途上国、特に後発開発途上国で急増する高齢者のニーズに対応するために用いるべきである。公共および民間の自発的拠出金の支払いを奨励すべきである。信託基金の運営は、社会開発・人道問題センターが行うべきである。  104.さらに、総会が決議36/20で要請したところに従い、信託基金は、開発途上国における高齢化関連問題に対する関心を高め、これらの国々の政府の要請に応じ、各国が高齢者向けの政策およびプログラムを策定・実施するうえでの援助を行うために用いるべきである。同基金はまた、高齢化に関連する技術協力と研究、および、開発途上国間における関連情報・技術の交換に関する協力の促進にも用いるべきである。  105.高齢化は開発に影響を与え、また国際的な援助と協力の拡充を必要とする人口問題である。したがって、国連人口基金は、国際人口援助を担当するすべての組織と協力して、特に開発途上国で、この分野の援助を継続・強化することが望まれる。 (b) 情報と経験の交換  106.国際レベルでの情報と経験の交換は、進歩を刺激するとともに、高齢化の経済と社会に対する影響に対処し、高齢者のニーズを充足するための措置を講じることを奨励する効果的な手段である。異なる政治、経済および社会制度と文化を有し、異なる開発段階にある国々は、問題、困難および成果に関する共通の知識、ならびに、共同で作り上げた解決策から恩典を得ている。  107.会合およびセミナーを開催することは、情報と経験の地域的・国際的交換を行う上で、きわめて価値が高いことがわかっており、これを継続すべきである。その際、開発途上国間の技術協力促進と、「行動計画」の実施状況監視などを中心的課題をすることができよう。  108.社会開発・人道問題センターは、国連システム内の地域および小地域研究・開発センターの活動を調整し、広報資料の作成、および、高齢化と人材育成に関連する問題と政策に関する恒常的な情報交換を推進するとともに、関係する政府および地域との協力により、開発途上国間の技術協力に関連する活動を促進すべきである。  109.高齢化問題に関する情報交換については、標準化された定義、用語および研究方法を開発することが不可欠である。国連は相当の重きを置き、これらの問題を取り扱うべきである。  110.関連する国連機関は、政府および国際社会に対し、高齢者の状況を改善し、全体的な開発努力に対する高齢層の全面的かつ効果的な参加を可能にするため、それに必要な技能、訓練および機会を高齢者に与えるプログラム・プロジェクト・活動の開発に、特別な注意を払うよう促すべきである。高齢者の農業労働の継続を可能にする技術訓練コースには、特に留意すべきである。  111.「高齢化に関する国際行動計画」は、国連事務局内の「国際青年年」(1985年)担当部署に提出されるべきである。そして、この部署は、「高齢化に関する世界会議」の勧告および結論(特に世代間の問題に関連するため)について、国際青年年のためのアイデア開発に関係した各国の計画委員会の注意を喚起すべきである。 (c) 国際的指針の策定と実施  112.適切な組織が、高齢化問題に関連する既存の国際的指針および法律文書に関する調査を行い、その実効性を定期的に再検討することにより、現代世界の状況の変化とそれらの指針・文書の採択以降に得られた経験に照らして、その十分性を判定すべきである。 2.地域的行動  113.「行動計画」の効果的な実施には、地域レベルでの行動も必要である。地域的な任務を担うすべての機関は、「行動計画」の目標を再検討し、その実施に貢献することが求められる。この点で、中心的な役割は、国連の地域委員会が担うべきである。  114.上述の役割を遂行するために、地域委員会加盟国の政府は、自国の通常の活動プログラムにおいて高齢化問題への配慮を確保するよう、措置を講じるべきである。  115.さらに、上述の国際的再検討の実施との調整を図りながら、地域委員会は、地域的計画の定期的な再検討を行うべきである。 C.査定、再検討および評価  116.査定、評価および審査は、各国によって決定された間隔で、国内レベルで行うことが不可欠である。  117.地域的な評価と審査は、地域的行動の果たす特殊な役割、ならびに、地域的行動が訓練、研究および開発途上国間の技術協力などの分野で提供できる特定の利点に重点を置いて行われるべきである。  118.「行動計画」の実施状況を4年ごとに再検討し、必要に応じて行動計画の更新の提案を行う政府間機関として、社会開発委員会を指定すべきである。そこで出された結論は、経済社会理事会を通じて総会に提出し、その検討を求めるべきである。同委員会の作業を援助するため、「行動計画」の目標達成に向けた国連システムの内部での進捗状況に関して、定期的な報告を委員会に提出すべきである。社会開発・人道問題委員会は、このプロセスの調整役を務めるべきである。 高齢者のための国連原則 「高齢者のための国連原則」は1991年12月16日、国連総会によって採択された(決議46/91)。各国政府はできる限り、これを国内プログラムに盛り込むことを促された。原則の要点は以下のとおり。 ○自立(independence) 高齢者は、 ・所得、家族とコミュニティーの支援、および、自助を通じ、十分な食糧、水、住まい、衣服および医療へのアクセスを有するべきである。 ・労働の機会、あるいは、その他の所得創出機会へのアクセスを有するべきである。 ・労働力からの撤退をいつ、どのようなペースで行うかの決定に参加できるべきである。 ・適切な教育・訓練プログラムへのアクセスを有するべきである。 ・安全で、個人の嗜好と能力の変化に対応できる環境に住めるべきである。 ・できる限り長く自宅に住めるべきである。 ○参加(participation) 高齢者は、 ・社会への統合状態を持続し、その福祉に直接に影響する政策の形成と実施に積極的に参加し、その知識と技能を若年世代と共有すべきである。 ・コミュニティーに奉仕する機会を模索、発掘するとともに、その関心と能力に相応しい立場で、ボランティアの役割を務めることが可能となるべきである。 ・高齢者の運動あるいは団体を形成できるべきである。 ○介護(care) 高齢者は、 ・各社会の文化価値体系に沿って、家族とコミュニティーのケア、および、保護を享受すべきである。 ・最適レベルの身体的、精神的および感情的福祉の維持あるいは回復を助け、発病を防止あるいは遅延する医療へのアクセスを有するべきである。 ・その自立、保護およびケアを向上させる社会・法律サービスへのアクセスを有するべきである。 ・保護、リハビリ、および、人間的かつ安全な環境における社会的・精神的な刺激を提供する施設での適切なレベルのケアを利用できるべきである。 ・いかなる居住施設、ケアあるいは治療施設に住む場合でも、その尊厳、信条、ニーズおよびプライバシー、ならびに、その医療および生活の質に関する決定を行う権利の十分な尊重など、人権と基本的な自由を享受できるべきである。 ○自己実現(self‐fulfilment) 高齢者は、 ・その潜在能力を十分に開発する機会を追求できるべきである。 ・社会の教育、文化、精神およびレクリエーション資源にアクセスできるべきである。 ○尊厳(dignity) 高齢者は、 ・尊厳と安全の中で生活し、搾取および身体的あるいは精神的虐待を受けないでいられるべきである。 ・年齢、性別、人種あるいは民族的背景、障害あるいはその他の地位に関わらず、公正な取扱を受け、その経済的貢献に関係なく評価されるべきである。 高齢化に関する国際行動計画および高齢者のための国連原則 発行日:1999年11月 発行:国際連合広報センター 〒150‐0001 東京都渋谷区神宮前5−53−70 国連大学ビル8階  電話:(03)5467‐4451  FAX:(03)5467‐4455  UNIC home page : http://www.unic.or.jp 1,000KC・58 Published by the United Nations Department of Public Information DPI/932/Rev.1 -98-24545 -September 1998 -40M