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国連環境計画(UNEP) 加藤 登紀子 さん

今回ご紹介するのは、世界各地を訪問し環境問題に取り組んでいらっしゃる、国連環境計画(UNEP)親善大使の加藤登紀子さんです。地球の重要課題である環境問題に対して、ご自身の活動・経験を交え、熱いメッセージをいただきました。

un_interview_photoプロフィール

東京大学在学中にアマチュアシャンソンコンクールに優勝し1966年デビュー。以来シンガーソングライター、作詞家、作曲家として活躍。「ひとり寝の子守唄」など多くのヒット作を発表し、音楽のほかにも女優や声優としても活躍。WWFジャパン評議委員、UNEP(国連環境計画)親善大使(2000年に就任)など自然環境に関わる社会的活動もめざましい。千葉県鴨川市の「鴨川自然王国」を拠点として、若い世代とともに「農的生活」の研究実践を深めている。

 

― これまでに社会的な活動を幅広く行っていらっしゃいますが、環境問題に挑戦するきっかけとなったのは何ですか。

環境問題が気になるようになった直接的なきっかけは、1972年に最初の子供が生まれたことでした。当時の日本では農薬が大量に使われ、農薬による母乳汚染が問題となった頃でした。私が子供を生んで、母乳を飲ませなければならなくなったことが、環境問題に興味を持つきっかけだったと思います。そのとき、母乳は危険なのでミルクにした方がいいという意見がありました。私はどうしても母乳で育てたかったので、思い切って母乳を選んだわけですが、しばらくすると今度はミルクが危険だという意見も出ました。それから、体に振り掛けるパウダーや色々な物の中にも、不純物が入っていると言われるようになりました。ある日気がついたら子供の顔がアトピーで真っ赤だったので、ステロイド系の薬を使いましたが、次にその薬が非常に危険であると。色々なことにぶち当たるわけですよ。一人で生きているときにあまり感じないこともありますが、別の命を自分の責任において育てなければならないときになると、環境問題というのは肌で感じられるものになりますね。

― UNEPの親善大使に任命されたことで、初めて見えたことや感じられたことはありましたか。

写真提供:(株)トキコプラニング

写真提供:(株)トキコプラニング

2002年にUNEPの活動が始まりましたが、私は歌手としてたくさん旅をしていたので、2度目、3度目の訪問となる町が多かったです。最初に訪れたのはケニヤですが、ケニヤも2度目の訪問でした。旅行客としてではなく、UNEPの親善大使として訪れるようになった大きな違いの一つが、普通は行かない汚水処理所やごみの状態などを見る機会が多かったことです。人の生活の中で一番汚い部分ですね。それは環境問題の最も大事なところだと思います。もう一つは、アジアに関して言うと、スラムですね。都市のスラムを訪問することも多かったです。それは旅行気分できれいな景色だけ見て、おいしいものだけ食べて帰ってくるという旅行とは違って、本当にアジアの人々が抱えている環境問題というのをつぶさに見て歩くことになりました。それは私にとっては、すばらしく勉強になる旅でした。

― 訪問での経験も含め、今のCO2に関する取り組みはどう見られますか。

今年行ったツバルは、温暖化が原因で沈むと言われています。ツバルは本当に小さな国で、端から端まで1.5キロしかありません。しかし、一万人の人口に対して千台のバイクと百台の車があります。以前は、自転車が多くて、バイクや車はほとんどなかったわけですから、本当にバイクや車が必要かどうかを考えると、必要ではないと思います。しかし、ツバルが温暖化問題で注目されるようになると、先進国から色々な人が訪れ、援助金も増え、その結果、ツバルの人々の生活もグローバルなものと触れるようになりました。温暖化の観点から見れば、「昔のように自転車のままでいい」と思うのですが、先進国はバイクや車などを売りたいし、ツバルの人々はそういうものが欲しい。ですから結果的に、一方ではマーケット拡大を目指しながら、もう一方ではCO2削減の成果を形として、数字として欲しいという状況になるわけです。
このように、今ツバルで起きているような矛盾した状況の中、排出権取引という考え方が出てきました。その結果、これまで排出していなかったところは「ここまでは排出してもいいですよ」という権利を持つようになり、それをお金で取引することができるようになります。しかし、CO2を全体として早急に削減したければ、排出権取引の考え方自体は、まやかしと言える部分があると思います。森をお金に換えなければ生きていけないと思っているような貧しい国々にとっては、排出権取引することで森を守れるという利点も、確かにあると思いますが、先進国に有利な取引となれば、CO2を削減するという本来の目的に反し、結果的には環境を悪化させる要因になる恐れがあります。こういった意味では、CO2削減に対する真剣な取り組みは、まだ不十分な部分があると思います。

「本当の意味で効果に繋がる活動というのは、私が見る限りでは、このような地道な手作業ですね。」

― CO2やその他の環境問題への取り組みに、UNEPはどのように貢献できると感じられますか。

写真提供:(株)トキコプラニング

写真提供:(株)トキコプラニング

UNEPは研究機関なので、現地でアクションをすることはあまりありませんが、NGO等の活動を応援したり、推進したりしています。例えば、インドに行ったときに非常に面白いと思ったのが、単に生活をハイテク化するのではなく、手で行うローテク・システム等を少しだけハイテクにすること。例えば、多くのススを出し、たくさんの薪を使う釜をちょっとだけ効率のいい形に変えるというような活動ですね。
そのほか、ベトナムを訪問したときは、青年海外協力隊がベトナムを含め様々な国に行って、山岳に移り住んできた農民に「豚銀行」、つまり母豚を貸し出す活動をしていました。その母豚に子豚を産んでもらい、その豚を育てながら、豚を普及させていくのです。それから、豚から出てきた糞尿を使ってメタンガスを発生させ、農家で燃料の自給ができるようになります。そういうシステムを普及していくという活動です。本当に地道で小さなシステムですが、大きなダムを造ったり、電線を引っ張ったりしなくても、一軒一軒の家を少しずつ改良することでエネルギーが確保され、生活のための電気が使えます。本当の意味で効果に繋がる活動というのは、私が見る限りでは、このような地道な手作業ですね。一本ずつ木を植えたり、少しずつ生活を改良したりすることです。しかし、こういうのを実現するためには、政府やUNEPのような組織からのバックアップも必要だというのが、私の実感です。

― 今、環境問題に向けて、政府や国際社会からはどのような支援が望ましいと思いますか。

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写真提供:(株)トキコプラニング

お金の力でいきていくために、今はお金が掛かる時代です。そのため様々な国の資源がどんどんお金に換えられています。環境保護のためのODA等の海外支援をたくさん見てきましたが、新しい商品や技術を売るためにその地域の環境を守るような援助ではなく、そこに住んでいる人々の暮らしを維持していくことを目的とした支援を行うべきだと思います。私は、小規模のお金の援助が非常に大切だと思います。国家規模の支援は、大規模な援助が圧倒的に多いです。しかし、大きなビルや工場を建てることが、一軒の農家や一つの集落を応援することにはほとんど繋がらない場合が多いのです。ですから、小さい援助が、先進国から援助、環境のための援助として、絶対に必要だと思います。

「小規模な支援の形というのは、ローテクをちょっとハイテクにすること、一軒一軒の家を訪問して少しずつ改良していくことなどです。そういう地道な活動が非常に大切です。」

― 小さな規模の支援というのは、どのような形で行われるべきだと思いますか。

小規模な支援の形というのは、ローテクをちょっとハイテクにすること、一軒一軒の家を訪問して少しずつ改良していくことなどです。そういう地道な活動が非常に大切です。そういった活動をぜひ、環境のために、そしてアジア諸国を支援していくために、もっと広げていって欲しいと思います。
今、そのような小規模な支援活動のほとんどが、個人のボランティアが立ち上げたNGO等で行われています。
自分たちで一生懸命集めた資金で植林活動等を応援したりしていますが、このように1人、2人、10人といった小規模で、社会に貢献しようと活動している人たちの手によって守られてきたことがとても多いですし、重要な意味を持つ活動だと思います。ですから、国単位の援助も、そういう小さな活動を入れていくようにして欲しいというのが私の率直な意見ですね。

「農業が健全であれば、地球環境に大いに貢献すると思います。ですから、ぜひそれを実現させたいというのが私の夢ですね。」

― 今、日本国内ではどのような変化が望ましいと思いますか。

1つはフェアトレードの活動、そして直接の対話ですね。たとえば、農村から非常に安い値段で作物を買うことによって、その小さな農村地帯の生活は成り立たなくなり、人々がどんどん都市に流出していきます。そのようなことを防ぐために、ネットワークをたくさん作り、小さな農村が直接取引できる、フェアトレードを支援していくとよいと思います。日本国内でも、農村で作られた物を都市の人が直接買い、生産者は生活を維持していく、そういう消費の仕方をして欲しいですね。今、「できるだけ安いマーケットで買いたい」と言う消費者が多いかと思いますが、信頼できる農家の人々と繋がりを持って、生産を続けられるように価格を決めていくことが大事です。そういう意味でのフェアトレードは、日本の中にも必要だと思います。
また、日本には過疎化しつつある農村がたくさんあります。今までは、高齢者の方々によって支えられてきました。日本では、農地を守ろうという姿勢は強く、農地は守られてきました。しかし、耕されなくなり、開拓されてしまう農地もたくさんあります。ですから、耕地のまま残っていたり、過疎化して放置されていたりする土地は、素晴らしい農地に戻して欲しいです。日本は自然の豊かな国ですので、もっとバランスよく農業にも支えられる国であって欲しいです。そして、農村コミュニティを生き生きさせたいです。農地は微生物を育てますし、多種多様な生物が住む土は、CO2の大きな吸収源にもなります。農業が健全であれば、地球環境に大いに貢献すると思います。ですから、ぜひそれを実現させたいというのが私の夢ですね。

― 親善大使としてのメッセージとしては?

一人の人が頑張ったか頑張らなかったか、その人が居たか居なかったかによって、この森の存続が決まるというような例をたくさん見てきました。そのため、私たちの世界には確かに大きな流れがありますが、それに流されず、「自分たちが生きているうち、自分たちの力でできることがあるのだ」と思って、粘り強く自然を守っていく活動に皆さんに関わって欲しいです。それが私からの最大のお願いです。

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(インタビュアー:ダニエル・バート/写真:山口 裕朗)