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国連大学副学長 国連大学高等研究所所長 ゴヴィンダン・パライル 教授

今回ご紹介するのは、国連大学副学長および国連大学高等研究所所長として活躍されていらっしゃる、ゴヴィンダン・パライル教授です。持続的な社会のための科学技術革新に関する研究と支援活動を行っている教授から、皆さんにメッセージをいただきました。

プロフィール

2008年8月に国連大学の副学長に就任したゴヴィンダン・パライル教授(インド)は、2009年1月、国連大学高等研究所の所長に就任し、現在UNU副学長とUNU-IAS所長を兼任しています。パライル教授は、2004年からオスロ大学(ノルウェー)の技術・革新・文化センターにて科学・技術・革新そして持続可能性を専門に正教授を務め、2005年から2007年には研究室長および革新グループのリーダーを務めました。これに先立ち、シンガポール国立大学の情報通信マネジメントプログラムの代表および准教授(2001年~2004年)を、そして香港科技大学では科学・技術・社会学科の准教授(1994年~2001年)を務めました。その他にも、コーネル大学(米)、イリノイ工科大学(米)、レンセラー工科大学(米)、そしてスライマニヤ大学(イラク)などで教鞭をとってきました。

 

パライル先生は、現在、「持続可能な社会のための科学技術革新」に関する研究および支援活動を行っていらっしゃると伺いました。どのようにして、この分野に興味を持つようになったのですか?

私はインド出身で国籍もインドです。当初は国内でエンジニアとしての訓練を受け、その後アメリカで博士号を取得しました。その間に科学技術とイノベーションがいかに開発途上国の経済発展に恩恵をもたらすのかを学びました。さらに国連で働く前にはオスロ、シンガポール、香港や米国の大学において科学技術の分野を教える中で、科学技術が個人の福利を増やし、さらには社会全体の経済発展につながる点に注目するようになりました。そして豊かな国々の経済成長を支えてきた科学技術をいかに新興国や開発途上国で応用できるのか考えたときに、効果的に応用するための政策が必要であると感じました。このような経験から持続可能な社会のための科学技術革新の分野に足を踏み入れることとなりました。

パライル先生は、現在までに、北米や欧州、中東、アジアなど、世界の様々な地域で教鞭をとってこられました。このような経験が、現在のご自身にどのような影響を与えたと思われますか?記憶に残っているエピソード等お聞かせください。

記憶に残るエピソードはたくさんありますが数多くの国で生活し、学び、働いた経験を通してグローバル・シチズン(地球市民)とはいかなるものかを学びました。今まで様々な文化的価値観や社会的慣習が存在する先進国・開発途上国において学び、働いてきました。その経験は、現在国連というグローバルな機関で働くにあたって必要となる多様な文化や価値観への深い知識と理解につながっていると思います。また、科学技術を経済発展に応用するにあたり開発途上国が先進国から学べる点だけでなく、アジアの新興国や開発途上国の発展から先進国が学べる教訓は何かということに関心をもちました。つまり、こうした様々な国や地域の多様な観点や問題へのアプローチ方法による研究と先程述べたような文化経験は、国連において異なる背景を持つ人達の話を聞いて理解し、協調し、衝突の解決法を見出す能力に繋がっていると考えています。

パライル先生は、どのようにして国連に携るようになったのですか?また、いつごろから国連で働くということを意識し始めましたか?

小学校の頃から国連については、平和構築や戦争の無い世界を創るという基本的な働きについて学び、大きな感銘を受けた事は覚えていますが、実際には自分の将来の選択肢としては考えていませんでした。憧れはあったもののどうすれば働けるのかさえ知りませんでしたが、時が経ち学者として働くうちに仕事を通して国連・国連諸機関の方々とお会いする機会が増え次第に身近な存在になっていました。さらに大学で働くうちに、大学は教える、
アイデアを創造する、という点においては大変恵まれた環境ですが、アイデアを実際に現実社会で実現するという点においては必ずしも最適な環境ではないと気付いたのです。実現にはやはり実践的な活動を可能にする国連のような大規模なフォーラムが必要であると感じていました。そこで2007年の国連大学副学長の求人は、自分にぴったりのまたとない機会だったのです。

国連大学副学長として、パライル先生が中心となって進めていることについてお聞かせ下さい。

まず大きく分けて2種類の仕事をしています。1つは大学内の政策やプログラムを実行するために国連大学学長のアドバイザー・補佐役を務めています。2つ目は大学院教育の学務の担当をしています。

2つ目の任務に関して、ご存知のとおり国連大学は大学院でもありシンクタンクでもあります。研究以外にも論文の執筆や書籍の出版・販売を行っています。最近では世界各国から集まる優秀な学生のために国連大学独自の修士・博士課程プログラムを新設しました。そこでこれらのプログラムを軌道に乗せ、高水準を維持することが私の責務です。国連大学には学部・学科が無い代わりに諸問題に焦点を当てて研究しています。社会に存在する問題に学際的、つまり様々な視点や学問分野から取り組む努力をしています。従って従来の大学とはコース内容が大幅に異なるためにプログラムの内容を作り上げ、さらにその水準を維持し管理・運営することは大きな挑戦です。また大学院プログラムは大学本部ではなく各研究所によって運営されているため、研究所の大学院プログラム導入を手助けし、プログラムの発展に必要なサポートを提供しなければなりません。その発展のためには国際水準を満たすようなプログラムのいわゆる品質保証が大きな課題となります。すなわち、大学院プログラムの構築とその品質保証が、私にとってやりがいのある重要な任務なのです。

国連大学高等研究所所長として、パライル先生が現在取り組まれていることについてお聞かせ下さい。また、今後どのようなことに取り組もうとお考えですか?

国連大学高等研究所(UNU-IAS)は1996年に創立されました。主とした設立目的は、持続可能な開発のための政策立案の実現です。これは平たく言えば、持続可能な開発を前進させるための適切な政策を研究することです。

この研究所の設立は、1992年のリオ・地球環境サミットに端を発します。我々にとっての課題は自然環境の持続可能性を優先したインクルーシブな解決策を見つけることです。しかし、ここで忘れてはならないのが、開発途上国は国家の発展という大きなアジェンダを有しているということです。従って、開発・発展政策そのものが持続可能性を考慮したものであることが非常に重要です。現在の政策、とりわけ産業政策やエネルギー政策は大きな方向転換が必要です。そこで、研究所では主として「持続可能性に関する政策づくり」に取り組んでいます。最近では特に生物多様性に焦点を当てた環境と持続可能な発展に関するガバナンス分野での大学院プログラムも始めています。以上のような点が研究所にとっての挑戦であり、私の今後の優先事項でもあります。

東日本大震災により、以前にも増し、世界各国で自然との共存や持続可能な社会づくりが注目されるようになりました。「持続可能な社会のための科学技術革新」は、今後、世界において、特にどのような面で生かされるべきだとお考えですか?

まず我々人間は、何か新しい機関を設立したり科学技術を応用したりするときは、それらの行為がどのような結果をもたらすかを事前に知る術はないということに注意しなければなりません。核エネルギーであってもその他の持続可能なエネルギー供給方法であっても、リスクは付き物です。そこで私たちに求められることは行為の影響を最小限に抑え、防ぐと共に、影響に対して適応する能力のある社会を築くことです。今回の東日本大震災のような自然災害に対して日本だけでなく海外でも様々な専門機関が対策を施してきましたが、原子力のような新しい科学技術に関してはそのリスクへの対処法が確立していないのが現状です。自然災害も人的災害も社会のビジネス・流通・産業といった様々な分野に影響を及ぼすものであり、それぞれの分野がそれぞれの対処法を用意することが必要不可欠です。

国連大学の「持続可能な社会のための科学技術革新」研究としては社会的・経済的に持続可能なエネルギーシステムの考案が課題です。つまり核エネルギーを安全で持続可能な形で継続利用するとともに、風力・太陽光・水力・地熱などの再生可能エネルギーの導入に必要な政策の考案も並行して進める必要があります。さらに政策立案の課程では新技術に関する人々の意見を反映させる必要があります。すなわち過去の失敗から学び、社会の構成員の意見を聴き、政府や専門機関が適切な政策を考案するプロセスに貢献するべきだと考えています。また日本の里山・里海プロジェクトのような生物多様性保護に関しても、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)と国連大学高等研究所(UNU-IAS)が共同で、これら古くから存在する知恵や経験をどう今日に活かせるか研究しています。

最後に、国際協力・国際交流に興味を持つ日本人にメッセージをお願いします。

まず始めに強調したいのは、国連は働く場としてとても恵まれた環境だということです。当たり前のことですが、優れた人材が集まっていることは仕事環境の質を保っていく上では不可欠です。

日本や他の国々の大学を卒業した若者の皆さんには、国連での仕事を真剣に考えることを強くお勧めします。もちろん国連でのポストはどれも競争率が非常に高いですが、インターンや通訳というところから開ける道もありますし国連競争試験を受けて国連システムに入ることもできます。道は一つではありません。

国連は平和と地球規模の文化間・国家間の相互理解を維持できる唯一のグローバルな機関です。我々の歴史上の経験から生まれた独自の機関としてもっと広く認識されるべきで、我々はこの正の遺産をしっかりと守り強化していく努力をしていかなければいけなりません。今世界はグローバリゼーションの結果様々な挑戦を抱えており、紛争は耐えません。国連こそ現在アフリカの角で起きているような飢きんや、世界の様々な地域で勃発する紛争などの問題を解決していく可能性を秘めた機関なのです。

日本は国連システムの中で非常に重要な役割を果たしています。日本の貢献が継続し、今後さらに強化されることを切に願っています。

(インタビュアー:両角 正和/写真:山口 裕朗)

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