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保健出典「国連の基礎知識」

世界のほとんどの国で人々の寿命は延び、幼児死亡率が下がり、常時治療が受けられるようになった。多くの人々が基礎的な保健サービスや予防接種、きれいな飲料水や衛生施設を利用できるようになったのがその理由である。国連はこうした前進の多くに深く係わってきた。とくに開発途上国において保健サービスを支援し、基本的な医薬品を届け、都市の健全化を計り、緊急時に保健支援を提供し、感染症と闘ってきた。ミレニアム宣言は、各国が栄養、安全な飲料水の利用、妊産婦と子どもの健康、感染症の管理、基本的な医薬品の入手などの分野で2015年までに達成すべき目標を掲げている。

感染症による疾病や障害、死亡は大きな社会的、経済的影響を及ぼす。鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など、新たな疾病は、感染症の対策を緊急にとる必要を物語っている。しかし、ほとんどの感染症の原因と治療は知られており、ほとんどの場合病気や死亡は支払い可能な費用で回避できる。主要な感染症はHIV/エイズ、マラリア、結核である。その蔓延を防止し、減少させることが、主要なミレニアム開発目標の1つである。「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)」(www.theglobalfund.org)は、こうした努力に大きく貢献する。

HIV/エイズ対策ではかなりの進歩がみられた。国連合同エイズ計画(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS: UNAIDS)(www.unaids.org)の推定によると、2011年末現在、HIV感染者の数は3,400万人であった。世界的に見て新たに感染した人の数は250万人であった。2001年に比べて20パーセントの減少であった。新しい感染率は25か国で50パーセント以上も下がった。そうした国の13カ国がサハラ以南の地域の国々であった。800万人以上のHIV感染者は抗レトロウイルス療法を受けた。治療を受ける人の数は2009年以降に63パーセントも増えた。しかし、こうした進展にもかかわらず、HIV治療に値する推定700万の人々は依然として治療を受けていない。それにはウイルスに感染した子供の72パーセントも含まれる。2011年、世界で170万の人々がエイズ関連の病気が原因で死亡した。2005年に比べて24パーセントの減少であった。

UNAIDSは新たなHIV感染ゼロ、差別ゼロ、エイズ関連の死亡ゼロの構想を実現すべく、世界を先導している。UNAIDSは11の国連機関――UNHCR、ユニセフ、WFP、UNDP、UNFPA、UNDOC、UN-Women、ILO、UNESCO、WHO、そして世界銀行グループの努力を結びつけ、エイズ対策の成果を最大限にするためにグローバル、ナショナルのパートナーと緊密に協力する。

総会はそのHIV/エイズ・ハイレベル会合(2011年6月8-10日、ニューヨーク)で、「HIV/エイズに関する政治宣言:HIV/エイズを撤廃する努力を強化」を採択し、2015年までに野心的な目標を達成する措置を採ることを誓った。UNAIDSは宣言のもとに、集団行動を先導する目的で2015年までに達成すべき10項目の具体的な達成目標を設定した。

  • 性的交渉による感染を半減させる。
  • 注射器による薬物使用者のHIV感染を半減させる。
  • 子どもの新たな感染をなくし、エイズが原因で死亡する母親の数を大幅に減らす。
  • 1500万人の人々に抗レトロウィルス治療を実施する。
  • HIV感染者の結核による死亡を半減させる。
  • 世界のエイズ資金格差を埋め、低・中所得国に対する世界の年間投資額が220億ドルから240億ドルに達するようにする。
  • ジェンダーによる不平等やジェンダーに基づく虐待や暴力を撤廃し、女性や女子がHIV感染から身を守れるようにその能力を強化する。
  • すべての人権と基本的自由の完全な実現を目指す法律や政策を促進することによってHIV感染者やHIVの影響を受ける人々に対する社会的汚名や差別を撤廃する。
  • HIV感染者の入国、滞在、居住に対する制限を撤廃する。
  • HIVの取り組みのグローバルな保健・開発活動への統合を強化するHIV関連のサービスの並列システムを撤廃する。

何十年もの間、国連システムは病気との闘いで最前線に立ってきた。そのため、国連は健康問題の社会的側面に対処する政策やシステムを作り出した。国連児童基金(ユニセフ)は子どもと母親の健康に焦点を合わせ、国連人口基金(UNFPA)はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と家族計画の問題に取り組んでいる。病気に関するグローバルな活動を調整する専門機関は世界保健機関(WHO)(www.who.int)である。WHOはすべての人の健康を実現するという野心的な目標を定め、誰もがリプロダクティブ・ヘルスを利用できるようにし、パートナーシップを構築し、健全なライフスタイルと環境を促進してきた。

WHOは各種の歴史的業績の推進力であった。たとえば、1979年の天然痘根絶がある。これを達成するには10年に及ぶキャンペーンが必要であった。国連のもう1つの機関、FAOは2010年の牛疫の撲滅では影の推進者であった。この疾病は、2001年以来野外では検知されておらず、撲滅された最初の動物の疾病であった。牛疫の撲滅は、人間の天然痘の撲滅に続く世界で2番目に撲滅された病気である。

ロール・バック・マラリア(RBM)パートナーシップ(Roll Back Malaria(RBM) Partnership)」(www.rollbackmalaria.org)は、WHO、ユニセフ、UNDP、世界銀行が1998年に発足させた機関で、全世界的に調整された形でマラリアの問題に取り組む。それにはマラリア流行国、その二国間・多数国間開発パートナー、民間部門、NGOs、地域社会ベースの組織、財団、研究・学術機関が参加し、ともにマラリアが死亡の主要原因とならず、かつ経済社会開発の障害とならないような世界を作り出すことに努める。

ストップ結核パートナーシップ(Global Stop TB Partnership)」(www.stoptb.org)はWHOが進めるグローバルなイニシアチブで、政府、NGOと国際機関、公的部門や民間部門の援助機関など、およそ1,000以上のパートナーで構成される。2015年までに結核による死亡と流行を1990年のレベルから半減し、かつ2050年までにグローバルな健康問題から結核を取り除くことを目指す。

WHOはそのパートナーとともに1994年に南北両アメリカ陸から、2000年には西太平洋地域から、そして2002年にはヨーロッパ大陸からポリオを撲滅した。ポリオを完全に撲滅するグローバルな努力は現在も続けられている。「世界ポリオ撲滅イニシアチブ(Global Polio Eradication Initiative)」(www.polioeradication.org)が1988年に発足して以来、ポリオ患者数は99パーセント以上も減少し、その年の350,000人から2012年には223人にまで減少した。ポリオが残っている国は1988年の125カ国から2013年にはアフガニスタン、ナイジェリア、パキスタンの3カ国だけとなった。このイニシアチブを通して、世界の25億人以上の子どもたちがこの病気についての予防接種を受けた。予防接種が終了した際のポリオ撲滅から生じる公衆衛生部門の節約額は年間15億ドルにも達すると推定される。

もう1つの業績は、たばこの供給と消費を規制する画期的な公衆衛生条約の採択であった。世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」はたばこの課税、喫煙防止と治療、不正取引、広告、スポンサー行為とプロモーション、生産規制などについて規定したものである。枠組み条約は2003年にWHO加盟国の全会一致で採択され、2005年に拘束力のある国際法となった。条約は、喫煙に関連した病気を削減するグローバルな戦略の一環として採択された。毎年、たばこの喫煙が原因で500万人近くの人々が死んでいる。WHOはまた、肥満と闘う活動にも先導的な役割を果たしている。肥満はいまや世界的な健康上の問題で、毎年ますます多くの人々へ影響を与えるようになった。WHOの予測では、2015年までにおよそ23億人の成人が過体重の肥満人で、7億人以上の人々が肥満となるであろう。

1980年から1995年にかけて、ユニセフとWHOとの協同事業によって6つの殺人病、すなわちポリオ、破傷風、はしか、百日咳、ジフテリア、結核に対する予防接種率が5パーセントから80パーセントにまで引き上げられた。これによって年におよそ250万人の子どもたちの命が救われることになった。同じようなイニシアチブに「ワクチンと予防接種の世界同盟(Global Alliance for Vaccines and Immunization: GAVI)(www.gavialliance.org)がある。ビル&メリンダ・ゲイツ財団の初期基金をもとに1999年に発足したものである。2000年以来、GAVIの支援によってB型肝炎、ヘモフィルス・インフルエンザ型菌(Hib)感染症、百日咳に対する定期的な予防接種が行われ、また、はしか、ポリオ、黄熱に対して一回きりの予防接種が行われた。これによって540万人もの人々の命が救われた。世界同盟にはWHO、ユニセフ、世界銀行、民間セクターがパートナーとして参加している。

感染性疾患の領域でWHOが優先課題としていることは、グローバルなパートナーシップを通してマラリアや結核の影響を緩和すること、感染性の病気に対する監視、モニタリング、対応を強化すること、集中的かつ定期的な予防・管理を通して病気の影響を緩和すること、開発途上国が利用できるように新しい知識、治療介入の方法、実施戦略、研究能力を生み出すこと、である。WHOはまた、プライマリー・ヘルスケアの促進、基本的な医薬品の提供、健全な都市の建設、健康的なライフスタイルや環境の促進においても重要な役割を担っている。また、健康に関する緊急事態においても重要な役割を果たしている。

「2006-2015年 WHO- ユニセフ世界予防接種のビジョンと戦略(WHOD05929_UNICEF Global Immunization Vision and Strategy, 2006-2015)」は、世界のはしかによる死亡を2015年までに95パーセント減少させることを目指している。2012年、WHO麻疹風疹イニシアチブは「世界麻疹風疹戦略」を発足させた。これには2015年、2020年に達成すべき新しい世界目標が含まれている。WHOは何十年にもわたってマラリアと闘ってきた。WHOの推定によると、2011年から2020年にかけてマラリア対策に普遍的にアクセスできるようにするには毎年51億ドルが必要である。2011年に利用できる資金は23億ドルであった。

健康に関する研究のための原動力

健康についての研究を行うパートナーとともに、WHOはとくに開発途上国における現状とニーズに関するデータを集めている。これは遠く離れた熱帯林に固有の伝染病を研究することから遺伝子研究の進歩を監視することにまで及ぶ。WHOの熱帯病研究計画は、もっとも広く利用される薬品に対するマラリア寄生虫の抵抗力について研究し、熱帯性感染症の新しい治療薬や診断法の開発を進める。その研究は、国家および国際の感染症監視体制を改善したり、新しい病気の予防戦略を開発したりすることにも役立っている。

基準の設定

WHOは生物学的物質と薬学的物質について国際基準を設定する。WHOは、プライマリー・ヘルスケアの基本要因として「必須医薬品」の概念を発展させてきた。WHOは、各国と協力して、安全かつ効果の高い薬品をできる限りの最低価格で提供し、かつそれがもっとも効果的な方法で利用されるように努める。そのため、WHOはすべての健康問題の80パーセント以上の予防もしくは治療のために不可欠だと考えられるおよそ数百種の薬品とワクチンを載せた「モデル・リスト」を作成した。リストは2年ごとに改定される。WHOはまた、加盟国、市民社会、製薬産業と協力して、貧しい国や中所得国の優先的な健康問題の解決に必要な新しい必須医薬品を開発するととともに、既存の必須医薬品の生産を続けさせている。

国連に与えられた国際的なアクセスを通して、WHOはグローバルなレベルで感染症に関する情報を収集し、健康および病気の比較統計を編纂し、安全な食糧や生物学的製剤、医薬品の国際基準を設定している。また、ガンを作り出すリスクのある汚染物質を明らかにし、普遍的に受け入れられるHIV/エイズの予防や治療に関するガイダンスを作成した。