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保健出典「国連の基礎知識」

世界のほとんどの国で人々の寿命は延び、幼児死亡率が下がり、常時治療が受けられるようになった。多くの人々が基礎的な保健サービスや予防接種、きれいな飲料水や衛生施設を利用できるようになったのがその理由である。国連はこうした前進の多くに深く係わってきた。とくに開発途上国において保健サービスを支援し、基本的な医薬品を届け、都市の健全化を計り、緊急時に保健支援を提供し、感染症と闘ってきた。ミレニアム宣言は、各国が栄養、安全な飲料水の利用、妊産婦と子どもの健康、感染症の管理、基本的な医薬品の入手などの分野で2015年までに達成すべき目標を掲げている。

感染症による疾病や障害、死亡は大きな社会的、経済的影響を及ぼす。鳥インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)など、新たな疾病は、感染症の対策を緊急にとる必要を物語っている。しかし、ほとんどの感染症の原因と治療は知られており、ほとんどの場合病気や死亡は支払い可能な費用で回避できる。主要な感染症はHIV/エイズ、マラリア、結核である。その蔓延を防止し、減少させることが、主要なミレニアム開発目標の1つである。

何十年もの間、国連システムは病気との闘いで最前線に立ってきた。そのため、国連は健康問題の社会的側面に対処する政策やシステムを作り出してきた。国連児童基金(ユニセフ)は子どもと母親の健康に焦点を合わせ、国連人口基金(UNFPA)はリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)と家族計画の問題に取り組んでいる。病気に関するグローバルな活動を調整する専門機関に世界保健機関(WHO)(www.who.int)がある。WHOはすべての人の健康を実現するという野心的な目標を定め、誰もがリプロダクティブ・ヘルスを利用できるようにし、パートナーシップを構築し、健全なライフスタイルと環境を促進してきた。

WHOは各種の歴史的業績の推進力であった。たとえば、1979年の天然痘根絶がある。これを達成するには10年のキャンペーンが必要であった。また、1994年には、他のパートナーとともに、米州から小児麻痺を追放した。現在もポリオのない世界の実現に向けて努力を続けている。もう1つの国連機関、FAOは2010年10月の牛疫の撲滅では影の推進者であった。この疾病は、2001年以来屋外では検知されておらず、撲滅された最初の動物の疾病であった。牛疫の撲滅は、人間の天然痘の撲滅に続く世界で2番目に撲滅された病気である。

もう1つの業績は、たばこの供給と消費を規制する画期的な公衆衛生条約の採択であった。世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」はたばこの課税、喫煙防止と治療、不正取引、広告、スポンサー行為とプロモーション、生産規制などについて規定している。枠組み条約は2003年にWHO加盟国の全会一致で採択され、2005年に拘束力のある国際法となった。条約は、喫煙に関連した病気を削減するグローバルな戦略の一環として採択された。毎年、たばこの喫煙が原因で500万人近くの人々が死んでいる。WHOはまた、肥満と闘う活動にも先導的な役割を果たしている。肥満はいまや世界的な健康上の問題で、毎年ますます多くの人々へ影響を与えるようになった。2008年、5億人の肥満人口がいた。WHOの予測では、2015年までにおよそ23億人の人々が過体重の肥満人で、7億人以上の人々が肥満となる。

1980年から1995年にかけて、ユニセフとWHOとの協同事業によって6つの殺人病、すなわちポリオ、破傷風、はしか、百日咳、ジフテリア、結核に対する予防接種率が5パーセントから80パーセントにまで引き上げられた。これによって年におよそ250万人の子どもたちの命が救われることになった。同じようなイニシアチブに「ワクチンと予防接種の世界同盟(Global Alliance for Vaccines and Immunization: GAVI)(www.gavialliance.org)がある。2009年までに、GAVIの支援によってB型肝炎、ヘモフィルス・インフルエンザb型菌(Hib)感染症、百日咳の定期予防接種やはしか、ポリオ、黄熱の一回きりの予防接種が行われ、540万人もの人々の命が救われた。世界同盟はビル&メリンダ・ゲイツ財団の初期基金をもとに1999年に発足し、WHO、ユニセフ、世界銀行、民間セクターがパートナーとして参加している。

新しい、より効果的な治療法のお陰で、メジナ中症の発生は著しく減少し、また、多剤併用療法を自由に受けられるようになったお陰で、ハンセン病も克服されつつある。オンコセルカ症は、以前の流行地であった西アフリカの11カ国ではほとんど見られなくなった。これは何百万の人々に恩恵を与える成果であった。WHOは公衆衛生問題として象皮病の根絶を次の目標に定めている。

感染性の病気の領域でWHOが優先課題としていることは、グローバルなパートナーシップを通してマラリアや結核の影響を緩和すること、感染症に対する監視、モニタリング、対応を強化すること、集中的かつ定期的な予防・管理を通して病気の影響を緩和すること、開発途上国が利用できるように新しい知識、治療介入の方法、実施戦略、研究能力を生み出すこと、である。WHOはまた、プライマリー・ヘルスケアの促進、基本的な医薬品の提供、健全な都市の建設、健康的なライフスタイルや環境の促進においても重要な役割を担っている。また、エボラ出血熱の発生のように、健康に関する緊急事態においても重要な役割を果たしている。

「2006-2015年WHO-ユニセフ世界予防接種のビジョンと戦略(WHOUNICEF Global Immunization Vision and Strategy, 2006-2015)」は、世界のはしかによる死亡を2010年までに90パーセント、2015年までに95パーセント減少させることを目指している。1999年以来、およそ6億8,600万人の子供たちがこの計画のもとに予防接種を受け、430万人の子供たちの生命が救われた。WHOは何十年にもわたってマラリアと闘ってきた。2010年末までに、7億帳以上の殺虫処理済み蚊帳を配布し(その半数はアフリカで配布)、2億回以上の効果的治療、年間2億戸を対象とした屋内散布、年間15億回以上の診断検査を行うことを目指している。

健康に関する研究のための原動力

健康についての研究を行うパートナーとともに、WHOはとくに開発途上国における現状とニーズに関するデータを集めている。これは遠く離れた熱帯林に見られる伝染病を研究することから遺伝子研究の進歩を監視することにまで及ぶ。WHOの熱帯病研究計画は、もっとも広く利用される薬品に対するマラリア寄生虫の抵抗力について研究し、熱帯性感染症の新しい治療薬や診断法の開発を進める。その研究は、国家および国際の感染症監視体制を改善したり、新しい病気の予防戦略を開発したりすることにも役立っている。

基準の設定

WHOは生物学的物質と薬学的物質について国際基準を設定する。WHOは、プライマリー・ヘルスケアの基本要因として「必須医薬品」の概念を発展させてきた。

WHOは、各国と協力して、安全かつ効果の高い薬品をできる限りの最低価格で提供し、かつそれがもっとも効果的な方法で利用されるように努める。そのため、WHOはすべての健康問題の80パーセント以上の予防もしくは治療のために不可欠だと考えられるおよそ数百種の薬品とワクチンを載せた「モデル・リスト」を作成した。160カ国近くの国がそのリストを自国の事情に合わせて利用している。リストは2年ごとに改定される。WHOはまた、加盟国、市民社会、医薬品産業と協力して、貧しい国や中所得国の優先的な健康問題の解決に必要な新しい必須医薬品を開発するととともに、既存の必須医薬品の生産を続けさせている。

国連に与えられた国際的なアクセスを通して、WHOはグローバルなレベルで感染症に関する情報を収集し、健康および病気の比較統計を編纂し、安全な食糧や生物学的、薬学的製品の国際基準を設定している。また、ガンを作り出すリスクのある汚染物質を明らかにし、普遍的に受け入れられるHIV/エイズの予防や治療に関するガイダンスを作成した。

ポリオのない世界、実現間近

1988年に「世界ポリオ撲滅イニシアチブ(Global Polio Eradication Initiative)」(www.polioeradication.org)が発足したとき、世界には35万人のポリオ患者がいた。そして、五大陸の125カ国以上の国々で毎日1,000人以上の子どもたちがポリオにかかっていた。何百万という5歳以下の子どもたちに予防接種を行うという「全国予防接種デー」など、組織的なキャンペーンによって、2005年には1,951人、2009年には1,060人、2010年には767人と、その患者の数を引き下げることができた。ポリオが残っている国はアフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタンの4カ国だけであった。

今日、開発途上国では、予防接種を受けなければ肉体の麻痺が残ったであろうと思われる500万以上の人々がポリオの予防接種を受けたおかげで普通に歩いている。何万という公衆衛生員や何百万というボランティアが訓練を受けた。予防接種のための輸送・通信システムが強化された。22年前にこのイニシアチブが始まって以来、25億人以上の子どもたちが予防接種を受けた。

この運動が成功したのは、WHO、ユニセフ、米国疾病管理予防センター、ロータリー・インターナショナルの先導のもとに、保健のためにかつて見られなかったようなパートナーシップが生まれたからであった。民間からの最大の援助者として、ロータリーやビル&メリンダ・ゲイツ財団はこの活動に対してこれまで何億ドルもの寄付を行った。また各国の保健省、援助国政府、財団、企業、各界の名士、慈善家、保健要員やボランティアもこのキャンペーンに参加した。ポリオの撲滅によって予防接種が不要になると、公衆衛生予算の節約額は年に15億ドルにもなると推定される。

国連、HIV/エイズと闘う

エイズ関連の病気で死ぬ人の数が2004年以来19パーセント減少したが、これは抗レトロウィルス療法による延命効果やHIV予防キャンペーンや措置の成果の現れである、と国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2010年世界エイズ報告書(UNAIDS Report on the Global AIDS Epidemic, 2010)の中で述べられている。

世界のHIV感染者数は推定3,330万人であるが、新たな感染者数は減少傾向にあり、逆転している所もある。国連合同エイズ計画(United Nations Programme on HIV/AIDS: UNAIDS)(www.unaids.org)は、新たなHIV感染率に関しては、60カ国近くが安定もしくはかなりの減少を達成した、と報告した。このことはわれわれを勇気づけてくれる。2009年、120万人が初めて抗レトロウィルス療法を受けた。これはまた、1年間でこの治療を受けた人の数の30パーセントの増加である。もっとも感染率の高い国の15カ国の若者の間には、HIV感染率は25パーセント下がった。これは若者が安全な性慣行を採用したからであった。

貧しい国で500万人以上の人々が生命を救うエイズ薬品を入手することができたが、依然として入手できない人は1,000万人以上に上る。薬物使用者や性産業の従事者のような社会の主流から取り残された人々は、他の人々にくらべ支援を受ける可能性ははるかに低い。汚名、差別、悪法、こうしたことは依然としてHIV感染者や社会の底辺で生きる人々にとって障害となっている。他方、エイズによる死者の4人に1人は結核で死亡する。予防も治療も可能な病気である。サハラ以南のアフリカ諸国ではHIV感染やエイズは最悪の状態で、2009年にはエイズ関連の死亡者は130万人を数え、180万人が新たにHIVに感染した。

UNAIDSは、エイズの問題に世界的に取り組む先導機関で、10の国連機関のよる合同の活動である。すなわち、国際労働機関(ILO)、国連開発計画(UNDP)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国連人口基金(UNFPA)、国連難民高等弁務官(UNHCR)、国連児童基金(UNICEF)、国連薬物犯罪事務所(UNODC)、世界保健機関(WHO)、世界食糧計画(WFP)と世界銀行(World Bank)である。優先事業は、リーダーシップとアドボカシー、広報を開発すること、政策コミットメントの効果と国内の対応を評価すること、資源を動員すること、HIV感染者、市民社会、ハイリスク・グループ間のグローバル、地域、国レベルでのパートナーシップを促進することである。薬品会社と交渉して、開発途上国の医薬品の価格を下げさせ、また、開発途上国との共同で、だれでもHIV予防やケア、治療を受けられるようにする事業を支援している。

UNAIDSは、HIV/エイズに関する2001年の特別総会で重要な役割を果たした。特別総会では、「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」が採択された。また、「世界エイズ・キャンペーン」を管理し、「女性とエイズに関するグローバル連合」を発足させた。

2000年ミレニアム宣言では、世界のリーダーは2015年までにHIV/エイズのまん延を食い止め、その後減少させ、エイズによって孤児になった子供たちへ援助を提供すると決意した。1980年代初めにこの病気の流行が始まって以来、6,000万人以上の人々がHIVに感染し、3,000万人近くの人々がHIV関連の病気で死亡した。

マラリアと結核

WHOが進める「ロール・バック・マラリア(RBM)」(www.rollbackmalaria.org)イニシアチブは、2010年までにマラリアの世界負担を半減する目標を持つて1998年に発足した。その設立パートナー――UNDP,ユニセフ、世界銀行、世界保健機関――は、マラリアが死亡の主要原因とならず、また社会経済開発の障害にならないような世界の実現に努める。RBMパートナーシップは飛躍的に拡大し、マラリア流行国、2国間や多国間の開発パートナー、民間部門、非政府組織や地域社会ベースの組織、財団、研究・学術機関も含まれるようになった。

毎年200万人が結核(TB)が原因で死亡する。治療可能な病気である。「ストップ結核グローバル・パートナーシップ(Global“Stop TB” Partnership)」(www.stoptb.org)はWHOが進めるイニシアチブで、1,200以上の国際機関、国、公的部門や民間部門の援助機関、非政府組織や政府組織で構成する。それが2001年に「ストップ結核世界計画(Global Plan to Stop Tuberculosis)」となった。「直接監視下短期化学療法(Directly Observed Treatment, Short-course=DOTS)」として知られる保健戦略に基づいた5カ年計画である。

1995年から2009年までの15年間におよそ4,900万人の結核患者がDOTS戦略による治療を受けた。4,100万人が成功した。結核罹患率(10万人につき)は2004年にピークに達し、その後は毎年減少している。2009年までに、世界の死亡率は、1990年を基準として35パーセント減少した。過去15年間の成果を基づいて、「2011-2015年 ストップ結核世界計画」のDOTS部門は、どのようにしてTB対策を改善するか、より多くの結核患者を治療し、成功率を高めるかについて提示している。

「ストップ結核世界計画」は2015年までに結核の蔓延と死亡を1990年のレベルに比べて半減させることを目的としている。「エイズ、結核およびマラリアと闘うグローバルファンド(Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria)」(www.theglobalfund.org)は、こうした活動への主要な資金提供者である。